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Bloody Bless  作者: 館長さん
第1章:北方第6前線基地編

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第4話:一人はみんなのために、みんなは一人のために②

 物質化・再生のために莫大なエネルギーを放つその核は、センサーにとっては明るすぎる太陽と同じである。強烈な放射が観測機器を飽和させ、正確な位置を隠蔽してしまう。結局、MA(マシーナリィアーマー)が物理的に肉を削ぎ落とし、その器官を視覚的に捉えるまで、とどめを刺すことはできない。


 だが、モニターに映るバジリスクたちは、作戦室(ブリーフィングルーム)で見た資料映像よりも、明らかに痩せこけていた。毒を生成し続けるためにエネルギーを使い果たしたのか、あるいは厚く垂れ込めた雲が日光を遮っているせいか。奴らの再生能力は、自らの身体を維持する最低限のラインすら割り込んでいるようだった。


 本来なら厚い筋肉の層に守られているはずの皇核胞(おうかくほう)が、脈動する不気味な肉塊となって剥き出しになっている。


 攻撃力こそ高いが、防御は無きに等しい。おまけに動きまで緩慢だ。大型や中型が相手なら、その一手間に予備の弾倉を一つ使い切ることも珍しくないが、今の奴らならどんな武装でも簡単に核を貫ける。


 この剥き出しの太陽を叩き潰す絶好の機会。今の俺たちにとって、これ以上の幸運はないはずだった。


『“ドルフィン”、これは罠だったりしないよな? そうじゃないなら、ボーナスステージだぜ! 金ピカのペンキを塗った甲斐があった、ってな! “ハンマーヘッド”、Silence(戦闘)-Break(開始)!』


 リュオンのギガントが、背部に増設されたバーニアを噴かし、嬉々として中和剤の霧を撒きながら突進していく。


 標的は一番近い中型。彼のギガントはニードルガンを乱射して敵の前足を地面に縫い付けると、右腕のストライクパイルをその剥き出しの皇核胞(おうかくほう)へと叩き込んだ。トカゲの背中が爆ぜ、下のアスファルトごと打ち砕く。爆発にも似た破砕音が一帯に響いた。


『まずは一匹! どうだ!』


 中型バジリスクの巨体が泥沼へと崩れ落ち、そのまま物言わぬ肉塊となった。蒸気を上げながら、巨体がみるみる萎む。


 MA(マシーナリィアーマー)を一回り上回る巨体は、あっという間に変異前の小さなトカゲへと姿を変えていった。全長十センチメートルにも満たない屍は、毒沼に沈んで見えなくなってしまう。


 ……。


 …………。


 どうやら、本当になにもないらしい。再生を始める様子も無ければ、自爆したりするような兆候も、さらなる毒を撒き散らすような兆候も無い。どう見ても、撃破完了である。


「よし、“ノーチラス”は随伴し、周囲の警戒と歩兵部隊の進行ルート確保を。“オウカ”はこの場で援護射撃を頼む。俺も行くか……おい“ハンマーヘッド”、あまり先行しすぎるな! まだ大型がどこかに潜んでいるんだぞ! “ドルフィン”、Silence(戦闘)-Break(開始)!」


 そうと分かれば、躊躇する必要はどこにもない。俺もリュオンに倣ってカットラスを抜き放ち、中和剤を噴霧しながら残りの個体へと肉薄する。


 本来なら皇核胞(おうかくほう)を探り当てるための無駄な一撃を何度も繰り返すか、時間をかけてリルに解析させねばならないはずが、今日は違う。吸い込まれるように、俺の刃も中型の脇腹に露出した赤い核を捉えた。


 確かな手応え。やはり、再生の兆候はない。二体、三体と、俺たちはどんどん掃除を進めていく。毒は確かに強烈で、油断のできない相手ではあったが、あまりにも呆気ない幕切れであった。


