新たな出会い
音楽プロデューサー??
「突然ゴメンね〜!!前に映画の挿入歌のオーディション受けたでしょ?その時の曲聴かせてもらう機会あって、ソウヘイ君の歌声に興味あったから関係者に連絡先教えてもらったんだよ」
「…はぁ」
なんか軽いノリだな…
名前すら聞いた事無いし。怪しい…怪し過ぎる
何かの詐欺じゃないか?
「それで一度会ってみたくて。どうかな?近々空いてる日ある?」
まじか…どうする…
完全に怪しい…
俺は田舎から出て来てるから警戒心が半端ない
しかも相手はよく分からん相手…
でも…本当にちゃんした音楽プロデューサーの可能性もあるし…
怪しいと思えば速攻帰れば大丈夫か…
「3日後の19時なら空いてます」
「了解〜○○レコード会社って分かる?」
「…はい」
俺でも知ってるちゃんとした会社だ…
「一階の受付前のロビーで待ってて!あ、あと自分で書いた歌詞と曲を録音したの持ってきてほしい」
「分かりました」
「じゃまたね〜!」
通話が終了してから本当に大丈夫か不安になる
まぁその時はその時か…
3日後
待ち合わせの時間にレコード会社に行く。
……凄い立派なビルだな
予想よりはるかな大きさにビビる
中に入るとオシャレな感じで綺麗だ…落ち着かない
とりあえずロビーのソファーで待つ事にした。
本当に来るのか…?来たとして偽物だったり、変な話持ちかけられたら秒で帰ろう。
緊張しながら待つ事数分。
ペタペタと足音が聞こえた
「ソウヘイ君?」
振り返ると無精ひげをはやしたラフな格好の男性がいた。足元はビーチサンダルだ…
「…あ、はい初めましてソウヘイです」
「初めましてカイドウです。よろしくね、あ!コレ、一応名刺ね」
と差し出された名刺を見る。至って普通の…
まぁコレだけじゃ判断出来ないけど…
「ココじゃなんだから上の部屋で話そう」
「はい」
後ろについて行ってエレベーターに乗る
「場所分かりにくくなかった?」
「大丈夫です」
…音楽プロデューサーってこんなゆるい格好なのか?ビーサンて…自由だな
「あ、ここ。どうぞ〜」
通されたのはミーティングルームの部屋
「失礼します」
テーブルを挟んでイスに座る
「今日は急なのに来てくれてありがとうね」
「…いえ それで話ってどうゆう事ですか?」
「電話でも言ったんだけど、挿入歌のオーディションの曲を参加者全員聴いたけど、俺はソウヘイ君のが1番耳に残ったんだよね」
「…え あの選ばれた人じゃなくてですか?」
「うん。」
本当かよ?…にわかに信じがたい
「まぁ、クライアントの好みとか曲に合った声とか選ぶ基準は色々あったんだろうけど。ソウヘイ君の歌声は透明感がありつつ芯があって良かったよ」
「…ありがとうございます」
「今俺がとある仕事を依頼されてて、歌い手探してたんだけど中々しっくりくる人が見つからなくて、であのオーディション受けた人の曲聴かせてもらったんだよね」
…あぁそれで
「そうなんですか」
「さっそくなんだけど、自分で作った曲ある?あと歌詞書いたやつ」
「…はい」
スマホに録音した曲を流す
部屋に曲が響く…
一気に緊張が漂う。
手に汗が滲む…
いたたまれない時間が流れる
どんな反応するんだ…
ひと通り流し終えた。
「うん、歌声本当にいいね。 …だけど、曲はなんか、…いまいちかなぁ〜印象に残らない感じ」
…やっぱりか
自分でも自覚あるもんな…
毎回面と向かってボツくらうとダメージでかい…
濁されるよりハッキリ言われた方が良いけど。
「歌詞書いたの見せてくれる?」
「あ、はい」
書き留めたノートを渡す。
「ん〜〜…なんつうか、あんまり気持ちが伝わりづらいかな。分かりにくい。難しく作ろうとしてる気がする」
…確かに その節はある
「綺麗にまとめよう。とか良い曲作らなきゃ、って思う前に聴いてくれる人に想いが伝わらなきゃ意味ないからさ。この人は何を言いたいか分からないってなるし」
「…そうですよね」
ぐうの音も出ない
「でも万人受けする曲を作れって言ってるんじゃないよ?感じ方は千差万別だし。それが全てじゃない。その中で個性や感性を表現させられる物がほしい」
「…中々言葉にするのが思いつかないんですよね」
「まぁ難しいよな。歌手でも実体験で感じた事を書く人が多いけど、全然フィクションもある。人の経験を聞いて自分で想像して広げたりもあるしね」
…実体験
それは俺がずっとネックとしてる部分だ
実際に人が感動するような出来事や思い出、恋愛経験が多い訳でも無い。
今まで生きてきた体験…材料となる素材が少なすぎる…何もかもが浅い。その上、感受性が豊かとは言いにくい…
…そんな人間に誰かの気持ちを動かす曲なんて作れるのか?
