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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

天国と地獄〜地獄と言われた善人と騙された悪人〜

作者:

天国と地獄の話です。

少々グロいというか、気持ち悪いところがあるかもしれないので、苦手な人はそこを飛ばし気味によろしくお願いします。

まったくのフィクションなので、私の頭の中で勝手に作り上げた天国と地獄ですので、ご了承ください。

「あなたは、地獄行きです」


「え、あ、地獄?はい」


 あまりにナチュラルに言われたもんだから、理解するのにちょっと時間がかかった。しかも声でかいな。周りに聞こえる……って後ろに1人いるだけだった。


「あちらです」


「あ、はーい」


 人生この方、天国やら地獄やら深く考えたことはなかったが、まさか本当に存在しているとは。しかも迷いなく地獄行きが決定していたらしい。……そんな悪いこと、したっけな。


 歩き始めて五歩ぐらいで立ち止まる。


「えっとー、理由をお聞きしても?」


「理由、か。君には地獄行きの理由がわからないんだな?」


「うーん、まぁ、そうなりますかね」


「そうか。それもそうだ。行ってしまえばすぐわかるさ」


「あ、わかりました。ありがとうございます」


「はいよ」


 若干田舎のおじさんぽさのある、フランクな神様だったな。いや、閻魔様なのか?




 どうやら前を歩いていた男は、地獄行きだったらしい。そして、向かって右側を案内されていた。つまり、オレは逆の左に案内されればいい、ということだ。


「あー貴方様は言うまでもなく、あちらですね」


 そう言って指さしたのは向かって左側。ーーあたりだ。


「思ったとおりだ。ありがとさん」


「くれぐれもーー」


「なんだ」


「走って向かうことがないように」


「なにを。子供じゃないんだ」


「……そうですね」


 何を言ってるんだ、アイツは。子供だとでも思っているのか?まぁいい。


 …………………………………………………………………………………………歩いた。随分と歩いたな。いつになれば着くのだろうか。周りは真っ暗で何も見えやしない。


 ……戻るか?振り返る。もはや何も、方角さえわからなくなってきた。


 早く、早く、もっと。どんどん早歩きになる。


 気づけば走っていた。ーー光だ。やっと、やっと着く。


「はぁ……」


 着いた。膝に手をついたまま、顔を上げる。


「えっ」


 …………これが、天国?




「だいぶ、歩いたよな……」


 思わず、独り言がもれた。あたりは暗いし、地獄、というものに辿り着く気配がない。まぁ地獄に行きたい訳ではないが。


 疲れた…………疲れたなぁ……。


「……あ、新しく、こちらに来る方ですかー?」


 突然声を掛けられる。どっから出てきたんだ?彼女とも彼ともつかないような、中性的な顔つきと体型。白っぽい衣類を身にまとっている。いわば天使みたいな。


「え、ん?たぶん、はい」


「すみません、お迎えにさえ来ずに。長かったですよね」


「いえ、まぁ」


「もうすぐですから」


「はい」


 もうすぐ……地獄かぁ。




 あたりに広がってるのは、まるで地獄絵図だ。全部が赤くて、人間なのかさえわからないものがうじゃうじゃいる。なんだこれは。そういえば、あのとき、言われたよな。えっと、なんだっけ。たしか……


「キミ、シンイリカ?」


「え、はーー」


 振り返ると、目のつり上がった、顔が異常に大きく、細長い、何かがいた。


「うわぁー!!」


『くれぐれも走って向かうことがないように』





「こちらです」


「あ、はい」


 笑顔で案内されたけど、正直入りたくはない。嫌だ。でも、入らないと、駄目ですかね?


