挑戦
7月 挿入歌のオーディションを受けて書類・1時審査、2時審査とパスし、いつもなら中々たどり着かない歌唱審査までどんどん進んでいた。正直ここまで来れると思ってなかったから自分でも驚いてる。
もう挿入歌は作ってあるから課題はその曲を歌う事だ。映画の重要なシーンで流れると言われた
映画自体の内容はざっくり教えてもらっていて
審査の日まで、この曲を練習してるんだけど…
納得いく歌唱が出来ない
曲調的にはバラードだし難曲という感じゃないけど、自分の中でちゃんと曲を落とし込められてない気がする
カラオケ屋でずっと練習してたけど煮詰まって気晴らしに外に出た
夏の日差しが眩しい…ジリジリと照りつける
木陰で休もう。ここもよく歌ってる場所
曲を口ずさむ
「いい曲だね〜!」
「うぉお!!」変な声出た
後ろから聴き覚えのある声
振り返ると彼女が居た。
神出鬼没過ぎるだろ…
どうなってんだ…
幻じゃなかったんだ…本物だ。マスクしてるけど分かる
「てかなんでココに俺が居るの分かったんですか?」
「さっきそこ通りかかったらソウちゃん見えたから」
…え…マジで?そんな偶然ある?
いや今はそんな事はどうでもいい!!
確認しなくては!!
「あの…ハル…さん…て」
「ハルで良いよ!あと敬語無しで話そう!」
おっと…
なんか急に緊張し始めたぞ…
よし…
「ハルって、歌手のハルだよね?」
「そうだよ」
何のためらいも無く言うんだ…
「なんで人気の歌手が俺みたいな一般人に声かけたのかなって…」
「歌が素敵だったからだよ。それで話してみたいって思って」
えぇ…本当に?みんな素通りして行くような歌を?
「興味があったら知りたいって思うじゃん」
隣に座るハル
今更ながら隣に歌手のハルが居る事に緊張する…
おい何だこの現実離れした状況は…
あと今更だけど有名人が二人っきりで会ってて色々大丈夫なのか?写真とか…
…いや俺みたいなフリーターでただの一般人と撮られても何のスクープにもならないよな
余計な心配だ…
人気のバンドマンならまだしも…
「今は何してたの?ギター持ってないし路上ライブじゃないよね?」
「オーディションがあって課題曲の練習してた」
「さっき歌ってたのその曲なんだ?」
「うん、そうなんだけど…中々上手くいかなくて」
…そういえばハルもタイアップ色々やってたよな
「ハルは楽曲依頼された時どうやって制作して歌ってるの?」
「そうだな〜私は作品がある場合はとにかく内容を理解して自分の中で整理する。どんな感情なのか何を伝えたいのか、イメージを膨らませて。あと依頼者側に何を求められてるか把握するかな。」
「やっぱプロは凄いな」
「そんな事無いよ、ダメ出しされて何回も作り直したりも多いし」
笑いながら言う
「え?!ハルでもそんな事あるの?」
「あるよ、全然ある。もっとこうしてほしい、あ〜してほしいって。意見が合わない時もあるし」
そうなんだ…イチから作るんだもんな…簡単じゃないよな…才能ある人だって大変な思いで曲を生み出すんだよな
「でも私は私の音楽も、感性も大事にしたいから。全部言われた事を鵜呑みにする訳じゃないよ。難しい所だけど」
「そっか 凄い勉強になる。ありがと」
「そんな大した事言ってないから」
今の俺には大した事なんだよ、プロの意見聞けるなんて無いんだから 本当にありがたいよ
とにかく練習だな。あと作品の研究
「あ!ひまわり!」
ハルの目線の先に1本だけ、ひまわりがポツンと咲いていた。
「何でこんな所に?」
「本当だね!種でもこぼれたのかな」
「私、花の中でひまわりが1番好きだなぁ〜」
へぇ〜 そうなんだ
キキッ
車が停まる
「ハル!そろそろ時間よ」
中から1人女性が出てきた
「あ!そうだった!時間たつの早い〜」
「例のソウちゃん?」
…例の?…なんだろう
「そうです!あ、ソウちゃん紹介するね!マネージャーのヒカリさん」
「始めまして。ハルから色々話は聞いてます」
…色々?ってなんだ
いかにも仕事が出来そうな格好良いオーラがある…
スーツをパリッと着こなしてて…
慌てて姿勢を正さねばと思ってしまう
「ソウヘイです、始めまして」
「挨拶もそうそうに悪いけど時間迫ってるから行くわよ!」
「ソウちゃんじゃあまたね!」
「うん」
嵐のように去って行った…
改めてハルは芸能人なんだと再確認した…
なんか凄い出会いしてるな…
俺も戻って早く練習しないとバイト始まる時間になる
走っていこ
7月半ば
歌唱審査の日
俺含め10人が順番に審査員の前で歌っていく。
待ってる時間が1番ソワソワする…
他のみんなの歌声が部屋から漏れ出て聞こえる…
めっちゃ上手いな…
いや…俺も今出来る最大限の事をするんだ
課題曲が出てから空いてる時間を練習に費やした。
大丈夫、大丈夫
自分に言い聞かせる
「次の方どうぞ」
俺の番が来た
中に入ると5人ほど審査の人が座っていた
いっきに緊張がはしる…
いつも通りにやるんだ…
よし!!
…思う通りに歌えたか?音は外さなかった…
あっという間に終わってしまった…
「結果は後日お伝えします」
「はい、ありがとうございました」
礼をして部屋を出る
…どうなんだ
今の自分に出来る事はやれた…と思うけど
満足に歌えた感が無い…
とにかく終わってしまったから、結果を待つしか無いんだよな…
数日後
スマホがなる
「オーディションの結果をお伝えします」
鼓動がいっきに速くなった。