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暗黒竜と釣り

 慈水竜の宝探し第二回戦がついに幕を開けた。

 今回は大海のただ中にぽつんと浮かぶ小島が舞台だった。


 平坦な台地状の島で、広大だけど遮るものが何もなく、端から端までが見渡せる。

 そのあちこちに船着き場が作られていて、なんだか人工の埋め立て地みたいな島だ。


「これもオケアニルが作ったの?」


「うう……ん。領民のみんなが、やってくれた……よ」


「ほんと、終わったらちゃんとお礼しときなよ」


「お礼……? なんで……? あの子たちは、我氏の役に立つためにいる……のに?」


「ジャイアニズムにもほどがあるでしょ」


 そんな話をしつつ、僕らは島へと上陸した。

 島にはすでに多くの人々が集まっていた。みーんな真剣な顔で網を手繰ったり、釣り糸を垂らしていて、緊張の糸が張り巡らされている。


「おらぁ、おまえら! 気張っていくぞぉ!」


「「「うっす!」」」


 いかにも海の男って感じの集団が、地引き網を引いていたり。


「くくく……理論上は、この調合薬で入れ食いのはず……」


 黒いローブの魔法使いっぽい人が、怪しい薬を海面に垂らしていたり。

 そんなふうにして魚釣りに勤しむ人々の姿が、あちこちに見受けられる。


 なんだか平和な光景だけど……みんな目がギラギラしていて、異様な熱気に満ちていた。


 そんな彼らのそばにはオケアニル(分霊体)がもれなく付いていた。こっちもこっちで楽しそうで、奮闘する人間たちへと微笑ましそうな目を向けている。


 それぞれの思惑が渦巻く釣り場を横目に、僕は隣のオケアニルに確認する。


「今回の勝負は魚釣りなんだよね」


「そうだ……よー」


 オケアニルはふわーっとした笑顔のまま、手を大きく広げてみせる。


「一番大きい獲物を獲ったひとの、勝ちー……シンプル……でしょ」


「うん。分かりやすくていいよね」


 僕もまたにっこりと笑う。


 前回の宝島だと、魚人とかカッツォグロっていう危険因子がいたわけだけど。今回はただの魚釣りだ。平和にのんびり楽しめることだろう。


 そこでヴォルグたちがそれぞれ釣り竿やバケツを抱えて船から下りてきた。


「坊ちゃま! 釣りの道具をお持ちしましたぞ!」


「おっきいバケツもあるよー」


「ぴぴぃ!」


「みんなありがと!」


 こうして僕らは釣り道具を運びつつ、釣り場を探すこととなった。僕以上にヴォルグがやる気満々で、目を皿のようにして海面を睨んでいる。


「むむっ、今あのあたりで大きな魚が跳ねました。魚群がいるやもしれませぬな」


「じゃあこの辺にしようかな。とびっきりの大物を釣らなくちゃね!」


「当然でございます! 宝を手に入れれば暗黒竜神殿が蘇るのですから!」


 ヴォルグは鼻息荒く訴えかけてくる。


 先日、僕はひょんなことからドワーフさんと知り合った。

 ガンテツさんと名乗った彼は、初対面の頑固キャラが嘘のように気さくだった。

 どうやらすっかり僕のことを気に入ってくれたらしい。


 そんな彼に神殿の修理を頼んだところ、豪快な笑みとともに快諾してくれた。


