15.ハーレム・ハーレム!
「えーと、つまり、こういう事ですね……」
先ほどの過度な期待と緊張とは裏腹に、ダウナーな仁がいた。
一通り説明を受けた仁。体全体が沈み込むようなソファーに、小さくなって座っている。
「まず、あなた……えーと……」
「調整者のコトシロです」
「そう、コトシロさん。あなたはアルフレイ・ランドのコンピューターに繋がったサイボーグであると……」
オレンジ系のルージュを引いた唇に、柔らかい笑みを乗せるコトシロ。どこかで聞いたような名前。……天津神と戦った国津神のヤエコトシロヌシ。……は、関係ないか。
年齢は不詳だが、総合的に見て、二十代半ばの女性である。スタイルも悪くない。涼しげな声。口元に浮かぶ微笑みも、柔らかくて好ましかった。
どう見ても独裁者には見えない。ましてや、ライラさんのお父さんにも見えない。
「正確には、アルフレイ・ランドのスーパークラウドコンピューターの統括権を持ったコントローラーです」
右手を開くコトシロ。
その手は、人の手ではない。メタリックに冷たく輝く人工の物。剥き出しの指関節。マニピュレーターと呼ぶ方が実感が湧く。
樹脂製とも金属製ともとれるヘッドセット。下から伸びる黒髪は本物……本物っぽい。コトシロさんの方が長いけど、琴葉ちゃんによく似た髪質だ。
黒いバイザーが両目を覆っていて、目の表情が読めない。……目はあるのだろうか? 目のあるべき位置からコードが出てたら嫌だな。
そして鼻から下、細く尖った顎まで生身。首は樹脂製のハイネックで覆われている。
胴体は人の物だ。あの肌は、人工の物ではない。そんな肌をハイレグの薄い衣で隠している。
で、問題は両腕と両足。完全に機械。
肩間接なんかは剥き出し。あと、後頭部から二本伸びたオレンジ色のチューブが気になるところか……。ドレッドヘアではなさそうだ。
そんな半メカの人物が仁の前、小さなコンソールの脇に立ってる。
本物だとしたら、仁のメカフェチが目覚めようと、……もとい。それこそアルフレイ・ランドという国はいったい?
「じゃ、ライラさんは、独裁者のお子様ではないということに?」
「お言葉の理解に苦しみますが、ライラは実力で今の地位に就いた将校です」
「そうでしょう、そうでしょうとも!」
仁は話を誤魔化した。顔が赤くなっているのを静めるため、ジュースに手を伸ばした。
ミアの分も出ていたが、早々に飲み干し、今は仁の膝で眠りこけている。仁が喋るたび、ミアの尖った耳がヒクヒク動いている。眠りが浅いのだろう。
「で、琴葉を保護していると?」
さらに勘違いを亡き者とするため、話を無理に戻した。
「今はだめですが、条件がそろえば接見室に入ることができます」
そのあたりはライラに聞いた。ここの病院はエステ機能付きだ。琴葉は、ずいぶん余裕をぶっこいてくれている。
居眠りから目を覚ましたのか、膝の上でミアが大きな欠伸をした。
コトシロが細かく動かす指を目で追うミア。たぶん、コトシロもミアを気にいているのだろう。
「ミアちゃんというその幼体。良い名前をおつけになりましたね。金獣の言葉で『小さな女の子』という意味なのですよ。性的な意味で」
「だめじゃん、それ!」
あれ? ということは……。
「コトシロさん金獣の言葉を話せるんですか?」
「当然。わたくしはアルフレイ・ランドのコントローラーです。言って聞くような存在ではありませんが、金獣もわたくしの支配下……に形式上あるのですけれども、困ったものです」
顎に人差し指を当て、小首を傾げるコトシロ。
そりゃ確かに困るでしょう。
「ミアちゃんの首輪に付いている飾りですが……」
言葉を句切ったコトシロさんが、含み笑いをする。
「私ミアちゃん、よろしくね」
ミアが喋った。
いやいやいや、ミアの喉元、首輪から声が聞こえた。
当のミアが一番びっくりしている。二本足立になって目を丸くしている。
「名目上は金獣の幼体の監視なのですが、首輪には、簡単な位置発信器とスピーカーを仕込んでいます。これで迷子になっても位置が特定できます。ミアちゃん、迷子になったら困るもんねー」
それは便利だが、コトシロさん、意外とファンキー。子供が好きなんだなー。
仁の顔が少しにやける。
――いかんいかん、話がそれた。ライラさんが変な顔をして、こっちを見てる。
仁は、咳払いを一つして話を元に戻した。
「で、次にこの国というか、地域なんですが、……アルフレイ・ランドは、コトシロさん達がチキュウと呼ぶ惑星最大の大陸なんですよね?」
アルフレイ・ランド。アルフレイ国という意味だろうが、……仁の記憶に、アルフレイなんて国も大陸もない。
「そうそう、百聞は一見にしかず。地図をご覧ください」
コトシロが壁に顔を向ける。埋め込まれた横長のディスプレイが輝きだす。浮き上がってきた画像はアルフレイを中心としたモルワイデ図法。衛星写真が元になってる。
デフォルメされたタツノオトシゴというか、腰をひねったカブトムシのメスというか……。
それがアルフレイ大陸。
大陸というより、大きい島と言った方が良いかもしれない。
陸において面積が広いグループを大陸と定義するならば、アルフレイ・ランドは大陸だ。
そんな図形が南半球に一つ。
で、その自称大陸以外は全て青色。つまり海。両極も青。白いのが無い。
ちょこっと離れた西の方に、子供が書いたびっくりマークのような陸がある。その向こうは芥子粒のような点々がまばらにあるのみ。
「なるほど」
頷く仁。――あの超常現象が原因だ。ここは地球じゃない。いわゆるパラレルワールド。水の量がハンパねぇ。
そして次が、ある意味一番肝心な話。パラレルワールド説を冷静に聞けた理由なのであった。
いよいよ、アルフレイランドの謎が明かされる!
クレアさんやライラさんの謎が明らかに!(煽っているつもり)
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まもなく作者の真心が付いてきます!