プロローグ 後編
―———どれだけの時間が経ったのだろうか。
私は森の中をずっと真っすぐに進んでいるわけなのだけど――――。
「・・・・・・これ、もしかして森の中のほうに進んでる可能性あるかも・・・」
一向に見えない森の出口に私はそんなことを考えた。
かれこれ半日は歩いているのではないだろうか。
昼間は光に当てられ森の中は明るかったのだけど・・・今はそんな光なんてほとんど存在せず、かなり暗い。
正直、しっかりとまっすぐ進んでいるのかもわからないぐらいだ。
「流石に餓死とかで死ぬのは避けたいな、まぁ正確には死にはしないんだけど・・・」
死なないとしても、その苦しみというのは感じるわけで・・・
普通に刺されたり、落下で死んだりする場合は、その傷ついた部分がいつの間にかに治って痛みも引いていく、
だけど餓死の場合はその極限の空腹の苦しみが消えることはない。
昔、それで一度本気で生き地獄というのを感じた。
・・・あんな思いは本当にしたくない。
そのためできる限りこの森から抜けるか、
食べられるものを見つけるぐらいはしたい。
「まぁ、森を抜けたとしても何かしたいとかないからあんまり意味がないかもだけど・・・」
そうだとしても今の心境としては森から出たいわけだから、
出口を探しているわけだけど・・・
「・・・・・・出られる気配、しないなぁ」
と、そんな弱音のようなものをぽつりと告げた瞬間だった。
「そこを動かないでください、魔族」
それは・・・背後から聞こえてきた声だった。
私はその静止の言葉を無視してそちらへと視線を向ける。
「・・・・・・人?なんでこの世界に・・・」
流石に驚いた。
だって・・・そこにいるのは確実に人の形をした生命体なのだから。
「う、動かないでと言いましたよね?次・・・私の言葉を無視したら本気で殺しますよ」
・・・何やらその少女は私に何か言っているようだけど、
はっきり言って頭に入ってこなかった。
どうしてここに人間がいるのだろうか?
それも・・・この子が着ている服。
確か教会の修道女が着るシスターの服だっけ。
・・・おかしいのだ。
この世界は何十年前の戦争で滅亡した。
その時に人間も一緒に絶滅したはずなのだ。
だからこそ、今この場で人間がいるのがおかしい。
それも、見た目からして十歳は余裕で超えている・・・
というか、そもそもとしてこの森は何なのだ?
死んだ大地が何十年の期間に生き返ることなんてあるのだろうか?
考えれば考えるほど、おかしいものなのだと理解していく。
「・・・・・・何を考えているのかわかりませんが・・・そのまま動かず投降してください、そうすれば私もあなたに危害を加えませんので」
目の前のシスター服の少女はそう言いながらじりじりと私へと近づいてくる。
「・・・少しだけ、聞いても良い?」
その私の言葉にシスター服の少女は少しだけ考えているのだろうか、
少し間が空いた後、「わかりました」と返してくれた。
というわけで私はその疑問を彼女にぶつけてみることにする。
「あなたは・・・人間ってことであってる?」
「・・・・・・?当然です、だからこそ私は魔族であるあなたを捕えようとしているんですよ」
彼女の様子からして特に嘘や演技をしているような感じはない。
なぜ生きているのかは知らないけど・・・彼女は人間ではあるらしい。
「・・・ならその魔族っていうものって何?少なからず私は自分をその魔族?だとは思ってない」
そんな私の疑問に、
目の前の少女は少しだけ表情が変わる。
「あなたは・・・自分たちがした罪をお認めにならないと・・・だからあなたは自分自身を魔族ではない、私たちと同じ人間だと言いたいのですか?」
・・・何やら彼女の逆鱗にでも触れてしまったのだろうか。
周囲の雰囲気が重くなる。
ただ・・・私としても見覚えもない冤罪で責められて引くに引くわけにはいかない。
「見覚えのない罪を私に着せないでくれる?私はその魔族って人じゃないし、一応は人間」
確実に人間と言えないのがあれだけど・・・
だとしても、その魔族ではないというのは確かではある。
「・・・・・・わかりました、あなたは自身の罪を認めないのですね・・・あまり『メリシア教』の方針では強制というのはよろしくないのですが」
そう言いながら、どこからか、そのシスターの少女は杖のようなものを取り出した。
その杖は昔、本で見たことがある魔法の杖のような見た目をしている。
少女の様子からしてもう強硬手段を取ろうとしているのだろう。
杖の見た目はともかく、
その杖で私のことを殴って気絶でもさせようとしているのだろうか。
と、私がそんな呑気に考えていた時だった。
『光聖』
何やらそんな言葉を呟いた瞬間だった。
シスターの少女が持っている杖の先端に光が集まってくる。
そしてその杖に溜まった光は次の瞬間、
光は徐々に球体のような形になると、
突然、私めがけて飛んでくる。
「え・・・ちょっ」
どういう理屈か、飛んできた光をほとんど反射的に避ける。
その光は私を避けた後、そのまま後ろにあった木に激突する。
直撃した瞬間、その木は完全に折れて倒れた。
「え?どんな威力して・・・・・」
「・・・・・・避けましたか、だとしたら何度でも・・・」
私の言葉を遮るようにして、シスターの少女は次々に私めがけてその光を飛ばしてくる。
息つく暇もなく飛ばしてくる光の球に私は避けるので精いっぱいだった。
・・・ほんと、原理はともかく、
当たれば普通に死んでしまうような威力をしている。
「—————あっ」
思えば、なんで私、攻撃を避ける必要があるのだろうか。
私は死にたいというのに・・・・・・
―——そう思った瞬間、先ほどまでただただ危険だと思っていたものも、希望の塊にしか見えなくなってきた。
期待しても・・・いいよね?
