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姉妹百合にはさまる女は罪!  作者: 河藤 十無
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第75話・いろいろ明暗のある二人と二人?

 そんな都合良くちーちゃんのおばあちゃんが出かけるなんてことも無かったのだけど、詳しい話を聞いたおばあちゃんは喜んでちーちゃんのために場所を提供してくれることになった。

 五月終わりの日曜の一日、あたしたちがいろいろ食材抱えてやってくると、おばあちゃんは「千晶のことよろしくね」とニコニコしながら出かけていったのだった。


 「はあ~~~……千晶のおばあちゃん、めっちゃいい人だよねぇ……」


 そんなおばあちゃんを見送ったあたしたちは、特に莉羽がなんか妙な感慨に囚われてか、まだ何も始まってないのに黄昏れてしまっていた。


 「ねー、卯実?もしかして莉羽っておばあちゃんっ子なの?」

 「どうかな?お父さんの方のおばあちゃんって随分昔に亡くなってるし、特に意識したことないけど。お母さんの方のおばあちゃんは……まあ、速瀬さんのおばあちゃんとは大分タイプ違うしね」


 玄関でなんかまだ脱力してる莉羽を引きずるよーにして台所に引っ張って行く時にそんな話をしたんだけど、まあちーちゃんのおばあちゃんがとてもいい人……っていうのは同意するとして、莉羽にはそういう人とか関係に憧憬めいたものがあるのカモなあ、って。優しいおばあさんと、甘える孫、みたいな。


 「それって普通におばあちゃんっ子、って意味よね。ほら莉羽?そろそろ自分で歩きなさいってば。重いでしょ」

 「おねーちゃん、重い女は嫌い?」

 「自分で立って歩けるなら重くても軽くても関係ないわよ」


 そういう意味じゃないのに、って軽くぶーたれる莉羽は、今日は妙に子どもっぽい感じだった。


 「おーい三人ともー、準備出来たし始めよー」


 そんでめんどくさくなってる莉羽を(文字通り)引きずってたあたしたちに、台所から焦れたようなちーちゃんの声がする。

 持ち込んだものが食材、ってことで分かるように、今日は作るところから始めるのだ。何を?と言われると四人全員が「ナイショ」とうそぶいていたことで分かるように、何を作るのか、というところからが勝負なのだ。

 ……もともとは四人で遊びたいね、という大変かわいらしいところから始まったってのに、一体どうしてこうなった。


 「そんなの佳那妥が作ってもらうだけの立場になりたくなーい、とかわがまま言うからじゃない。大人しくわたしたちに養われてればこんなことになってないわよ。わたしとおねえちゃんの作った料理で、たっぷり楽しませてあげるわ」

 「えー……カナっぺそんなこと言ってたの?ボクですら美味しくもないお弁当作ってみよーって気になったのにぃ」

 「私は別にどっちでもいいけれど、作れるに越したことは無いから、将来のためにもこの機会に基本的な調理技術身につけた方がいいんじゃないかしら、って思うわ」


 そこまでけちょんけちょんに言わんでもいいやん。

 あたしはいじけて、ちーちゃんの横を抜けて台所に入り込む。

 中央のテーブルには、それぞれがもちよった食材が並べられていた。あたしの持ってきたものだけ占有するスペースが狭い。なんてこったい。うう、この面積の差が三人とあたしの間にあるやる気の違いなんだぁ……って、黄昏れていたんだけれど。


 「ふふ、今日はそんな小難しいこと考えないで楽しんだ方がいいんじゃないかしら。佳那妥も速瀬さんと一緒にデザート作ってくれるんでしょう?お腹を満たすものは私と莉羽に任せて、いい感じのものをお願いするわね」


 すぐ後に続いた卯実が、ごくごく自然にそんなことを言ってくれた。

 そうやって場の空気を前向きな方にまとめられるところは流石におねーちゃんなのだ。

 そして卯実の言葉であたしだけじゃなくてちーちゃんも気を取り直したのか、袖をまくってあまり使い込んだ様子のない自分のエプロンを着けると、「ほいじゃ始めよーか」と率先して自分の食材のより分けを始め……あ、そういえばエプロン忘れた。


 「え?」

 「佳那妥ぁ……今日何しに来たのか分かってる?」


 うう、あたしってばやっぱりダメな女なのね……料理をするっていうのにエプロンのことすら頭に無いなんて……。


 「ああはいめんどくさいからメンヘラ仕草はやめよーね、カナっぺ。エプロンなら貸してあげるから。ほい」

 「あい。ありがとちーちゃん」


 自分の着けてたエプロンを外してあたしに渡すちーちゃんであった。む、あんま使ってる様子は無いけど外したばかりだから何やらちーちゃんの匂いが……くんくん。


 「え、ちょっ?!か、佳那妥ぁ……なんか恥ずかしいから身につけてたものの匂いかぐのやめて欲しいなあ……」

 「お、おう。ごめんちーちゃん。なんか好奇心が抑えきれず……」

 「好奇しぃぃぃぃぃんんんん?」


 あ、いかん。なんか莉羽がジェラしっていた。なんかかぁいい。ただあたしとしては別に他意はなく、ほんと文字通り興味の赴くままに……。


 「なるほど。なら私もちょっと失礼………ふんふん。へー、速瀬さん何か香水とか付けてる?」

 「へ?」


 ムスーっとしてた莉羽を見てちょっと和んでいたら、手に持ってたエプロンを横から覗き込んできた卯実があたしと同じよーに……いやもっとちゃんと鼻を押しつけるようにして匂いをかいでいた。あのあの卯実さん、何してますの?


