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16.エピローグ

 翌日、鳴り響くスマホの着信音に目を覚ました。

 碧さんと別れた後、朝までスノードロップ鑑賞会をしていて寝落ちしてしまった。


『ねえ、SNS見た?』


 ぼんやりした頭で碧さんの声を聴くと、まだ夢の中にいるようだった。

 でも、これは現実。


「何かあったんですか?」

『俺の名前がトレンド入ってたんだけどさ。昨日俺が男と抱き合ってたって噂になってる』


 げ……

 途中で公園に移動したけど、それまでは人通りのある街中だった。目撃者がいないはずがない。

 特に昨日はスノードロップのイベントがあったのだから、碧さんの顔を知る人はあの辺に多かったはず。


「すみません! 俺人目も憚らず」

『いや、憚らずに抱きついたのは俺だから。でも、これでまた男好きだとかいじられそうだけどね」


 このご時世、ラジオ等で碧さんに対する男好きいじりはされなくなった。とはいえ、ネット上では『君島は男好き』なんてネタにされていることもある。

 恰好のネタを提供してしまったことに、申し訳なさを感じた。


『ま、本当だからいいんだけど』

「ちょっ、えぇ!?」


 息を飲んだ俺の耳に、ケラケラと高い笑い声が聞こえる。


『嘘。俺が好きなのは男じゃなくて、綾介くんだから』

「あ、朝から何言ってるんですか」

『もう昼過ぎだよ』

「そういう話ではなく」


 昨日のことが夢かと疑う間もなく、碧さんボイスでこんなことを……心臓に悪い。


『今日の夜は空いてる? ゆっくり話したいんだけど、うちに来ない?』

「い、いいんですか!? あの頃の家とは、違いますよね?」

『さすがにね。今はもう少し広い部屋に住んでるよ。あ、ルンバもいるから掃除は大丈夫』


 俺が一瞬、昔の惨状を思い出したことを察したようだ。

 きっと良い家に住んでいるのだろうから、ゴミ屋敷にはなっていないと思いたい。


「夕ご飯、よかったら何か作りますよ」

『ホント? オムライス食べたいな』

「わかりました。食材買って行きますね。それじゃあ」

『あ、待って』


 なんですか? と聞く前に、碧さんの囁き声が耳に届いた。


『愛してるよ、綾介くん』

「あ、碧さん!?」

『綾介くんは? 昨日ハッキリとは言ってくれなかったよね』


 好きだとか愛してるとか、陰キャオタクにとってはファンタジーのセリフだ。口に出すのは恥ずかしすぎる。

 言葉にした方がいいのはわかってる。だけど、きっと顔を合わせたら言えなくなるから。だったら――

 

「好きです。愛してますよ」

『――っ』


 碧さんの短い息遣いが消え、何も聞こえなくなった。


「碧さん?」

『……アフレコで散々言われ慣れてるのに、すごい胸にきた。綾介くん、声優になれるよ』

「俺は芝居じゃできません。碧さんにだから言えるんです」


 逆を言えば、碧さんは仕事で散々言っているわけで。

 でも俺に言ってくれたその言葉は、どんな乙女ゲーで聞いた告白ボイスよりも、甘く優しかった。


『俺だってこれからは、綾介くん以外に言ったりしないよ』

「言ってください。仕事なんですから」

『嫉妬くらいしてよ~』


 碧さん、30代になったのになんだかまだ子供っぽい。

 

 こんな風にまた碧さんと話ができている。歳も立場も違うけど、傍にいられる。


 そしてまた碧さんと食事をして、俺の料理をおいしいと言って食べてもらえるはずだ。

 こんな奇跡、ブルームーンだって想定していなかっただろう。


『じゃあ、続きはうちに来てから言ってね』

「え! ちょ、ちょっとそれは――!」


 切られてしまった。面と向かっては言えないから今言ったのに。

 まあ、いいや。なるようになるだろう。


 それよりも、碧さんにまたご飯を食べてもらえるのが嬉しくて仕方ない。

 そう思うと、着替えも髪のセットも自然と心が弾む。


 数時間後。

 碧さんのマンションで身動き取れなくなっているルンバを助けることになるとは、まだ俺は知る由もなかった。



END


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