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姉妹百合にはさまる女は罪!  作者: 河藤 十無
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第67話・うみでデート! 中編

 「うみはいいねぇ……」

 「ありがとー……」


 卯実のことじゃなくて海のことなんだけど、いー感じに思考能力が低空飛行してたので特にツッコミもいれず、あたしの右肩に頭を預けてきた卯実に同じよーに頭を傾けてごっつんこ。


 「あいたー……」

 「ごめんねー……」

 「いいよー……」


 ああ、春は爛漫さんざめく。海無し県民には潮風もいっそ心地よい。そして右にも左にも愛しい恋人。このまま時間が過ぎたらいいなあ………。


 「ね、どこか遊びに行こうってば」


 そう慌てなさんな莉羽さんや。埼玉県民の海の楽しみ方は融通無碍。泳ぐばかりが遊びではないのです。際どい水着に興味はなくもないけれど、それをあたしが着てどーする。そういうのは誰もいない場所でダイナマイツなおねーちゃんや、着痩せするけど実は結構……な妹さんが着てこそ華。ああ、ビキニ姿の百合姉妹を並べてそこに挟まれたい。


 「別にいいけど。そこにプールあるし。行く?」


 え。うそ。


 「ウソじゃないってば。佳那妥の水着のレンタルもそこで使おうかなー、って思ったんだし」


 なんならおねーちゃんとわたしとお揃いにする?とか言われて目の前をひらひらしてたチラシを再度ガン見。あ、ほんとだ。屋内じゃないけどプールがある。しかも連休から営業開始してるんだ。

 でもなあ。


 「……あたしは卯実と莉羽のいー感じな水着姿は見たいけど、他の男に二人のいー感じな水着姿見られるのはガマンできない」


 ついでに二人の前でビキニの水着なんか着用する自信も無い、というのも偽らざる本音だったりする。


 「また面倒なことい言い出したわね、この子はもう……」

 「その割におねえちゃんだって満更でもなさそうじゃん」

 「そりゃそうでしょ。好きなコに独占されたい、なんて言われて女がうずかないわけないもの」

 「問題は立場を同じくする女の子がもう一人いてそれが妹で更には私たちに独占欲示してるのが同じ女の子だってことくらいかなあ」


 別に問題でもなんでもなさそーな呑気な口調で、莉羽もそう同意していた。

 まあ何と言うか平和だよね。

 堤防越えて砂浜に出て、そこはナンパ目的のヤローどもというよりは家族連れとかカップルみたいな人影ばかりで、少し日差しが強くて日焼けの心配する以外は。


 「あれ?佳那妥日焼け止め持ってこなかったの?」

 「うん……」


 うー、洒落こいてノースリーブなんか着てくるんじゃなかった。卯実と莉羽と付き合い始めてから柄にもなくオタ趣味から着るモノとかに少しはお金使うよーになって、古着メインだけど自分で選んだもの着てきたのになあ……ひゃうっ?!


 「えっ、な、なに?」

 「ほら、腕出して。おねーちゃん、そっち塗ってあげて」

 「了解よ」


 莉羽の側の腕に冷たい感触がしたかと思ったら、目の前をプラスチックの小さなボトルが横切って、今度は反対側の腕からも同じよーにヒヤッとした、けど慣れると気持ちのいい感じがする。見ると、あたしを挟んでる卯実と莉羽が、それぞれの手に日焼け止めを盛ってあたしの腕に塗りたくっていた。


 「え……あの、ちょっ……うあ、きもちいーかもぉ……」

 「日焼け止めくらいで気分出さないでよ、もう……」

 「ふふん……わたしたちの手で佳那妥をメロメロにしてあげるんだから」


 最初は日差しで火照った肌に冷たいオイルがしみ入るよーだったけど、そのうち適度に温まってぬるぬるな日焼け止めオイルを塗す二人の手付きがなんだかとってもえっちくてぇ………。


 「う……な、なんだか最近の佳那妥って妙な色気があるわね……」

 「……同感。わたしさー、時々佳那妥の横顔見てるとしゃぶりつきたくなるんだもの」

 「お願いだから学校とか家族の前ではやめてねっ?!」

 「ふぅん……ってことは、二人きりだったり三人だけの時はいいんだ。ふぅん……佳那妥も結構覚悟出来てきたわね」

 「そうだね。ね、こないだの続き……どっかで出来ないかな?あの時は疲れてて寝ちゃったからさ、もーそろそろ佳那妥も含めて行き着くところまで行ってもいーんじゃない?」

 「あの莉羽さん……?それって卯実とは行き着くところまで行ってるとゆー余裕の発言でしょうか……?」

 「やあねー。そろそろわたしたち、一線越えてもいい関係じゃない?ってことに決まってるじゃないのー」


 そうなんかなあ。卯実はともかく莉羽の口振りって、どっかヤケクソめいたものが感じられて、素直に照れたり興奮したりは出来ないんだけど……考え過ぎかな?


