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姉妹百合にはさまる女は罪!  作者: 河藤 十無
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第84話・みずいろから始まるあさってな勘違い

 衣替えの季節である。

 女の子が薄着になり、イロイロと警戒すべき事が多い。

 卯実や莉羽と、こういう仲になってから初めて迎える、夏。

 隙の多くなるこの季節、守るべきものをしっっっかりと守らなければっ!


 「……佳那妥ぁ、どうでもいいけど下着透けてない?」

 「うそん」


 お昼休み、いつもの第三講堂。三人でお昼ごはん食べてたら、一人で拳握ってぶち上がってたあたしの胸元を見つつ、莉羽が不躾なことを言っていた。

 ていうか水色のブラって透けるの?今まであんまり気にしてなかったんだけど。


 「気にしてなかったって……よくそれで女子高生務まってたわね」

 「いや、あたしの下着になんか興味持つ男の子おらんかっただろーし」

 「だから佳那妥はまたそういう……もう、去年とは集まってる視線の数違うことくらい、いー加減自覚しなさいってば」

 「う、うい」


 妙な迫力に気圧され、箸を咥えたまま頷く。

 隙間から差し込む陽の光に、講堂の中にたまりに溜まりまくった埃が舞っているのが見えて、何やってんのかなあ、あたし……と思わざるを得ない。

 仕方なく、もぐもぐと咀嚼を再開すると、一足先に食べ終わった様子の卯実が、「ごちそうさま」と共に弁当箱を片付けると、まだもぐらもぐらしてたあたしの胸元をじーっと見つめて、下着の透け具合とやらを確認したのか、ため息と一緒に言う。


 「佳那妥、ちゃんと透けない色ってあるのよ?夏服の間はそれを選んで着けた方がいいわよ」

 「んなこと言っても、最近まーたサイズが上がって下着の在庫が乏しいんだもん。選ぶ余地なくって」


 卯実のアドバイスは拝聴すべきだろうけど、物理と金銭的理由によりやむを得ない事情だってあるのだ。

 母に言えば資金援助くらいしてもらえるかもしれないけど、太った、なんて理由で下着の買い替えの補助を願い出ても「痩せろ」で済まされることは目に見えている。ちくせう。

 ……って。


 「あ、あの卯実……さん?何をして……はるのでしょう……?」


 思わず似非京都弁で疑問を呈する状況だった。


 「じー」


 弁当箱と箸を左右の手に、肩の高さに持ち上げてるあたしの胸元を観察してた卯実が、顔ごと近づけてきて胸元ちうかバストを擬音付きで見つめてた。いやその、いくら彼女カノジョの関係とはいえ、そんなじっくり見られると流石にその。ていうかナマで見たことあるでしょーが。いやでも改めてそんな真似されると……しかも学校でっ?!


 「……おねえちゃん、どしたの?」

 「ん?んー……佳那妥さあ、これ太ったんじゃなくて普通にバストアップしてるだけじゃない?」

 「え?……い、いやブラが最近キツいのは事実で……」

 「でもアンダーは変わってないわよ。たぶん。トップのサイズ、測り直したら?」

 「どれどれ。わたしも拝見ー……んー、まあ確かに眼前にした時の圧は増えてるカモ」

 「莉羽まで何しちゃってるのっ?!」


 なんか二人の目の色に不穏なモノを覚えて、弁当箱とお箸を持ったままの手で胸を隠す。両者を取り落とさなかったのはあたしの食い意地のためか。落としたら勿体ないじゃんか。まだアジの南蛮漬けが残ってるのに。


 「うん。こないだ見た時に我が彼女ながら、わー育ってるなあ、って思わず感心したものね。どれ佳那妥。久しぶりに検分してあげるから見せてみなさい」

 「ここ学校だよ卯実っ?!」

 「そだね。彼女としてはどれだけ成長したか確認する義務があるわ。ねー、佳那妥。ブラウスだけでいいから脱いでみなさいな」

 「莉羽までおかしなこと言うんじゃありませんっ!」


 後ずさるあたしににじり寄る二人。

 これがにやにやでもしてりゃーふざけてるんだろうと「しょうがないなあ、二人とも」ってな感じに収まっちゃうんだろうけど、妙に真剣なもんだから茶化す空気にもなりゃしない。


 「とっ、とにかくここ学校!学校だからっ!なんかしたいことがあるなら放課後家に帰ってからにしよ!そうしよ!ね?ね?!」


 学校、ということを強調したおかげで二人とも正気に戻ったのか、それとも家で半裸さらすならその先も……とか計算しちゃったのか、微かに残念そうな顔にはなったけれど、今のところは身をひいてくれた。

 とりあえず当面の危機は回避したよーなので、あたしも慌てて弁当の残りをかっ込んで「ごちそうさまでしたっ!」をする。うう、折角のアジの南蛮漬けがぁ……弁当のおかずにリクエスト出したら珍しくおかんが応えてくれたのにぃ……自分で作る、という選択肢のない辺りが料理の心得皆無なじぇいけーの哀しさである。


 「……ま、それなら放課後うちでやりましょうか」

 「そうだね、おねえちゃん。ちょうどお母さんも帰り遅いし」


 ……なんだと?

