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 クラリスはファイフ公爵邸にて数日間は怠惰な生活を送っていた。

使用人らしき人が食事を運んできて、それを食べ、少し部屋の中を探索し、(やりすぎるとクロスに怪しまれるのでほどほどに)眠気が来たら寝台に背を預け、眠った。


「なんていい人たちなのでしょうか」


 クラリスは自分の記憶がない不安よりも、現在、ここまで親切に、優しく接してくれる使用人や、表向きは何を考えているかわからないクロスだがここまで良くしてくれることを考えると彼も“悪い人ではない”と考え、感謝した。


 今日からはクラリスも使用人として働くことになった。

使用人長であるマアナはやや吊り目の漆黒の瞳でじろりとクラリスを見下ろす。その佇まいは、クラリスを歓迎していないように最初は思ったがそうではないようだった。

 彼女は淡々としているが、皆にそういう態度で接している。長年使用人長を務めているようだったので、使用人の長となればそのくらいでなければならないのだと思った。


 使用人専用の黒と白をベースにしたワンピースに、白いカチューシャをして、髪はポニーテールで結ぶ。

早速、マアナの指示のもと、使用人として主に清掃を担当した。

庭の手入れや、屋敷内の清掃だけでも一日かかる。それほど、この屋敷は広かった。

 意外と使用人のスキルが自分にはあると悟ったのは、ペアになって一緒に仕事をしてくれたスイという少女が

『すっごーい!私よりテキパキしてるね?やっぱり使用人元々やってたんだろうね』

と褒めてくれたのだ。謙遜でもなく、本心でそう言ってくれたように感じる。

 記憶を失う前はどこかの貴族の使用人をしていたのだと思った。


 スイは、ピンクブラウンの髪を揺らして愛らしい顔立ちを向けながら、「明日からもよろしくね!クラリスと一緒にいると仕事が早く終わっていいよ~」と言ってくれた。

スイは、愛らしい顔立ちとは裏腹に、意外と情報通でこの屋敷を仕切っているクロスについても色々と教えてくれた。

この屋敷を仕切るのは次期公爵であるクロスという男だということ、クロスの父が病気を患い、地方の別邸にて療養中であること、それもありクロスが結婚相手を急いで決めなければいけないということを聞いた。

クラリスはそう言った経緯を聞いても、へぇ、そうなのね、と軽い返事をした。正直に言えば、それほどクロスのことは興味がなかったのだが、雇い主になるかもしれないからスイからはたくさんのことを教えてもらった。

 クロスは、理由は不明だが素顔を見せないようで、使用人や側近ですらその素顔を最後に見たのは幼少期だったようだ。

見たいよね、どんな顔何だろう、とスイがいっていたが、クラリスは全く興味が湧かない。


『顔に傷があるとか、醜いとかいろんな噂があるんだけど、どうなんだろうね。私は、顔に傷が出来てしまったから隠してるんだと思うの。ここで長く働いている人が前にクロス様は誰よりも綺麗な顔をしていたって言ってたようなの。ま、その人はもう何年も前に辞めてるし、これも又聞きだから本当かどうかはわからないけど』

と、スイは自慢げに人差し指を立てそう言っていた。


 仕事を終え、自室に戻る途中で、背後から革靴の音が聞こえ足を止めた。

後ろにはクロスがいた。

金髪の髪が夕陽に照らされ、美しく光り輝く。口元に弧が描かれる。


「失礼しました」


 クラリスは直ぐに立ち止まり、廊下の端に寄ると頭を下げた。


「いろいろと話は聞いているよ。真面目に仕事をしているようで良かった」

「はい、雇っていただけるよう頑張ります」

「君は記憶がなくて不安ではないのか」


 唐突なその質問にクラリスは頭を上げた。

相変わらずその仮面の下の素顔がわからないから、話しにくい。

何を考え、何をしようとしているのか掴めない。

クロスがクラリスを雇うメリットより、雇ったことによりデメリットの方が多そうだが、それも彼なりに何かを考えているのだろう。腹の内が読めない。


「頭を下げなくていい」

「はい、ありがとうございます。不安はないです。理由は二つ、です。一つは自分の状態を見るに、あまりいい環境ではなかったことが推測されます。思い出したところで嫌な記憶ばかりではストレスが溜まりますし。もう一つは、どんな過去だろうが今を生きるしかないので。不安がっても仕方ないかなぁと」

クラリスの言葉に、数秒無言になる。


「面白いな、君は」

「そうでしょうか」

「君が一体どんな人生を歩んできたのか聞いてみたい気がする」

「それが私をここに置く理由ですか?」

クロスはふっと軽く笑うと「そうかもしれないな」と言った。

それから付け加えるように言った。

「採用だ」

クラリスは正式に使用人として働くことが決定した。






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