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9/11

心の奥の奥

キミがあの時、どんな気持ちだったか…

本当にごめん…


俺は心に余裕が無くて、投げやりになってた



それでもキミは真っ直ぐな気持ちを届けてくれたよね



朝8時、目が覚める。今日は1日バイトを入れなかった

まる1日仕事を入れない日は滅多に無い


休みたかった。…ひと息ついて考える時間が欲しかった。もぬけの殻状態で仕事してもミスしかしない気がするし



冷房をかけて

ぼ〜〜っと窓の外を眺める

真夏の青空が見えて、日当たりの悪いこの部屋にも明る過ぎる陽射しが差し込む

何もやる気がおきない…無気力…



ゴロゴロして気がついたら夕方になっていた

少し陽射しもおさまってるようだし外に出た

特に用はないけど散歩がてら。歩いてみる

行き交う人を見ながら…


スーツで急ぎ足のサラリーマン、カフェでパソコンを開いて作業してる人、暑い中外で仕事してる人、

色んな人が沢山居る…

当たり前だけど皆それぞれ日常があって生活があって…毎日過ごしてるんだよなぁ…



ぼんやり歩いてベンチに座る


…この場所もよく歌う定位置になってたなぁ



「ソウちゃん!こんにちわ」

後ろから聞き覚えのある声


ハルだ。


神出鬼没過ぎる…

毎回心臓に悪い…


俺にGPSでも付いてんのか?

「ビックリした……この辺で仕事?」

「ま〜そんな所。空いた時間あってプラプラ散歩してた」


人気者もプラプラ散歩するのか…いや、するか


ハルが隣に座り、手ぶらの俺を見て

「今日はギター持って来てないんだね?路上ライブは休み?」


「うん。今日はバイトも休み」

「ソウちゃんに会う時は大体路上ライブの時だったからね」


「あんまり変装してないけど大丈夫なの?帽子は被ってるけど…」

「別に平気だよ。マスクも今暑いし、そんなに気にしてない」


ハルらしいけどマネージャーさん居たら絶対注意されるだろうな…



夕日が出始めて、ぬるいけど柔らかい風が吹いていた。



「俺歌やめようかな…」


ポツリと無意識に口から出ていた…

自分でも驚いた…



数秒空いたあと


「そっか」

ハルがひとこと。



……え それだけ?

意外で呆気にとられた


「辞めない方が良いよ」って言うのかと思った」


「私は自分自身の気持ちを第一優先で考えた方が良いと思うから」



正直…歌をあんなに褒めてくれて…推してくれてたし引き止められるって思った…


今までのハルの言葉が脳裏をよぎって、あれは本心じゃなかった?ただのお世話だった?…って疑念すら湧いてしまう…



「ソウちゃんの歌は本当に凄いし、辞めるのは勿体ないと思うよ。…だけど、歌う事だけが人生じゃないし、全てじゃない。色んな可能性が無限にある。もちろん歌に人生捧げてる人も素晴らしいと思ってるけど」


「…うん」


「人生1度きりだし、1つに絞る事無い。いつ何が起きるか分からないから。後悔無い選択をした方が良いよ。」



「…なんかもう色々分からなくなって…

俺もハルみたいな凄い才能が欲しかったよ。」



その瞬間シーンと静まり返った

あ、言ったらダメな言葉だ。

俺は今ただの嫉妬と妬みの言葉をハルに投げたんだ



「私は自分に才能あると思ってないよ。歌うのも曲作りも好きだけどね」


真っ直ぐ見るハルの瞳に思わず目を逸らしたくなった…


「それに歌を歌い続けていくのは、それなりに覚悟が必要だと思う」



図星を刺された感覚

自分のフラフラした気持ちを見透かしてるように。

甘い考えをぶん殴られたような…


プロの世界は甘くない。このシビアな世界を生き抜いて行くのは容易な事じゃない。

ハルはそれを身を持って分かっている



俺には覚悟が足りないんだ。

歌で必ず生きていく覚悟が。

心のどこかで逃げ場を作っていた

今まで必死にやってるつもりで居たけど、まだ全然足りなかった



「そうだ、コレ良かったら見に来て。」


手渡されたのはライブのチケットだった。

「ツアーの最終日なんだ。8月のおわり」


「…え…いいの?もらって…」

凄いバツが悪かった…

さっきも嫌な言い方したのに…


「うん、聴きに来て。

それじゃあ私そろそろ行くね」


「あ、うん」



ベンチから少し歩いたハルが立ち止まった。

不思議に思っていると



振り返ったハルが

「ソウちゃん歌嫌いになった?楽しく無くなった?」


その問いにしばらくフリーズした。


「…えっと」

俺はなんて答えて良いか分からなかった…



「ソウちゃんはさ、自分の気持ちに正直に生きたら良いんだよ。

またね!」



ハルが帰ってからベンチでうなだれる

自分が情けなくて、どうしようもない


俺は舞い上がってたんだ…非日常に

普通ではありえない…人気の歌手に声かけられて褒められて、俺はきっと大丈夫。きっと夢を叶えられるんだと思い込んでいた


中途半端な気持ちを投げかけても

ハルならきっと引き止めてくれる。「辞めたらダメだよ!」って言葉を期待した。

自分に自信が無いから。

自分は特別な存在だと思いたかった


恥ずかしさと虚しさが交互にやってくる



ふと周りの景色に視線をおくると

そこはハルと前にひまわりを見た場所だった


なぜか1本だけ変な所に咲いていた。

あのひまわりは



跡形もなく無くなっていた。























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