『状況、予定より大幅に良好。作戦を次の段階へ移行する』


 クローディアの声も、珍しくわずかに弾んでいるように聞こえた。


 中型五体の完全排除。毒沼の中和完了。目標施設正面までの道は、白濁した泥の道として、いま完璧に整えられていた。


「あとは、待機中の歩兵部隊を出すだけか。建物の正面を固めるぞ」


 俺はトリオンを歩進させ、目標地点へと向かう。


 中和剤による蒸気が晴れ、白亜の施設がその全貌を現した。敵影はない。静かなものだ。


 ――勝った。誰もがそう確信し、緊張の糸がわずかに緩む。


 まるで、それを見計らっていたかのようなタイミングであった。建物の構造材が、悲鳴を上げるかのように軋む。


 不自然な振動。


 微かな違和感。


『待てよ。何か聞こえないか? 上……?』


 リュオンに釣られて、メインカメラを屋上へ向ける。


 それは、巨大な鉤爪であった。施設の裏側から伸びた巨大な指が、屋上の縁を掴んでいる。ゆっくりと、建物を抱きかかえるようにして、そいつは施設の裏側から這い出してきた。


 十五メートル級。大型バジリスク。


 ヤモリのような不気味な機動力で、垂直な壁面に張り付いたまま正面へと回り込んでくる巨躯。感情が読み取れない、ガラス玉のような瞳が、こちらを静かに見下ろしていた。


 皇核胞(おうかくほう)は――ある。というか、見えている。やはり体躯は痩せこけており、神官が陣地の形成を焦ったが故に、力を使い過ぎているのだろう。大型バジリスクの喉元には、やはり一際大きな腫瘍にも似た器官が脈動していた。


 その喉元の肉が、不自然なまでに大きく膨らむ。急速に、毒液が充填されていく……!


『うおおおっ!?』


 余裕の消え失せた声とは裏腹に、リュオンの行動は速かった。考えるよりも先に動いたギガントの左手が、ニードルガンの照準を敵の皇核胞(おうかくほう)に合わせる。


「何を考えている、下がるぞ!」


『何でだよ、くそっ!』


 文句を言いながらも銃口を下ろし、バーニアを噴かすギガント。俺と、無言で後ろに付き従っていたリルのトリオンも、踵の車輪を下ろした高機動モードでバック走を決め込む。


 接地した大径タイヤが濡れた路面を猛然と掻き、急加速のGがシートに俺の体を深く押し付けた。駆動音と共にコクピットが激しく震え、後方へ逃れる機体を追うように、足元から巻き上がったゴムの白煙がモニターの端を掠めていく。


 直後、俺たちが立っていた場所は、禍々しい紫の毒液に飲み込まれていた。


 吐き散らされた毒沼であれ程の腐食性能があるのだ。直撃なんてもらったら、いくら応急的な耐食コーティングが施されているとしても、防ぎ切れないだろう。


 あと一瞬、気づくのが遅れていたら、俺たちは全滅していたかもしれない。


『“ドルフィン”、どうして止めたんだ! 倒すチャンスだったんだぞ!』


「いや、よく思いとどまってくれた。成長したな、“ハンマーヘッド”……お前はあの角度から撃って、皇核胞(おうかくほう)だけを破壊できると思ったか?」


『うっ、それは……』


 俺の指摘に、リュオンが口ごもる。


 つまり、こういうことだ。あの巨大トカゲが壁面に張り付いている医療施設の中には、敵国の神官だけでなく“逃げ遅れた人質”もいるのである。


 バジリスクは施設を過度に破壊しないよう、慎重に動いているように見える。おそらく操っている神官の指示だろう。彼とて施設が倒壊してしまえば、自分が生き埋めになってしまうのだから。


 だというのに、どこに人質がいるかも分からない施設にこちらが被害を出してしまっては、本末転倒も甚だしい。リュオンがトリガーを引いてしまっていたら、その時点で命を失っていた者がいたかもしれない。

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