今までなんとなく誤魔化してきた物が剥がされてる感覚だ…
「キミの場合、難しく考えずにもっと素直に自分の気持ちを書いたほうが良い気がする。回りくどい言い方は止めてシンプルに、ストレートに伝える歌詞を書いてみたらどうかな?」
…素直にか
難しく考えては居たよな
納得できる曲が作れなくて何をどうしたら良いか分からない感じになってたし。出口の無い道をずっとさまよってる気がしてた
「でも本当にソウヘイ君の歌良いよ!音程も安定してるし変な癖も無い。何より声質が綺麗でよく通る。どこかで習ったりしたの?」
「いえ、ボイストレーニングも行ったこと無いし独学です」
ただ単に地元は田舎すぎて歌習うような所も無いし、上京しても習いに行く費用の余裕も無かっただけだけど…
「そっか〜!凄いね。独学でギターも?」
「はい、見様見真似ですけど…」
「また今度さ、歌詞か曲出来たら見せてくれない?連絡先は名刺に書いといたからさ」
…え 次があるのか
もうココで見限って終わりかと思ってた。
「はい、分かりました。ありがとうございます」
でも実際分からないよな。ただの口約束の可能性が高いし、聴く気すら無いかもしれない。
今までそうゆう人達沢山居たし、安易に糠喜びしない事にしてる。
それに、この人を信用出来るかまだ半信半疑だし
「気をつけて帰ってね、俺も用事あるから下まで行くよ」
「はい」
通路を出た所を歩いていると
「あれ?カイドウじゃん打ち合わせ?」
声がした方を振り向くと
スーツを着た見覚えのある女性
…確か ハルのマネージャーのヒカリさん?だよな
「まぁそんな感じ〜」
「相変わらずゆるいわね、もっとちゃんとした格好しなさいよ」
「俺は楽なスタイルが合ってんの〜」
「あーそう」
呆れた顔してる…
隣に居る俺と目があった
「…え、あれキミ… ソウヘイ君?!なんでココに居るの?」
「何?2人知り合い?ソウヘイ君は俺が歌声に興味あって今日来てもらったんだよ」
「え!そうなの!?」
「こんにちわ…あの、お二人はお知り合いなんですか?」
「カイドウは会社の同期。私はここの社員だけど、この人今は独立してフリーで音楽プロデューサーだから」
…そうなんだ。ちゃんとしてる人だった、良かった…
て事はハルが所属してるレコード会社ココか!
…通りで立派な訳だ
「ハルがソウヘイ君をお気に入りなのよ」
いや… お気に入りって…
「へぇ~!!ハルが!やっぱ目の付け所が良いな!俺と同じで」
「ちょっと、アンタと一緒にしないでよね」
「おっと、俺はそろそろ時間だから行くね〜♫じゃあソウヘイ君また〜」
「あ、はい」
「まぁ、あの人あんな感じで胡散臭いけど実力は確かだから。ウチの会社だと○○とか□□に曲提供してるし」
え!?そうなんだ…凄い有名な歌手じゃん
「でも名前聞いた事無くて…凄い疑いました」
「あぁ…カイドウ作品に名前載せる時違う名前にしてるから。私も何でか分からないけど」
だから知らなかったのか…それだけ有名な歌手を手掛けてたら存在知らない訳無いもんな…
そうだ…
中々こんな機会ないしヒカリさんに気になってた事聞こう
「…あの、聞いていいですか?…ハル さんて普段からこう…知らない人にも話しかけたり、コミュニケーション取ったりするんですか?」
「そうねぇ〜。誰に対してもフラットに話すけど、全く知らない人に話しかけるのは稀じゃないかな。本人あんまり芸能人!って感覚は無いみたいだけど。」
…そうなんだ
「…あ、なんか人気の歌手の人が俺みたいな無名の一般人に話しかけてきたのがずっと不思議で…」
「私もハルが路上で歌ってる人に声かけた、なんて初めて聞いたし、よっぽどアナタの歌が良かったんじゃない?」
「そうですかね…?自分では分からないです」
さっき曲イマイチって言われたばっかりだしな…
「自信持ちなさいよ!!この業界一筋縄じゃないんだから!チャンスがあるなら逃げちゃだめよ!掴み取る勢いじゃないと!!」
バシンッと背中を叩かれる。
うぉお…結構力強!
「じゃまたね!!」
「はい 」
ヒカリさん、パワフルな人だな…
そうだよな…チャンスなんて誰しもある訳じゃない
実を結ぶかどうかなんて分からないけど、少しでも可能性があるのなら全力で取り組むしかない
ましてや歌手で成功するなんて夢のまた夢だ
そんな途方もない道を選んだのも自分。
やるしかない
今俺に出来る事を。
とにかく曲を作るんだ。