『なに、神殿の修復だと? そういうことなら任せとけ! 俺の仲間たちにも声を掛けて徹底的にやってやるよ!』


『本当ですか、ありがとうございます!』


『ただし金が必要だ。そうだな……』


 ガンテツさんは少しだけ考えた後、人差し指をぴんっと立ててあっさりと言った。


『最低でも金貨千枚は必要だ』


『せ、千枚!?』


 第一回の宝探しで得た金銀財宝は、金貨三百枚ほどで買い取ってもらえた。


 つまりその三倍以上もの額が必要になってくる。第二、第三の宝探しに全部勝利すればギリギリ工面できなくもないだろうけど……とんでもない金額だ。


 桁違いの数字にくらくらした僕だけど、かぶりを振って思考を切り替えた。


『そ、そうですよね、ドワーフの技術は安くないですよね』


『はあ? 違う違う。技術料じゃなくて材料費だ』


 ガンテツさんは手をパタパタ振って、神殿を見上げる。

 天井には大穴が開いていて、あちこちヒビだらけ。

 雰囲気は抜群だけど、今にも倒壊したっておかしくはない。


 そんな酷い有様を見て、ガンテツさんは笑みを深めてみせた。

 なんて面白い仕事だ。そうはしゃいでいるように僕には見えた。


『やるからには最高の石でやりたいだろ。そいつで神殿を修繕して、でっけー先代様の像と当代様の像を作るんだ。どうだい当代様、いい案だろ?』


『カッコいい! 分かりました、工面します!』


 こうして僕はふたつ返事で金策を請け負った。


 ガンテツさんはそのまま亜人村の片隅に工房を構え、みんなの農具や鍋を修理したり、新しく作り直してくれたりして、すっかり人気者になっている。


 今回の釣り竿とバケツだって彼の作品だ。

 僕も影を使ってそういう道具を作れたりするけれど……彼の作る品はどれも丈夫で使い勝手がよく、やっぱり餅は餅屋だなあと感服するばかりだった。


 そういうわけで、我が暗黒竜領土に頼れる鍛冶屋さんが誕生した。

 じゃじゃーん!


『ガンテツさん! こういう大きな包丁を作ってもらえませんか? 今度カッツォグロを捌いてパーティするので、そのために! ぜひ!』


『がはは、なんだその面白い刀は! いいだろう、なんでも作ってやるよ!』


 僕のおねだりもたくさん聞いてくれるし、孫に甘いお爺ちゃんってこんな感じなんだろうか。


 それはともかくとして、ヴォルグもガンテツさんのことを気に入っていた。


 彼の作ったレヴニル像をひと目見るなり、あんぐりと口を開けて固まって、それからボロボロと泣き出した。長年仕えた従者から見ても、その出来は素晴らしいものだったらしい。


 海面を睨みながら、ヴォルグは真剣な顔で言う。


「あの者の腕は本物にございます。等身大レヴニル様の巨像……なんとしてでも手に入れるべきですぞ、坊ちゃま!」


「こういうのも推し活って言うのかな……」


 ともかく、ライバルたちはすでに漁を始めている。悠長にしている暇はなさそうだ。

 頼れる仲間たちを振り返り、僕は声高に宣言する。


「よーし、僕らも早速取りかかろう!」


「「おー!」」


「ぴぃー!」」


 ◇


 ぴーひょろろろろぴー。

 青い空に、海鳥が気持ちよく飛んでいる。

 その真下で、僕はしっかり地面を踏ん張って釣り竿を握りしめていた。


「ぐぬぬぬ……そーれ!」


 ざばあっ!