「ここは天国です」


「はい…………………………え?」


 目の前は白かった。どこまでも。地獄とは思えない。え?まてまて。天国?どうゆうことだ。


「あの、地獄って言われてきたんですけど」


「ああ……!そうだったんですね。気づかなくてすみません」


 彼か彼女か、は目を大きく見開く。


「いえ。えっと……」


「この世界には、4つ、分類があります。といっても、まぁ行き着く先は2つしかないんですが」


「はあ……」


「上から順に、とても良い人、良い人、悪い人、とても悪い人。基準は曖昧ですが」


「あぁ、はい」


 雑だな。


「で、あなたのような、とても良い人は、悪い人のために嘘をつかれることがあります。まぁ反省をより濃くするためにですね」


「……………………」


 どうなんだ、それは。


 つまり、私が地獄行きだと言われたのは、後ろにいたあの人に、ジブンは天国行きだと思い込ませてから、地獄へと突き落とす、と。なかなかに…………


「悪趣味、でしょう」


 思ったことをそのまま言われて心臓が跳ねた。


「ええ。ははは……」


 なんとなく居心地が悪い。


「あなたのような方には、ここも少々居心地が悪いと思いますが、まぁ、あんまり長くはないので」


「え、はい」


「では、また。会えたら」


 そう、その人は言うとまた、来た道を引き返す。


「あ、ありがとうございました」


「あぁ、いえ。……何か苦しくなったり、もう無理だと思ったら、僕を探してください。多少は何かできると思うので」


「え?はい」


「では」


 今度こそ引き返す。とりあえず良い人だったんだろう。




 その細長いなにか、は、オレを強引に引っ張って連れて行く。


「痛い痛い痛い痛い痛い、やめろってば」


「ナニ、ヲイウ」


「は?何ってなんだよ、てめーー」


 真っ赤な、海。


「なんだよ、これ」


「イマカラ、オマエ、ニモワカ、ル」


 そいつは、オレの首根っこをつかんで思いっきり、その海に投げ込んだ。


「う、」


 抵抗も虚しくもう、その中に、ーー痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。ひたすら熱くて痛い。


「た、すけ」


 溺れる。でもそれ以上に、痛覚を刺激し続ける赤。


 ついには声すら届かない。なんだ。なんだこれ。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いってば。オレは天国じゃねーのかよ。なぁ。痛い。痛い痛い痛い痛いって。


 たすけてくれ。殺してくれ。





「あ、新しく来た人だー」


「あ、どうも……」


「ほんとだー。めっちゃ優しそう」


 一人がこちらに気付き、どんどんいろんな人が寄ってくる。


「ここは、天国だ」


 人の波の後ろの方にいた人が静かにそう言った。でも、どこか冷めたような目をしている。


「えっと……皆さんはここで何をしてるんですか?」


 純粋な疑問を口にする。だって、天国って言ったってすることなんて特になくないか?来世まで、生まれ変わるまでここで意味もなく時間を費やすのだろうか。いや、どうだろう。そもそも時間という概念がここには存在しないかもしれない。


「見てる」


「え?」


「見てるんだ、あらゆる人の動きを」


「人の、動きを……?」


「そう。こっちに来て」


 言われるがままに付いていく。ひたすらに白い地面を踏みしめながら進むと、地上が見えた。


「こっから観察できるんだ。それで過ごしてる」


「…………」


 これはなんというか……うん、


「暇」


 そう言ったのは、さっき冷めた目をしていた男だった。気づけば隣に並んでいたらしい。


「え?」


「暇って思っただろ」


「いやいや……」


 俺は思わず目を逸らした。本音を見透かされたような気がした。


「あっははははっあの人やばー」


「間抜けだな、こりゃー」


「もう、しっかりしてよって、ねぇ?」


 さっき案内してくれた人達が地上を見て、めっちゃ笑ってる。なんだ?……しかも、ちょっと笑い方が、感じ悪いというか……。


「あんた、『とても良い人』だろ?」


「なんで……?」


「やっぱそうなんだ。ぱっと見たときからなんとなく、そうかなって思ってたんだよ」


 クククッと笑う男。怪しさ満点というか、なんというか。俺は若干引きながら様子を窺う。


「俺もなんだよ、『とても良い人』」


「え」


 思わず声が漏れた。きっと顔にまで出てると思う。俺はただただ彼を凝視していた。


「やっぱ驚くよな?あー楽しい。そういう顔見んのが一番好きだわー」


「あーはは」


 正直、こんな奴が、という印象だ。世間一般が思うであろう『良い人』のイメージからかけ離れている。……とはいえ、俺自身も『良い人』かと言えばそうでもない気もする。多少世話焼きなのは自覚しているが。


「俺だって自分を『良い人』だなんて思ってないけどさ、ここにいりゃある程度自覚するよ。自分は普通より、良くないことの線引が厳しいってことに」


「良くないこと……」


「そう。たぶん俺はもうすぐここからいなくなる。違う魂になって、きっと地上に戻る」


「生まれ変わりってあるんですか?」


「あるさ」


「そうか……」


「新入りさーん、こっち来て来てー。おもしろいよー」


「え、は、はい」


 俺はもう一度彼に視線を戻す。彼は口角だけ上げて笑った。そして言う。


「辛くなったら俺に言いな。じゃ」


 ひらひらーと手を後ろ手に振りながら歩いていく。それを俺はぼんやりと眺めていた。


 善人と悪人の線引ってどこだ?