 「何って。佳那妥が好奇心抱くくらいだからさぞかしいー匂いなんだろうなあ、と思って。なるほど確かにとってもいい感じよね」


 ご満悦、って感じにニコリとしながら、卯実はまだふくれてる莉羽の肩を抱いて「よしよし。私がついているわよー」って反対側の手で妹の頭を撫でていた。

 あ、あのー、なんかこう、あたし的にはどういうことかその……。


 「ち、ちーちゃん?」

 「ほふぇっ?」


 なんか感情の持って行き場が見当たらなくて隣のちーちゃんを呼んでみたんだけど……。


 「なっ、なにかなカナっぺ?!」

 「…………その、なんでちーちゃん赤くなってますん……」

 「なんでって言われても……そのー……」


 右と左の人差し指の先っちょを合わせ、ほんっと「もじもじもじもじ」みたいな感じで、莉羽を「よしよし」してる卯実を上目遣いでチラチラ見ておりました………おい、なんだこの状況。


 「だ、だってさぁ……卯実ちゃんみたいなキレーなコにあんな真似されたら誰だってこんなになるよぉ……うう…」

 「ちーちゃん……」


 うん。分かる。言いたいことはひっじょーに、よく分かる。

 そらあたしだって自分の脱いだものに興味持たれて「いい匂いね」なんて言われたらどーしたらいいかよく分かんなくなる。それは間違い無い。

 けどさあ、ちーちゃんが卯実にそーいう風になるのを見ると……うう、なんなんだよぅ、このモヤっとしたのは……。




 「それじゃあわたしとおねーちゃんが前菜とメインを作るから、二人はご飯炊くのとデザートをお願いね」

 「それはいいけど何作るの?」

 「ふふっ、それを最初に教えたら何も面白くないでしょう?隣で作ってるんだから見ながら当ててみて」

 「……ねー、佳那妥ぁ。ボクたちが作るものなんて材料見ただけで分かっちゃうんじゃない?」


 封を切っていない白玉粉の袋を持ってたちーちゃんが、同じく封を切ってないこしあん(調理済み)を持ってるあたしにそうぼやく。

 まー見れば分かる通り、あたしの作るものなんか白玉団子である。家庭科の調理実習で小学生が初めて作るみたいなもんだが、どーせ料理の経験なんか小学生と大差無いあたしにはお似合いである。

 ちなみにどーすりゃいいのかすら自分では思いつかなかったので、母に相談した結果でもある。なんでも他人様に食べさせるものを作るのに何があっても失敗しないように、という娘へ向けたものは完全にゼロな気遣いだった。覚えとけよ。


 「ていうかちーちゃんはちーちゃんで別に支度あるんじゃん。別にあたしに便乗する必要なんかなかんべ?」

 「そんなこと言われてもなあ……ボクの分はおばーちゃんが下ごしらえしてくれたものを混ぜてフライパンで焼くだけだもん」


 ちーちゃんが何を作るのか、と思ったらよもぎパンらしい。なんでもオーブンで焼くような本格的なのじゃなくて、生地をまとめてちょっと膨らんだらコンロで焼くだけで済むとかなんとか。どっちかっていうとヨモギのホットケーキみたいなものだろうか。


 「まあご飯炊くのも任されてるんだから、そっちも進めながらやってみよまい」


 おかずが最高の仕上がりなのにお米が炊けてませんでした、なんて冗談にしても申し訳なさ過ぎるわ、と手際良く魚を捌くところから始めてる二人をちらっと見てため息をつく。

 現役女子高生にして生魚をおろせるとかどーなってんの、あの二人。育った環境が違いすぎるわ、あたしたちとは。


 「……言っておくけどね、カナっぺ。ボクは病気のこともあってあんまり家事出来ないだけだからね。意欲だけはあるんだからね。今後の成長に乞うご期待だよ!」

 「一体何のアピールかはよく分かんないけど、分かった分かった、あたしがだらしないってことにしておくよ……」

 「全然分かってないじゃん。佳那妥のあほー」


 貴重な相棒は頬を膨らませて機嫌を悪くしてしまった。こーいう理不尽なところ、あっちの二人と変わんないよなあ……それともあたしに至らないところがあるからなのかしらん。今度ハルさんに聞いてみるかー。

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