 竿を振り上げると、釣り針に掛かった大きな魚が勢いよく宙に投げ出される。

 真っ青な色をした、鯛みたいな魚だ。

 それを、チビニルが勢いよく飛んできて受け止める。


「ぴぴぃ!」


「ナイスキャッチ! ありがと、チビニル!」


 チビニルはそのまま魚をバケツに入れてくれる。

 他にもバケツには細々とした魚が入っていた。


 変な棘がたくさん生えた魚から、鰭が長い魚になった魚などなど。見たことも聞いたこともないような怪魚たちの中で、一番大きな青鯛は我が物顔で悠々と泳いでいる。


 そこに、オケアニルがふらーっとした足取りでやって来た。


「どうかな!? 今日一番の大物! けっこう大きいんじゃない?」


「そう……ね」


 オケアニルは眠たげな目で魚を見つめ、ぱちんと指を鳴らす。


「測量員……来て」


「へ……って、うわあっ!?」


 そこでシュバッと現れたのは、前回の宝島で遭遇した魚人ふたりだった。

 一瞬で僕は臨戦態勢を取るのだけど、彼らが持っているのが武器でないことに気付いてきょとんとする。


「ロープと秤……?」


「今日は敵じゃなくって、お手伝い……だよ」


「な、なるほど……どうも、こんにちは。って、あれ……?」


 魚人さんのひとりに目を留めて、僕はおずおずと尋ねてみる。


「ひょっとしてこないだ、島で僕らの船を襲った魚人さんですか……?」


「ギョっ……!?」


 第一回の宝探しで、上陸前に僕らを襲った魚人さんがいた。


 目の前の彼には、どことなくそのときの面影があったのだ。魚人さんはまん丸の目をさらに大きくして僕のことを凝視していた。オケアニルが、彼の言葉を通訳してくれる。


「当たってるみたい……『よく分かりましたね』……だって」


「いやあ、なんだか見覚えがあったもので。先日はその……本気で返り討ちにしちゃってすみませんでした」


「ギョギョ……」


「『仕事なのでお気になさらず』……だって」


 彼らは僕たちに会釈してから、黙々と獲物を測りはじめる。

 よく見るとあちこちに魚人がいる。参加者は前回のトラウマがあるのかおっかなびっくりだけど、向こうは平然としていた。駆り出されることに慣れている模様。


「魚ギョギョ……」


「我氏の身長、三分の一……だって」


「あ、ありがとうございました」


「ギョギョ」


 僕が頭を下げると、魚人さんたちもぺこりと会釈して去って行った。

 なんだか妙な縁が生まれた気がする。それはともかくとして。


「突然の邂逅にびっくりしたけど……今のはなかなかの釣果なんじゃない?」


「ふふ……そうかも、ね……」


 オケアニルはのほほんと笑う。


 と、そこでふと物々しい足音が聞こえてくる。

 見れば凄まじい形相の男たちが、剣を手にして僕の方に突撃してくるところだった。


「うおおおおお! そいつをよこせげぶっっっ!?」


「不届き者めが! 坊ちゃまの獲物には指一本たりとも触れさせぬ!」


「どろぼーは悪いことなんだよー!」


 そして、そんな彼らはヴォルグとネルネルによって速やかに排除されていった。

 僕の目の前に、気絶した男たちが積み上げられる。それを指さして、オケアニルに一応尋ねてみる。


「これも釣果ってことにしちゃダメ?」


「魚じゃないから、だ……めー」


 人差し指二本でバッテンを作り、オケアニルはぶぶーっと言う。

 どうやらルール上強奪が認められているらしく、あちこちで騒ぎが勃発していた。


 吊り上げた魚を巡って殴り合いのケンカが起きたり、穴場の奪い合いが起きたり。

 人の欲望ってものをまざまざと見せつけられて、僕はげんなりしてしまう。


 そもそも魚が逃げるから騒がないでほしいんだけどなあ。


「ねえ、オケアニルは本当にこんな人間たちを見て楽しいの?」


「うん……とっても……じゃれ合ってて、かわいい……よね」


「そういう目線かー」


 うっとりと語るオケアニルの目は、どこまでも本気だった。

 騒ぎを見守る他の分霊体たちも、ますます恍惚としている。


 彼女らの視点だと、子猫がケンカしてるようなものなのかもな……。


「僕の目からは、おじさんたちが入り乱れる地獄絵図にしか見えないんだけど」


「かわいい……のに。レヴニルだって、きっとそう言ったはずだ……よ」


「たぶん違うと思うよ。普通に仲裁するって」


 育ての親の名誉のため、そこはきっちりと否定しておいた。


(人間に興味を持ったきっかけがレヴニルだって言ってたけど……レヴニルも、オケアニルがこうなるとは思ってなかったんじゃないかなあ)


 レヴニルがいなくなった今となっては、真相は闇の中だ。

 しみじみしつつも、僕は意識を勝負へと戻す。


「でも、この調子なら今回も僕が――」


「よっしゃあああ!」


 慢心を口に出しかけたそのとき、沖合いから大きな声が上がった。

 ハッとして顔を向ければ、投網漁に勤む船が見えた。


 大きな帆には髑髏マークが描かれていて、これまた大きな大砲を積んでいる。

 どこからどう見ても海賊船だ。

 こっちの世界でも髑髏マークを書くんだなあ。文化っていうのは案外似るのかも。


 そんなことを考えていると、その船の甲板に見覚えのある女の人が現れる。


「あっ、アンさんだ!」


 第一回の宝探しで出会った女海賊コスプレのアンさんだ。


 彼女が勇ましく担ぎ上げるのは、長い吻にノコギリみたいなギザギザが付いた、カジキマグロみたいな魚だ。ビチビチと大暴れする獲物をしかと抱きしめながら、彼女は大きな声で叫ぶ。