 「……はい、おしまい。佳那妥、あと首のとことか顔も塗っておいた方がいいけど。してあげようか?」

 「はいはいはい!わたしがやってあげる!」

 「顔はともかく首筋に触れられたりしたらヘンな気分になりそーだから遠慮しておく」

 「ちえっ、気付いたか」


 莉羽は何をしようとしてたの、何を。

 ちょっと残念な気もしないでもないけど、まさか衆人環視のお天道様の下でウマっ気出すわけにもいかないので、謹んで遠慮しておく。そーいうのは他に人がいない機会に雰囲気作ってね、と残念そうな莉羽の耳元に顔を寄せてそう言ったら、照れまくりんぐの赤面してあたふたしてた。あはは、いーもの見せてもらいましたっ。




 それから後はプール……には行かなかったけれど、海のよく見えるカフェでお茶したり(ペシュメテが安く思えるくらい高かったけど!)、堤防の上を三人で歩いてみたり(どんくさいあたしが何度も落ちそうになったけどっ!)、砂浜では流木の棒で相合い傘書いてみたり(三人の名前をどう割り振るかでものすごく揉めたけれどっ!)、とにかく急ぐでもないしのんびりに過ぎるでもないし、三人でいるだけで楽しいわー、って時間を過ごした。

 あたし的にはなんかこう、子どもの頃にぼんやりと夢見ていた、「デート」っていうものがそのまま実現したみたいな気持ちだったと思う。

 それが女の子、しかも二人を相手にして……っていうのは想定外もいいとこだけど。更にその上その二人が姉妹で、それもお互いに好き合っててあたしもそれが嬉しいだなんて、ガキんちょだった自分に言ってもきっと「尊い」じゃなくて「へ?」とかって意味不明だろうけど。

 でも、いいんだ。

 自分が大好きな人たちが、あたしのことを大好きだって言って大事にしてくれる。

 それはとても良いことだと思うから。


 「うーん……ちょっと微妙」


 ……って、いー気分に浸っていたら、卯実が二口ほど口にしたオムライスを前にすこし難しい顔をしていた。


 「おねーちゃん、わたしも一口」

 「いいけどそっちのハヤシライスも寄越しなさいよ」

 「いいよ。はい」

 「はい」


 図らずも姉妹が自分のスプーンを互いの口に突き付けるような格好になった。なにこれちょおてぇてぇ。


 「うーん……確かに微妙」

 「でしょう?ケチャップライスの味付けが濃くてデミグラスソースの味殺してるのよ。はい、佳那妥も」

 「あ、うん……え?」


 そして気がついたら卯実が今度はあたしに向けてスプーンを差し出していた。

 場所はちょいとお洒落めの、でも学生の財布も考慮したメニューを取りそろえたカフェレストラン。のオープンテラス。

 丸テーブルを三人で囲んでいたから、卯実はあたしの右手前に。スプーンはその方角から。

 そして左手前の莉羽は、次は自分の番だとばかりにこちらの様子をうかがいながら、手元のハヤシライスにスプーンを挿していた。

 そしてあたしの顔の下にはあなご天丼の丼が……なんでオサレなカフェレストランにこんなメニューがあんだとか、あたしが考えていたのはそんなことじゃなくてどーやったらお箸で二人にこれを分けられるんだろうか、というしょうもないことだった。


 「ほら、佳那妥早く。落っこちちゃうわよ」

 「あ、うん。いただきまふ……」

 「どう?」


 あたしがパクついたのを確認したら、卯実はちゅぽんとスプーンを引っこ抜いて再び自分のオムライスに取りかかる。

 そして感想を聞かれたあたしは、卯実のスプーンを舐ってしまった……なんて懊悩することもなく、ただ思ったまんまの感想を述べるばかりなのだ。だって間接うんたらじゃなくて直接的接触どころか唾液の交換まで済ませてんだもん。ついでに言えば舌を互いに出し入れ……ええい、やめ。