 お昼の後片付けをしながら不穏なことを言い出した二人を、戦慄の目で見ながらあたし期待に胸を躍らせ……じゃなくて恐怖に身を震わせたのだった。


 ……うっさいわ。あたしだって期待はしないでもないやい。



   ・・・・・



 「はい、じゃあ佳那妥立って、上脱いで」

 「……はい」


 大人しく、制服のリボンを外してブラウスを脱いだ。


 「それじゃあブラも外して」

 「ええっ?!」


 そ、そこまでするとは聞いてないんデスが……と思いつつも言われた通りにする……う、うう、昼日中からチチを晒すとはあたしも大人になったものよう……。


 「おねえちゃん、持ってきたよ」

 「ありがと。それじゃあ佳那妥。そこに立って」

 「は、はい……」


 なんか有無を言わさぬ口調に、あたしは大人しくしたがってしまう。

 ここはお馴染みの品槻家。

 その、卯実と莉羽の姉妹の部屋。

 ここで幾度となく姉妹の桃色だか百合色だかな行為が行われてきたことを思うと……うう、なんか頭がフットーしておかしくなりそう……。


 「だから隠したらだめだってば。腕下ろして、腕」

 「……はい」


 既にあたしは二人の奴隷。

 ざわめく心を納めた胸を、生まれたままの状態で二人に晒す。

 ああ、二つの双眸から視線が注がれていると思うと、自然と目は閉じて……もっと見てもらいたくなる。

 先端がなんだかむずむずするよーにも思える空気の中。あたしは腕を後ろに組んで、ささやかな胸を反らしてしまう。

 もっと。もっと見て欲しい。その視線を突き刺して、あたしに恥辱の昇奮を与えて欲しい………うみぃ、りう……。


 「あ、それじゃ駄目よ佳那妥。はい腕前に上げてー」


 はい?


 「そうそう、肩の高さで水平に。それでそのままぐーっと前屈みになって」


 ……は、はい。


 言われた通りにする。なんか立位体前屈するみたいな格好で……っておい、なんかエロい雰囲気になんかなりよーがない展開なんだが。いいのかこれで。


 「はい、それでいいわ。じゃあ莉羽、測ってちょうだい」

 「おっけー。佳那妥ちょっとヒヤッとするからね?」

 「は?……ひゃっ?!」


 冷たい感触がチチから脇を通って背中に伝った。

 目を開いて胸元を見たら、その冷たい感触のものが紐状のナニからしいとは分かった。ていうか、巻き尺?


 「んー、佳那妥ってサイズの割には全然垂れてなくて形もいいよねー……っと、動かないでってば。えーっと……はちじゅうさん。くっそー、追いつかれた!」

 「はいはい、じゃあ佳那妥体起こして。今度はアンダー測るから」

 「う、うん……うん?」


 言われた通りにすると、背後に回った莉羽がチチの下に巻き尺を回して締め付けてきた。心なしか乱雑な手付きだった。


 「えーと……ろくじゅうはち。細いなあ……いいなあ……」

 「え?え?」


 巻き尺を下ろしてなんか落胆する莉羽だった。

 一体何が起こった……って、つまりこれって?


 「アンダーが68のトップが83か。立派なCじゃない、佳那妥」

 「だよねー。ほらおねえちゃん、佳那妥のブラこれ70のBだよ?体に合うわけないって」


 ……なんか、サイズ測るつもりだけのようだった。

 ああああたしの勘違いヤロー!えろ娘!脳内ピンクとか反論出来やしねえっ!!……ま、まあそこそこすけべぃなのは自覚してるけどさー……。


 「春に身体測定したのに、佳那妥も結果もらったでしょ?」

 「もらったけどどーでもよくって物理的にも心情的にも消去してた」


 はい、と渡されたブラを装着しながらあの忌々しい紙片のことを思い出す。確か身長と体重の去年との差違だけ見てすぐごみ箱に直行させた気がする。今思うと太ったんじゃなくてチチが成長してたんか……。


 「何やってんのよ。じゃあ次の週末は下着買いに行こうか。いいよね?おねーちゃん」

 「ふふっ、佳那妥の下着買うなら他の予定なんか全部キャンセルして行くに決まってるわ」

 「うう、予備校サボるよーな真似だけはしないでよ、二人とも……」


 まあ遊びの予定が決まるのは悪いことじゃない。

 ブラのつけ方についても二人にツッコミいくつか入れられてたけど、そんなもんうちのおかんは教えてくれなかったから仕方がねーんや。


 「っていうか、自分で下着買いに行くなんて初めてかも。あ、卯実?ブラウスとって……え?」


 そんで、上半身全裸から半裸に戻り、人前に出ても恥ずかしくない格好になろうとした時に、気がついた。


 「…………」

 「…………」


 ……二人の、あたしを見る視線がだいーぶ、怪しさを増していることに。

 え、ちょっ……あ、あのこれって、あたしが勘違いしてましたー、ってオチついて終わりの話じゃなかったのっ?!

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