「うはははは! 見たか、漁師の本領発揮だぜ!」


 その後ろからひょっこりとオケアニル(分霊体)が現れて、ニコニコと言う。


「お見事……サイズは我氏ふたり分……大物……ね」


「よっし! これなら優勝はいただきだな!」


「おめでとうございます、姉御!」


「これでようやく念願が叶いますね……!」


 手下さんたちが盛大な拍手を送る。

 海賊はただのコスプレで、本業は漁師っていうのはどうやら本当らしい。


 大盛り上がりの彼女たちを横目に、僕はバケツをそっと見下ろす。一番の大物は、さっき釣り上げたばかりの青鯛だ。カジキマグロの足元にも及ばない。


「これはちょっとマズいかもね……」


「ぐぬぬ……! まだです! 時間の限り奮闘しましょうぞ!」


「うん、そうだね。まだ勝負は決まってないよね」


 だけど、気付けばもう太陽は真上に昇っていた。


 試合終了の日没までにはまだ時間があるけど……このまま普通の釣りをしているだけじゃ負けてしまう。神殿の修復が遠ざかってしまうのはちょっといただけない。


 アンさんの声が大きかったせいか、彼女の釣果は島中に知れ渡ったようだ。争っていた人々はみんな大慌てで釣りに戻っていく。


(そういえば、前回の宝探しだとカッツォグロの動きを止めるための網が準備されていたんだよな。今回も何かとびっきりの大物が仕込まれているのかも……)


 ちらっと隣のオケアニルを伺ってみる。


「……にこー」


 すると、意味深なにっこり笑顔が返ってきた。

 読みは当たりかも。それならやるべきことは決まりだね。

 僕はヴォルグたちを振り返ってお願いする。


「ねえ、釣り竿を任せてもいい? ちょっと探索したいんだ」


「お任せくださいませ! 我らで大物を確保しておきましょうぞ!」


「わーい釣りしてもいいの? 僕もお手伝いするー!」


「ぴぃー!」


 こうして僕はひとりぶらぶらと歩くことになった。

 他の人たちの釣果をそれとなく確認し、どんなエサを使っているか調べていく。


 だけどほとんどの人が釣っているのは僕と似たり寄ったりのサイズの獲物で、アンさん並の大物は一匹たりとも見当たらなかった。


(これはもう単純に技術の問題かも……? まいったなあ。ヨハンさんに来てもらえばよかった)


 現役の漁師さんがいてくれたらさぞ心強かったことだろう。

 今からでも連れて来る? いやでも、日没には間に合わなさそうだしなあ。


 そんなふうに悩んでいたところ、ちょうど目の前にアンさんの海賊船が着岸した。


 見守っていると、船から板状のタラップが渡される。そこからアンさんは見知らぬ男たちを乱暴に蹴り出した。どうやら略奪者たちを返り討ちにしたらしい。


「おらよっ! 二度とうちの船にちょっかい出すんじゃねえぞ!」


「そうだそうだ、一昨日来やがれ!」


「くっ、くそ……! 覚えてやがれ!」


 男たちは捨て台詞を吐いて、ほうほうの体で逃げていく。

 それを鋭い目で見送るアンさんたちは、いっぱしの女海賊そのものだった。


(おお、すごい。けっこうやるもんだなあ)