ここ数千年生きてきて・・・一度も見たことのない力。
私の不死の力と彼女の未知の力。
どちらが勝つのかも、負けるのかもわからない。
だったら・・・少しでも可能性があるのなら・・・期待してもいいだろう。
そして・・・そして・・・・そして。
次の瞬間、私はその光の球にぶつかりにいって・・・・・・
私はその様子を見て一息ついていた。
あのまま避け続けられていた場合、じり貧になって私が殺されていたことだろう。
そう考えたら全身が恐怖心からか、少し身震いをしてしまう。
最期の攻撃、相手の魔族からわざと当たりに行こうとしてたみたいだけど・・・多分気のせいですよね?
「・・・・・・さて、それじゃあ魔族の死体を回収して・・・」
そんな時だった。
私の目の前ではありえない光景が広がった。
「あ、あなた・・・どうして・・・・・・」
「・・・あーあ、結局死ねなかったなぁ・・・今回は期待してたのに」
私が殺したはずの魔族が・・・
『光聖』によって腹を貫いたはずだった。
普通ならいくら魔族だとしても死んでしまうようなものだった。
何になんで?
なんで目の前の魔族は普通に立ち上がって・・・それも会話ができているの?
「訳が分からないって様子だね、まぁ無理もないかな・・・」
心の中を悟ったように、目の前の魔族はそう私の思っていることを当ててくる。
「・・・・・・どうしてか聞いても?」
「別に、ただ私は不死なだけ・・・それこそ何をしても死なないくらいの」
さらりと言葉にする魔族に私は少し疑いを向ける。
不死?そんなことがあるのだろうか。
この世界でもそんな力を持った異能者を見たことはない。
ただ・・・そうでなければ私のあの『光聖』を喰らって死んでいたはずの存在が今生きている説明になる。
「・・・・・・つまりあなたは『不死』の異能者ってことですか?」
「ねぇ、ずっと思っているんだけど・・・その異能者だか魔族って何?少なくとも私は知らない」
「・・・どういうことですか?記憶喪失ってものですか?」
「違う、そもそもの前提として、この世界は滅んだ・・・人類は滅亡しているはず」
「何を言ってるんですか?この世界は数百年前に一度、ある存在によって滅びかけて以来、そんなことはないです、そもそもとして人類は滅亡なんてしてません・・・言い方は悪いですが、大量にいますよ?」
「・・・・・・え?そんなはずがない、私は実際に世界が滅んでいく様子を見ていた、人類が滅んでいくのも」
互いに互いの言葉を否定する。
話が一切かみ合わない。
―——そんな会話を続けていく内に・・・
私はたった一つの可能性が頭の中に浮かんできてしまった。
だから・・・その可能性を確かめるためにも、
私は一つ、質問することにする。
「・・・・・・ねぇ、この世界って今何年?というより何世紀?」
いきなりの質問にシスターの少女は少し困惑をしながらも答える。
「えっと・・・確か今は紀生歴2098年とかでしたが・・・・・」
その衝撃の言葉に私は、
「・・・・・やっぱり、ここ・・・私の知ってる世界じゃない」
と、そんなことをぽつりとつぶやいてしまうのだった――――――。
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