「アーコンカイ、モ、ヨワイヤツ、カ」

「コンド、コソ、キタイシ、テ、タンダケド、ナ」

「コンジョーナシ、バッカ」

「ソンナニ、イッテ、ヤルナヨ」


 ヒョッヒョッヒョッ


 不気味な笑いを浮かべるヤツら。つーか、なんで、オレはまだーー


「オ、ヤットオキタ」


 また、ヤツはオレの身体を乱暴に掴む。


「離せよ」


「ナゼ」


「なぜって、お前何様なんだよ」


「ココノバンニン、ダ。ココニイル、ノハミン、ナ、バンニンダ。テイコウ、シナイノガ、ミノ、タメ」


「はあ?っざけんな!何やったんてんだよ、コラァ」


 バシィーン


 骨そのもののような手で思い切り平手打ちされる。なんだ、これは。なんて、屈辱的な…………………。


 左手に力を込め、思い切りそいつの顔を殴るーーはずだった。


 殴られたのはオレの方だった。


 何度も。何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。


 腕や足は拘束され、ひたすらに、殴られる。頬が熱を持っているのが、わかる。


 痛いよ。痛いよ。お袋にすら平手打ちされたの、1回だけなのに。なんで……………………


 ぐいっと顎を上げられる。おかげで飛びかけていた意識が強制的に現実に戻される。…………果たしてこれは現実なんだろうか。何か悪い夢でも見たんじゃないだろうか。この、化け物は…………あれ。何考えてたんだっけ?


「オマエハ、アトナンネン、スゴスコトニ、ナ、ルンダロウナ」


 上手く聞き取れなかったが、確実に馬鹿にされていることだけがわかった。





「あれ、見て」


 言われた通りに指さされた場所を見る。車が二台走っている。え、なに。煽り運転?


「煽り運転ってされたら嫌だけど、こうやって見てたらおもしろいよね」


 嬉しそうに話している。俺は気分を害さないように、曖昧に笑った。


 ……おもしろい?


 そういう違和感は続いた。


「ねぇあそこの小学生見てよ」


「え、なんです?」


 田んぼの近くを歩く小学生達を見る。あ、そんな際々歩いてたら落ちるよ。ハラハラしながら見ていると、案の定落ちた。泥まみれだ。


「あんなふざけてるから落ちるんだよねー」


「あー、ははっ」


 自分も過去に同じようなことをやったからだろうか。なんか、しんどい。


「あ、中学生だ」


 ぼんやり地上を眺めていたら中学校を見つけた。中にはもちろん中学生がいる。でも、人が少ない。放課後だろうか。


「……は?」


 嘘だろ。


 女生徒が女生徒に脅して、嫌がっているのに写真を無理矢理撮っている。


 ……なんで。なんでそんなことをする。そんなことができるんだ。


「あれ、もしかしていじめ?」


「あ、あぁ……」


「かわいそー。なんでこんなことになってんだろうね。……あ、見て、あの猫。めちゃくちゃ威嚇して怒ってる。かわいー」


 すぐにもう中学生から目を離した彼女に俺は我慢できずに聞いた。


「気に、ならないんですか?中学生がいじめられてるのに」


「え?気にしてどうするの?」


 心底不思議そうに彼女はそう聞いてきた。


「どうって……」


「私たちは何もできないんだよ?ここから叫んで止めることも裏で根回しとかも。だったら気にしたってしょうがないじゃん?私たちは現実で生きてる皆を娯楽にするしかできないんだよ」


