キミの事
それは青天の霹靂のようだった
頭をガツンと打たれた時間だった。
スポットライトを浴びてるスターはみんな生まれ持った才能と恵まれた環境に居ると思い込んでいた。
浅はかな自分を殴りたくなった
【歌手ハル電撃引退】
その文字が目に入ってきた
…は?
何度もその言葉を確かめる
いやいや…何かの間違いだろ
何だよこのガセネタ!
だって昨日ライブしてただろ!!
落ち着け。詳しく記事を見てみよう
よく回らない頭で携帯の画面にかじりついた
そこにはハルの挨拶が書かれている
【急な発表になり申し訳ございません。先日のライブをもって歌手活動を終了する事になりました。今まで沢山の応援をして頂きありがとうございます。そして私の歌を愛してくれた方、支えて下さった方達全てに感謝しています。今まで本当に幸せでした。】
頭が真っ白になった
その場に立ち尽くす
…え
なんで!?
ますますパニックだ…
同じようにSNSでは大勢のファンが荒れていた
[嘘でしょ?なんでハル辞めちゃうの??]
[休止じゃなくて!?]
[急過ぎるよ…何も言わずに酷い]
色んな言葉や記事が飛び交っている
そうだよな…ファンの人はショックだよな
じゃあ俺が見た昨日のライブはハルにとって歌手活動最後だったって事!?
何が何だかサッパリ分からない…
歌手を辞めるなんて…そんな気配すら全然無かったのに
やむを得ない事情があったのか?
こんな人気絶頂の時に辞めるなんてあり得ないし…
真意を知りたい!!
本人から直接聞かないと真相は分からないし!
連絡して
いや、連絡先知らないし
事務所にかけても取り合って貰えないだろう…
俺はハルの事何も知らない…
て言うか そもそも人気歌手とただの一般人
ただ偶然出会っただけの間柄
ハルに会えたのも奇跡みたいなもんだ…
路上で歌う冴えないフリーターとは天地の差がある
隣で話したりして俺の感覚が馬鹿になってたんだ
普通の日常じゃあり得ない出来事だったんだから
聞きたくても何も聞けない…
携帯片手に立ち尽くしていた…
数日後、カイドウさんから曲の打ち合わせでレコード会社に呼ばれていた。
あれからハルに関して特に何の手がかりも無いまま時間だけが過ぎていた。
ネット内では色んな情報が溢れていて、あり得ない噂やデマが拡散されていた。
便利な世の中だけど過度な情報が出回るのが嫌でも目に入るのは考えものだ。
それに本人を傷つけるような内容はさすがに腹立つ。
事務所は特に対応などせずだけど大丈夫なのか?
「あ!ソウヘイ君!やっほー!!」
カイドウさんがいつもの緩いスタイルでやってきた。
「お疲れ様です。今日は宜しくお願いします」
ふとカイドウさんはハルの事、何か知ってるのか?と思ったけど…
知らないな、と秒で処理。
打ち合わせが終わった。カイドウさんが用意してくれてた曲が良すぎて感動した。
俺にはとてもこんな曲は作れる気がしない…
と思ったけど、弱気な気持ちじゃこの先やっていけない
まずはこの曲を練習して自分で表現出来るようにしなきゃいけない。
俺は俺の、今出来る目の前にあるこのチャンスを必ず掴むんだ
諦めずに拾ってくれたカイドウさんの為にも期待に応えたい
とにかく練習だ!!
出口に向かって歩いて居ると、前から見覚えのあるスーツの女性が歩いて来た。
…あれは ハルのマネージャーさんヒカリさん…だよな?
「…あ あの!!」
勢いに任せて声が出た
「…ソウヘイ君?だよね、久しぶり!」
スゲェ…1度しか会ってないのに覚えてるなんて
こんな一般人を…
今聞けるのはこの人しか居ない!
「…あの、 ハルの事なんですけど…聞いても良いですか?」
ヤバイ緊張する…
「良いわよ。ここじゃなんだから別室で話しましょう」
「ありがとうございます!」
案内されたミーティングルームに入る。
「ソウヘイ君はコーヒー大丈夫?」
「はい!頂きます」
緊張で乾燥し過ぎた喉にアイスコーヒーが染みわたる…
「あの…完全に部外者の俺が聞いても良い話では無い、と重々承知なんですけど…」
「ハルからソウヘイ君の事よく聞いてたし、本人もきっと聞きにくるだろうって予測してたから平気よ。」
え…そうなのか…
踏みこんだ事聞いてもいいか、勢いに任せたけど正直ちょっとビビっている…
ダセェな俺は…
でも、何で会って間もない俺に…聞かれても大丈夫な事なのか?
そしてポツリポツリとヒカリさんは話し始めた。
「ハルと初めて出会ったのはあの子がまだ7歳くらいだったかな」
「え!?そんな子供の時から知り合いなんですか? 」
「うん、そう。ビックリよね…いまだに忘れもしないあの日…
2月の身も凍る寒い日だった。雪も結構降って積もってた。私はその時今の会社に入りたてで中々仕事も上手くいかなくて缶酎ハイ買ってやけ酒してた。夜11時頃かな?橋の上で流れる川見ながら。寒くて凍えそうだったけど、まっすぐ家に帰る気にもなれなくてね、
そしたら、どこからか歌が聞こえてきたの。
最初はこんな夜中に歌が聞こえるなんておかしいし酔ってるからだと思ったけど、
よくよく耳を澄ませたら本当に歌う声が聞こえて。
凄く惹き寄せられるような声でね、
街灯も少ない場所だったけど音の鳴る方へ近づいて行ったら
橋の手すりに座って歌を口ずさんでる小さな女の子が居たの。
最初は幻でも見たのかと思った。
でも近くまで行ったら本当に女の子が夜の雪降る橋の上で歌ってた。
それがハルだったの。




