表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/13

8月なかば

毎日じっとしてるだけでも汗が吹き出すような暑さだ…


俺は新しい曲を早く作らないと!と焦っていた。

カイドウさんがまた聴いてくれるかどうか分からないけど、曲が無いんじゃ何も始まらない。


バイトの時間を削って曲作りにあてたいけど、そんな事したら生活できない

何とか時間を工夫して新たに考えるんだ


印象に残って何回も聴きたくなるような曲を。

人の曲ばかり歌っていてもしょうがないんだ。カバーも好きだけど自分の歌じゃない

自分で作った曲を歌って人に振り向いてほしい



バイトの休憩時間もアイデアを探しに散歩に行った

日常の中にもヒントがあるかもしれないし、単純に気分転換もかねて、

 

だけど真夏の昼間、散歩はヤバイ。アスファルトの照り返しが半端ない

結局数分で帰る羽目になる…


家に帰ってもひたすら曲作り、ご近所さんには申し訳ないけどギターを引きながらメロディーも模索する。


書いては消し、書いては消してを繰り返して歌詞を考える。良いフレーズよ!降りてきてくれと願いながら…


こんな時ハルなら良い曲が作れるんだろうな…

自分の気持ちを表現する力が凄いし


ダメだ。そもそも比べるレベルが違う

こんな事考えてる場合じゃないんだ


多分今俺は大事な岐路にいる。今まで沢山オーディションを受けたけど落ちてから歌を聴きたいと言われた事なんて1度も無かったし次に繋がるようなチャンスすら巡って来なかった。

今回も思わせぶりかもしれない、でも僅かな可能性があるならかけてみたい

今が踏ん張り時だ



それから曲を沢山考えて作って納得いかなくてボツにして最早何が良いのか分からず頭がパンクしそうになっていた



部屋で大の字になって寝転ぶ

…やっぱり現状俺に書ける歌詞は今思ってる気持ちしか書けない。くすぶって不安な状況を…


またノートに歌詞を書き始める。


なんとなく形になってきた


歌詞がまとまるとメロディーもなんとなく浮かんでくる


良い感じになってきた


睡眠時間を削り数分でも空いた時間があれば曲作りに全てを費やした。多分今までの曲作りで1番心血注いでる



試行錯誤しながら、やっと曲が形になって

カイドウさんに連絡したら直接会って聴いてくれる

事になった。良かった…

作った曲が今の俺に出来る最大限だから…なんとか届いてほしい…


当日

緊張しながら前回同様にレコード会社のロビーで待っていると、

ペタペタ音をさせながらカイドウが来た。


「ソウヘイくーん!お待たせ〜」

今日もビーチサンダルだ。


「お忙しい中時間を作って下さってありがとうございます」


「全然大丈夫だよ〜じゃ移動しようか」


別室で曲を聴いてもらう。

今回は前回よりはるかに緊張する


曲を流してる間、自分の心臓の音が今までにないくらい全身に響いた


曲を流しおわって

「この曲はどんな思いで制作したの?」


「今までに感じた音楽に対する思いとの自分の気持ちを込めました」


「そっかぁ。」


(少しの間をあけて)

たった数秒の時間が緊張で限りなく長く感じた


「すごく良い感じだよ。歌詞も前回より分かりやすくなってるし、メロディーも耳に馴染みやすい…」


「んだけど…うーん、もっとこの曲の世界観の広がりが欲しいし、転調があったらもっと良いなぁ…物足りなさを感じる」


自分の中では満足してたつもりでもプロの耳から聴いたら全然違うんだな…

やっぱり一筋縄じゃいかない…当たり前だよな


「前会った時に、ある仕事依頼されて歌い手探してるって言ったよね?あれCMのタイアップ曲なんだよ」


「…そうなんですか」


「曲は作ってたんだけど、イメージに合う歌い手が見つからなくて。そんな時にソウヘイ君の歌声を見つけてさ、CMのイメージ的にもフレッシュな感性が欲しかったから、あえて何も言わずにキミの作った曲が良かったら採用したかったんだ。」