 「うーん……あたしが作るよりは上手いんじゃないかなあ」

 「作ったことあるの?オムライス」

 「出来上がったのは玉子がやけに多い炒飯でした」

 「途中で路線変更したわけね。味付けは洋風?中華風?」

 「何故かベトナム風だった。食わせてやった兄に言わせれば」

 「それは一種の才能だよね。はいじゃあ佳那妥、次はこっち」

 「はいはい。あーん……ふむん」


 引き続いて差し出された莉羽のスプーンにも、同じようにパクついた。

 でも莉羽はスプーンをなかなか引き出してくれなかったので、必然的にあたしの口中に滞在することになり、ハヤシライスの酸味あるうま味が消えた後は金属の味が舌の上に残ってた。


 「りうー、ふぉろふぉろぬいふぇ」

 「楽しんだ?」

 「ありがわふぁんない……」


 んふふ、となんか奇妙な笑いを漏らした莉羽。それでようやく満足したのか、あたしの口からスプーンを引き抜く。なんか、ちゅぽん、て音がしそーな勢いだった。

 それで、またいつぞやみたいにそのまま自分の口にダイブ・インするかと思ったら、特に気にすることもなさげに、卯実と同じように自分のハヤシライスにインしていた。

 もちろん、莉羽とも卯実と同じよーに口吻接触からの口内蹂躙まで経験済みなのである……もうちょっと言い方何とかならんのか、あたし。

 ちなみにハヤシライスのお味だったけど、あたしが作ったカレーよりは美味かった。作ったというかレトルトを温めたものだけど。だってレトルトのハヤシライスなんか見たことないし……ってぼんやり考えていたならば。


 「………ね、なんか注目浴びてない?」


 莉羽にしては珍しく、居心地が悪そうに潜めた声で、あたしと卯実にそう話しかけてきた。

 ふむ、と周囲の様子をうかがう。なるほど確かに視線は向けられている、っぽい。顔を巡らすと一様に目を逸らされたけど。でも、場所柄か若い人たちばかりではあるけれど、男女問わずに、その人たちの顔はなんか照れたよーに顔を赤くしていたのだ。


 「そうね。莉羽、何かした?」

 「してないわよー。失礼ね、おねえちゃん」

 「……いや、莉羽がしてないわけないでしょ。っていうか卯実もこの件については同罪」

 「どうして?」


 心底わかんない、って顔をしてこっちを見てたけど。


 まあ、きっとあたしがずぅっと前に二人を見てて思ったことを、今周囲の人たちも思ってるんじゃないかなあ。

 まさか自分が思わせる側に回ることになるなんて、想像もしてなかったけどね。




 お昼を食べた後は、三人で近くのショッピングモールを冷やかしにいった。冷やかしというか、水着ショップで二人があたしに合わせてあれがいいだのこれがいいだの試着してこいとか、要するにあたした冷やかされるだけだったんだけど。


 「……流石に五月に水着買うのは早すぎるよぉ。夏になったらサイズ合わなくなってるかもしんないし」

 「そうね。最近佳那妥、見るからに胸おっきくなってきてるものね」

 「そ、そうかな……見て分かるくらい違う……?」


 いくらかわいー娘たちがさんざめく、とはいっても買う気もないのにあんまり長居してられるわけもなく、水着ショップはほどほどにして退散。

 今は屋内のプロムナード風の通路に置かれたベンチを一つ占領中。家族連ればかりなので、ナンパの心配しなくてもいいのが助かる。


 「この分だと夏にはCくらいいくんじゃない?あ、佳那妥って誕生日八月だったよね。今度は泳ぎにこよーよ」

 「あたしの誕生日と海水浴となんの関係があるんだよぅ。っていうかそんなことしてるヒマあるのかなあ。受験生だよ、あたしたち」

 「あら。佳那妥が真面目に受験生するつもりがあるなんて、勉強の教え甲斐があるわね。そろそろ帰って勉強する?」


 口は禍のもと。あたしはお口にチャックする仕草でもって、これ以上何も言わないことを宣言する。


 「あはは。おねえちゃんもヘンな冗談言ってないで。今日は楽しむって決めたんでしょ?」

 「そうかもだけど、明日からまた予備校通いも再開だものね。連休だー、って言ってのんきに遊んでいられるのも今日までだわ」


 ベンチに両手を預け、顔を天井に向けてため息をつく卯実。

 あたしは志望校どころか何を勉強したいのかも分からず。莉羽だって似たようなものだ。

 でも卯実だけは、おねーちゃんらしくちゃんと志望があって、法律方面に進みたい、と言っている。具体的に何を……ってわけじゃないんだけど、どこに向けて努力すればいいのかを知っていると知っていないでは、たぶん勉強に対する姿勢が全然違ってくる。

 卯実の横顔を見ながら、そんなことを思うあたしだった。

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