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 今日は、いよいよファイフ公爵家へ嫁ぐ日だ。

今まで着たことのないドレスに身を包み、動く度に足元のシフォン生地が揺れる。

薄紅色のドレスはクラリスの顔色をよく見せている。

首元に光るパールのネックレスを鏡越しに見つめると、何だかいよいよ新たな人生が始まるかと自然に背筋が伸びた。


「分かってるわね?この結婚、絶対に逃げ出すことないように」

「そうよ?お姉さまにお似合いじゃない!醜い時期公爵様のお相手なんて」

「逃げ出しませんよ。ここよりはいい環境でしょうし」


 そう言ってのけるクラリスについ怒りの感情が沸点に達し、頬が腫れるほどに叩かれてしまった。

ここ一か月、体力づくりのために筋トレも毎日行っていたのだが、長年の栄養失調、日光不足等が重なり、力強い手のひらは、簡単にクラリスの体を倒してしまった。


「それ以上は辞めておきなさい!おかしな噂が立てば困る」

「…ぶつけたとか適当に言っていきなさい!」


 クラリスは地面についた膝を立て、起き上がった。

思いっきり叩かれた為、音がおかしく聞こえる。ジンジンと熱を持つそこに手をやり、クラリスは悪魔のような三人に目をやる。

悪魔悪魔と言われてきたが、お前たちの方が悪魔ではないか、と思った。

そして、そのまま口に出していた。


「な、なんて…、ことをっ…!」

「流石にそれ以上のことをしたら、相手方に不自然に思われるのでは?というか、勘違いしないでください。これから私は最悪死ぬかもしれない公爵邸へ嫁ぎます。私があなたがたのこれまでしてきたことを流布してもいいのですよ?」

「…っ!なんてことを!お前は…っ!これまで育ててやった恩を忘れたのか」

「忘れていないから、こうして黙って嫁に行くと言っているのです。それなのに最後までこういう扱いなのですねぇ。まぁ、いいでしょう。お元気で」

クラリスはそう言って三人を一瞥すると屋敷を出る。

その間、後ろを振り返ることはなかった。


 屋敷の前に停まっている馬車に乗り込む。

本来であれば、使用人の一人は嫁ぎ先へも同行するものなのだが、もちろんクラリスにはいない。使用人以下の生活をしてきたからだ。

ファイフ公爵家での生活は一体どんなものになるのだろうか。

クラリスはあの日々の生活に比べれば、どんな生活だって耐えられると思っていた。

 マリアたちが速足で馬車の付近まで来る。

お見送りでもしてくれるのかと思ったが、そうではないようだった。

罵詈雑言をここに来ても浴びせている。

馬車が発進した。クラリスは無表情で手を振って見せた。

妹のユリアが下唇を噛み、地団駄を踏んでいる。

はぁ、と小さく声が漏れ出る。


…―…


 公爵邸までは、それなりに距離があるようだ。

到着までに約一日かかると聞いている。

そのため、途中の中間地点で宿泊する予定だった。

ボーっと馬車から外の眺めを見ている。揺れと連動して視線も上下しているうちに、クラリスはウトウトと瞼を閉じていた。

目を覚ますと、自然豊かな山奥に来ていた。


「クラリス様、少しここで休憩してから出発します」


 辺りを見渡していると、御者の男性がクラリスにそう呼びかける。

どうやら、御者の男も休憩したい様子だった。

クラリスは頷き、馬車から出る。高いヒールはまだ履きなれていない。

澄んだ空気を吸い、ゆっくりと吐いた。

とても気持ちがいい。


「すみません、少し歩いてきますね。すぐに戻ります」

「ええ、わかりました」


クラリスはそう言うと、ドレスの裾を掴みながら、ずんずんと前に進む。


「うわぁ、綺麗…」


ある地点でクラリスは足を止めた。

そこは少し先に川が見える小高い丘だった。

長らく幽閉されていたクラリスにとってこのような綺麗な自然に惹かれるのは当然だった。

大きく背伸びをして、深呼吸をしたとき、不慣れなヒールのせいか、足を滑らせてしまった。

あ、と声を出し、視界がぐるぐると回り、激痛に見舞われた。

それがクラリスにとって最後の記憶となる。

 


 目を覚ますと、クラリスの衣服はボロボロで、既に周囲は真っ暗だった。


「…ここは、どこ?私は…―」


 全身を殴打したクラリスは軽くパニックに陥るが、すぐに全身を動かすことが出来るかチェックした。

とりあえず、頭から血を流しているなど、致命傷になりうる状況ではないことを確認すると、自分が誰で、ここはどこなのか記憶がなくなった状態ではあるが眠ることにした。

クラリスは、草原の上で寝転がり、瞼を閉じた。

草の匂いを感じながら、目を閉じると直ぐに眠りにつくことが出来た。



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