…そうだったんだ

コレは稀にみるビッグチャンスだったんだな

…そして結果は言わずもがな見えている


「キミの今の曲を更に良く仕上げるにはかなり期間が必要だと思う。アレンジも含め。もし良かったら俺の作った曲を歌ってくれないかな?最初のチャレンジとして。のちのち自分で納得出来る曲が作れるようになった時その曲を出すのも有りだと思う」



作った曲はもれなく却下だけど、これもチャンスだ…歌手でも他の人に曲作りは任せる人も沢山居る。頑なに自分で作らなければいけない。なんて事は無いし、何より自分の歌声を気に入って歌ってほしいなんて初めての事だ。


俺はシンガーソングライターを目指して今までやってきた…

けど、曲作りの才能は…無いのかもしれない

致命的だ…


自分で紡いだ言葉で歌いたい…自分で考えたメロディーで伝えたい…その想いだけだった


だけど今、目の前にあるチャンスは今後2度とあるかどうかも分からない貴重過ぎるチャンスだ。

これが蜘蛛の糸を掴むようなきっかけになるかもしれない

迷ってる場合でもない。

だけど…


「すみません…少しだけ時間くれませんか?」


「分かった。大丈夫だよ!連絡待ってるね」


「ありがとうございます」


部屋を出て

一気に緊張の糸が切れた


やっぱダメだったかぁーーー……

壁に寄りかかりうなだれる


結構良い出来だと思ったんだけどなぁ…今の俺に出来る全てを注いだけど…

深いため息がでる


返事に即答出来なかった

ありがたいチャンスが巡って来たとゆうのに


俺は今何者でもない、こんな状態でも譲れない事を天秤にかけている…ちっぽけなプライドだ

必死になって作った曲もボツになったのに

何も成果を残せていないのに…



ふと時計を見るとバイトの時間が迫っていた。

早く行かなきゃ…現実は待ってくれない

今日は休みたいな…

いや…行かなきゃダメだ

重たい足取りで歩きだす。



カラオケ店でバイト中、もはやうわの空だった

ここ最近ずっと曲作りに集中し全てを注いでいたため、もぬけの殻状態。


「ソウヘイさん、騒がし過ぎる団体さっきやっと帰りましたよ…」

後輩が疲れた表情でやってきた


確かに騒がしかったし注文も多いし大変な団体だった。長時間いたし

「よし、じゃ片付けにいくか」



部屋を開けると、そこはもうシッチャカメッチャカだった…

床は溢れた飲み物が散乱しビチャビチャ。テーブルは食べ散らかされて溢れんばかりの状態。ソファーにまで色んなゴミが撒き散らかされていた。


「これ…さすがに酷くないですか?ありえないですよ常識的に」

全くだ。常識とかのレベルで考えられない

今までの長い勤務でも酷い客は沢山居たけどここまで汚して帰る客は中々いない


「とりあえず床拭くからモップ持ってきて。俺はテーブルから片付ける」

「はい」


よくもまぁ…この状態のまま帰れるよな…

モラルも何もあったもんじゃあ無い



…俺はいつまでこんな事をやってるんだろう

いつまで…


目の前にあふれる汚れたゴミを片付けながら


いったい俺は何をしてるんだ…


漠然と目の前にある光景に虚無感とやりきれない気持ちでいっぱいになった



帰りの夜道を歩いていると生ぬるい風が吹く

ポッケに入れたスマホが短く鳴る


姉からメッセージが来ていた

俺には2人姉が居て、2歳ずつ離れている。

どちらの姉もしっかり者でちゃんとしてる。チャランポランな俺とは違いまっとうに生きている。


今は育休中の長女からの連絡だった。

「元気〜?ちゃんとご飯食べてる?たまには顔見せに帰って来なよ〜!みんな心配してるからさ!」


甥っ子の写真も一緒に送られてきた。

会わない間に随分大きく成長していてビックリした。あっという間に育ってるんだなぁ…

その間俺は何をしてたんだろう…



なんだかんだ家族から連絡が来るとほっとするというか…なんとも言えない気持ちになる

こんな時は余計にそう思う


今日はまっすぐ家に帰りたくなくて、遠回りして帰った






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