 俺は唖然とした。


 間違ってる、なんて言えない。でも、明らかに何かが、何かが、食い違っているような。


 心の奥が気持ち悪くて仕方なかった。




 苦しい。


 死にたい。


 消えたい。


 オレは誰だ。


 なぜここにいる。


 なぜこんな目に遭う。


 何をした。オレが何をしたって言うんだ。


 オレが直接誰かを殺したわけでもない。なのになぜ。


 ただ金に困ってババア騙して物盗んで毎日必死に生きてただけだろ。何が、何が駄目だったって言うんだ。悪いのは、オレじゃない。


 この不平等な世界を作った神のせいだろ。なんでオレがこんな…………。


「……っはぁっぐっ」


 痛い苦しい痛い苦しい痛い苦しい痛い苦しい。死んでるのに生きてる。生きてるのに死んでる。





「あ!いた!」


「ん?あぁ、そろそろ来る頃だと思ってたよ」


「前に言っていたこと、わかりました」


「あー、よかったよ。よかった?」


「自分で言ったこと疑問に思わないでくださいよ」


「すまんすまん。で、どうだ?もう出ていきたい?」


 試すようにこちらを見る。俺はそれに迷いを悟られないように薄く笑って見せる。


「はい」


「そうか。……つっても、願ったらすぐ出ていける訳でもねぇけどな!」


「……はい?」


「ここの仕組み、教えてやろうか?」


「仕組み?」


「あぁ。俺たち『とても良い人』と、アイツら『良い人』。で、地獄にいるらしい『悪い人』と『とても悪い人』。この四つに分けられるってのは、知ってるか?」


「あ、はい。一応」


「おうよ。んで、『良い人』と『悪い人』が一番割合としては多くて俺たちみたいなのは希少種なんだ」


「え?」


「希少種」


「あ、はい。それはわかりましたけど」


「もっと言えば、『とても良い人』も『とても悪い人』も変わることはないけど、『良い人』と『悪い人』は生まれ変わりの度に入れ替わってる」


「どういう……」


「わかるだろ?地獄で更生させられた『悪い人』が『良い人』になって、『良い人』が天国で人間の愚かさを磨いて『悪い人』になるんだ」


 彼はニヤッと笑った。その笑い方はどこか冷めていた。


「…………」


「『良い人』と『悪い人』の差はなんだ?」


「それは……罪を犯したかどうか……?」


 きっと一番無難な答え方をしたと思う。


「その『罪』ってのはなんだ」


「……人殺し、とか」


「違うね」


「え?」


「俺は父親を殺してるから」


 時間が止まった気がした。




 ただ、人の不幸を見ると幸せだっただけだ。


 だから、オレは何度も何度も誰かを傷つけることばかりしてきた。でも、人間そんなもんだろう?心の内では皆そう思っていたはずだ。それを行動にしたかしなかったか、というだけで。


 だから、死んだ今関係ねぇじゃん。こんなのしたって人間変わりやしない。そう、変わらない。でも……。


「……ごめんなさい。人を騙してごめんなさい。人の不幸を笑ってごめんなさい。人の不幸を願ってごめんなさい。人を傷つけてごめんなさい。優しさに優しさを返さなくてごめんなさい」


 オレはなぜこんなことを口走っているのだろう。




「なに言って……」


「嘘でも質の悪い冗談でもない」


「え……」


 目の前の彼ら笑っていなかった。


「そうビビるな。俺だって罪の無い人間を無作為に殺した訳じゃない」


「あ……そうですよね」


「そうさ。俺にはひとり妹がおって、所謂父子家庭で育ったんだよ。それはまぁ今はよくあるっちゃあるかな。でも、俺も妹も成長するにつれて、父親がだんだん酒癖が悪くなっていって、ストレスを全部俺にぶつけるようになってさ」


「…………」


 思っていた以上に重たい内容。でもまぁ、そうか。殺すぐらいだもんな。


「俺だけならよかったけど、妹にも……もう、殺すしかないよな」


「…………」


「今ならわかる。もっと良い対処の仕方があったことも。でも、あの時の俺にはそれしか浮かばなかったんだ。それだけ」


「そう、ですか……」


「そんな暗い顔すんな。つーことだから、人を殺したから地獄に行く訳でもないってこと。わかった?」


「わかりましたけど……」


「なぁ、今からあの案内人探しに行かね?早いとこ、こっから出たいし」


「あ、はい」




「ソウダ、ソウダ。ソウシテレバイインダ。ナンダモノワカリイイ、ジャナイカ」


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


「ヨイヨイ。オマエ、ハ、キットイイヒトニナレル」


「ごめんなさいもうしません、ごめんなさいごめんなさい」


「アト、スウネンシタラ、ナ」





「どこにもいねぇ」


「来たときには探してくださいね、的なこと言ってたのに」


「あいつ、テキトーなこと抜かしやがって」


 もうどれぐらいの間過ごしたのかわからない。どこに行こうと見つからなかった。そもそも出口も入口もまともにない広大な敷地の中からどう探し出すんだ?