 殺気立つ彼女らのもとに、僕は気軽な調子で近付いていった。


「こんにちは、アンさん。お強いんですね」


「げえっ!? この前の坊主!?」


 アンさんは僕をひと目見るなり顔をしかめてみせた。

 手下さんたちも目を丸くしている。

 アンさんは気まずそうに目を逸らしながら、ぶっきら棒に言う。


「なんだよ、この前の礼に魚をよこせって言うつもりか?」


「まさか。そういうのはちゃんと自分で手に入れてこそでしょ」


「……ふうん」


 僕の返答に、アンさんの眉がぴくりと動く。

 彼女は盛大なため息をこぼしてから、小さく頭を下げてみせた。


「悪かったな、こないだはケンカ腰になっちまって。恩人に対する態度じゃなかったよ」


「お気になさらず。ライバルですもん、仕方ないですよ」


「物分かりのいいやつめ。坊主は今回も参加なんだな」


「もちろんです。僕にも勝ちたい理由があるので」


「はっ。それでまた勝って、貴重な願いを雑に使い捨てるのか?」


 アンさんは皮肉げに口の端を持ち上げて笑う。僕がカッツォグロの冷凍保存を願ったことに、今もまだ納得していないらしい。僕は苦笑して頬をかく。


「実は、あれから急に大金が必要になりまして……今回はけっこう本気で勝ちに行くつもりなんですよね」


「坊主、貴族のボンボンじゃなかったのか? それで急に金が必要になるって……」


「まあ、家のことでいろいろありまして。あはは」


「……おまえも苦労してるんだなあ」


 アンさんは途端に眉をひそめて、沈痛な面持ちになる。


 耳をそばだてていた手下さんたちも顔を見合わせて、僕へ哀れみの視線を向けてきた。なんだか誤解されている気がするけど、まあいいか。家の事情なのは本当のことだし。


「そういうわけで僕も勝ちを狙いたいんです。釣りのコツを教えてください!」


「ライバルに塩を送るつもりはない……と言いたいところだが。坊主には借りがあるしな。特別に教えてやるよ」


 アンさんはからりと笑ってから、僕の耳に唇を寄せてぼそりと言う。


「どうやら……この海には怪物がいるようだ」


「怪物? それってまさか、このまえのカッツォグロみたいな?」


「あいつレベルかは分からねえ。だが、大物の気配がする」


 そう言ってアンさんは目の前に広がる大海原を見渡す。


 波は静かで、ときおり小さな魚が跳ねるだけ。上空を飛ぶ海鳥たちも呑気な鳴き声を響かせる。どこからどう見ても平和な海に見えるけど……アンさんには違うようだ。


 鷹のような鋭い目のまま、低い声で続ける。


「あたしは波を読むのが得意でね。魚影は確認できちゃいねえが、さっきの奴を凌ぐ大物なのは間違いねえさ」


「つまり、そいつを狙えば勝ち確ってことですね」


「はっ。坊主も変な魔法を使うようだが、釣りは素人だろ。あたしに軍配が上がるさ」


 アンさんは不敵に笑い、どんっと己の胸を叩いてみせる。


「あたしは絶対に負けられねえんだ。たとえ恩人相手でも手は抜かねえぞ」


「もちろんです。正々堂々、勝負しましょうね」


 こうして宣戦布告を交わしたあと、アンさんたちの船はまた沖合に出て行った。

 それを見送って、僕はひとり作戦を練る。


「さて、そうは言ったものの、どうやってその怪物を探そうかな」


 せっかく空を飛べるんだから、上空から探してみる?

 でも魚影は確認できないって言うしなあ……。


「となると……素潜り漁? イチかバチか――」


「うわぎゃあああああ!!」


「へ!?」


 そこでまた沖合から大きな声が響いてきた。

ばっと振り返ってみれば、アンさんたちの海賊船で何かが起きたらしい。


 船が次第に傾いていき、いくつもの悲鳴と飛沫が聞こえてくる。

 ここからじゃ何が起きているか分からないけど、のっぴきならないピンチなのは確かなようだ。


「いけない! 早く助けない……と」


 僕は条件反射で羽根を生やしかけるのだけど……這い上がってきた影が膝のあたりでぴたりと止まる。先日、アンさん本人から告げられた言葉を思い出したからだ。


(そうだ、僕が助けなくても大丈夫なんだった)


 危なくなれば、彼女らと一緒にいるオケアニルが何とかする。

 そもそもライバルが減るのはいいことだ。だから助ける必要はない。現に島にいる他の人たちだって、大ピンチの海賊船を眺めて『ラッキー!』って顔でニヤついている。


 それは分かっているんだけど……。


「もうダメだあああ! 父ちゃーん! 母ちゃーん!」


「姉御! あたしらを置いて逃げてください!」


「そ、そうです! 姉御には悲願があるじゃないっすか!」


「バッカ野郎! あたしがおまえたちを見捨てるわけがないだろ! みんなで一緒に逃げ……うわあああ!? 避難用のボートが流れていく!? もうダメだあああああ! 助けて神様ああああああ!」


「うふふ……はしゃいじゃって、かーわいー……い」


 どんどん悲惨になっていく悲鳴と、恍惚としたオケアニルの声。

 それらを聞き流すことは、僕にはとても難しかった。


「ああもう! 仕方ないなあ!」


 呼ばれたからには行くしかない。だって僕ってば神様なんだもん。

 第一、知り合いの悲鳴を無視しちゃ寝覚めが悪いしね。

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