「これさぁ」


「ん?何」


「何かの手違いで地獄に行っちゃったりしない?」


 ずっと思っいたことを口に出す。だって、こんだけ歩いてりゃ行き着く場所まで行ってしまいそうだった。


「……ないだろ」


 さすがの彼も微妙な顔をしながら言う。


「まぁそうだよね。あっちゃまずいよね」


「あ」


「え?」


 視線の先を見る。そこに居たのはずっと探していたあの人だ。


「いたぁー!どこにい……」


「なんだありゃ」


 中性的な涼しげな顔つきは変わっていない。けど……血だらけで誰かを担いでいる。


「お久しぶりです。どうされました?」


「ど、こっちの台詞ですかね、それは」


「僕ですか?仕事ですよ」


「へぇ?」


 隣で彼が興味深そうに眉を上げる。


「僕の仕事は天国までの案内と、次の世界までの引き継ぎですから。今日は地獄の方だったんですよ」


「その方、天国に行く前に見た……」


 見覚えがある。あの、後ろにいた男だ。でも、顔つきが少し変わったように見える。


「あ、そうなんですね。とても悪い人かと思ったんですが、まぁそうそういないですね、とても悪い人は」


「じゃあ、この人は悪い人なんですか?」


「そうそう。随分反省されて、もう次の世界に送ることになったんですよ。あ、そうだ。あなた達も、そういうことですか?」


「えぇまぁ……」


「では案内しますね」


 その人はにっこりと笑った。穢れなんか知らなさそうな表情で。




 ぐわんぐわん、と頭が揺れている。オレが狂っているのか、本当に揺れているのか。


「天国はどうでしたか?」


「そうですね……まぁまぁですかね」


「楽しかねぇよな」


「あらら、そうでしたか」


 会話が聞こえてくる。誰の声だろう。わからない。でも苦痛はないからいいか。心地良い。やっと解放された。いや、夢かもしれないな、これは。あれの終わりなんて考えられなかったから。


「あ、目、覚めました?」


「え……はい」


「なんだ、普通に良い人そう」


「悪人の面はしてないな」


「今から来世に行きますからね」


 オレは何がなんだかわからないまま目をもう一度瞑った。




「ここから先に進めばすぐ来世です。もちろん、記憶はなくなります」


「はい、では。ありがとうございました」


「あの、その人は……」


 俺は眠ったままの彼を見ながら言う。担いでいるその人は苦笑いを浮かべた。


「放り投げます」


「えぇ……」


「まぁ行き着く先は同じですから。では幸せになってくださいね」


「「はい」」


 光が眩しかった。



 ◇◇◇


「おまえさぁ……何やってんの、まじで」


「何って、花飾ってるだけだけど」


「花、愛でる趣味あったっけ?」


「いや……なんかいつの間にか。だってあの人いっつも花くれるんだもん」


「え、それさぁ、おまえに気があんじゃね?やめとけよ」


「なんで。私別にあの人のこと嫌いじゃないよ?」


「なんでって……俺、おまえのこと好きなんだけど」


「知ってる」


「……は?知ってんの?知ってたの?」


「態度でバレバレ」


「まったく……いい性格してるわ。で、おまえは?好きじゃない?俺のこと」


「結婚しようか」


「……段階飛ばしすぎだろ……いいけど」


「いいんだ」


「つーか、まじでその人、断っとけよ?もう俺の奥さんなんだから」


「まだ違うって。てか、心配せんで大丈夫だよ。あの人、従兄弟なだけだし」


「……いや、従兄弟って結婚できるんだぜ?」


「へぇ」


「なんだよ。俺は独占欲強いの、しょうがないじゃん」


「開き直らないでよ」


「ふはは。しゃーない」


「まぁでも、君は良い人だから、なんだかんだ見守るんでしょ?陰で」


「もちろん。変なことはさせないよ?」


「ならいいじゃん。……てかさ、ずっと思ってたんだけど」


「ん?」


「私のどこをそんなに気に入ったの?君ならいくらでも彼女でも彼氏でもできたでしょ」


「あー……なんだろ。まっすぐすぎるぐらい、まっすぐなとこかな」


「そうなんだ。私も、君のひねくれたまっすぐさ、好きだよ」


「それ、まっすぐって言うのか?」


「一応」


「あ、あと初めて会った気がしなかった」


「確かに。わかる気がする」


「だろ?」


「あ、でも、あの人にも言われたな」


「あの人って、さっきの花くれる人?」


「うん。まぁ花屋だから勿体ないって言ったらくれるだけだけど」


「で、なんて言われた訳?」


「どっかで会った気がするって」


「……それ、ただの口説き文句じゃね?」


「いやいやいや」


天国と地獄。

でも、その後にはまた、同じ世界に生まれ落ちるのだろうか。

読んでいただき、ありがとうございます!

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