第59話・この話のヒロインて誰だったか一度膝つき合わせて話し合う必要がありそうな気がする今日この頃
全員集合!……のあとに!を十七個付けた甲斐あって、寝る前の時間なのに三分で全員がグループ通話に繋がったのはエラかった。
『いやエライ、じゃねーだろ。さっき通話切ったばかりだってぇのに何があったんだよ』
『そう?私たちは佳那妥と話が出来てラッキーだけど』
『最近わたしたちなんだか影薄いものねー。佳那妥ってさあ、釣った魚には餌やらないタイプ?』
「ええい人聞きの悪い。むしろとっつかまたったのはあたしの方でしょーが。とにかく一大事なの!」
『『『一大事ぃ?』』』
キレイにハモった。回線のラグを考えても三人がピッタリ揃うのは奇蹟と言ってもいいかもしんない。いやそんなことはどうでもよくて。
「ちーちゃんがあたしの彼女の存在に気がついた!」
『『『今さら?』』』
……いやそんなとこまでハモらんでもいいって。というか今さら、ってどゆこと?
『いや、四条のヤツと逢い引きしてる最中に再会したんだろ?それこそ今さらじゃねーか』
『ちょっと琴原さん?四条のヤツがわたしとお姉ちゃんを差し置いて恋人みたいな設定付与するのやめてくれる?』
『そうね。それ以上佳那妥をハーレムの主みたいな立場にするというなら、あなたの大切な彼氏に素敵な浮気相手を紹介してあげるわよ』
『おめーらそんな友だちいねーだろーが。脅しになってねぇよ!』
「あー、三人とも?話進まないからその辺にしといてくれまいか」
ホントはあたしを差し置いて三人の仲がよさそうなコント見せつけられるのが面白くないからだけど。ふんだ。
「それより、ちーちゃんがまた妙な誤解なのか、真実に辿り着いたかどーかが分かんないの。それハッキリさせとかないと、次会ったときにどういう話には持っていけばいいのか分からなくなるじゃない」
最悪……という言い方はアレだけど、莉羽と卯実とあたしの三人で恋仲……などとバレたら結構エラいことになりそうな気がする。あたしが二股かけてる、ってんならまだしも、莉羽と卯実が、となると常識的倫理観からして大分アレな事態だ。
『いや、チアキのヤツ、『彼女』としか言ってないんだろ?それはねーと思うけどな』
「なんで?」
『……ああ、なるほど。彼女たち、と複数形じゃないのだから、佳那妥の彼女は一人しかいないと思ってるのね』
『その前に『彼氏』じゃなくて『彼女』って断定してる根拠ってなんなの?』
「四条さんに聞いたんじゃないの?なんかちーちゃん『しじょーちゃん』とかって大分親しくなってるみたいな呼び方してたし」
『四条といきなり仲良くなるなんて、随分節操の無い子なのね、二人の幼馴染みって』
まー陽キャの代名詞みたいな性格だったしなあ。
今考えると、当時からして陰キャだったあたしにとっては、割と眩しいような妬ましいような存在ではあったわけで。
そんなちーちゃんが病気で留年までしてた、なんて話も思い出したので、この機会にと三人とも共有しておいた。
『なるほどね。同情すべきところはあるけれど、だからといって穏便な存在とも言い難いわ』
『そだね。これ以上佳那妥にヘンな興味持つ女の子が増えても困るし』
『おめーら心配するところがちょっとズレてないか?』
『だって四条まで佳那妥に接近してて頭痛いのに、これ以上ライバル増やしてたまるもんですか』
「あのね、莉羽。ライバルなんか増えないよ。あたしにとっては莉羽と卯実以外の女の子は興味が向く対象じゃないもの」
『佳那妥ぁ……』
『ふふっ、佳那妥……大好きよ』
『帰ってもいいか?』
よくない。てか結局話し合い始めた理由が全然解決してない。
『といってもね。四条さんとその、速瀬さんの間にどんな話があったかが分からないんだからここで何を言い合っても意味無いと思うのだけど』
『あらかじめそういう事実を知らされる、ってだけでも意味はあると思うけどな』
『でも琴原さんはまだその、速瀬さんとは会ってないんでしょ?それともわたしとお姉ちゃんも一緒に会った方がいい?』
「話がややこしくなりそうだからはそれはナシで。そもそもだね、ちーちゃんがあたしのラバーをカレシだと思ってるのかカノジョだと思ってるのか、仮にカノジョだと思ってるんだとしたらそれが誰だと思ってるのか、って話だよ」
『思うんだけどよ、四条のヤツがチアキに吹き込んだってんなら、四条がカナに恋人がいると思ってて、チアキは四条に影響されてる、ってことだろ?なら四条がどう考えてるか、だけを想像すりゃいいんじゃねーの』
『もっともな話ね。で、どう?』
『んー、そういう意味なら……まあ、わたし一人だけ、と考えてるのが一番妥当かなあ』
『それどういう意味?』
「はい卯実ややこしいヤキモチストップ。で、どういう意味?」
『だからさ、去年あったことを考えたら、わたしと佳那妥の距離が一番近いって思うんじゃないかなあ、って。四条の立場からしたら』
『腹立たしいけどそれは事実と認めざるを得ないわ』
『おい、カナ。嫉妬深いカノジョを持った気分はどうだ?』
『それ以上弄ったらあなたの彼氏に個人的に連絡とるわよ』
『やれるもんならやってみろ。ウチの雪之丞は浮気なんかしねーよ』
「まあそれは同感だけど、卯実もあたしのいないところで雪之丞に連絡したりしたらあたしがどう思うかくらい考えて。ね?」
『そ、そうね……私だってイヤだわ』
『右に同じくー』
……やっぱり話が進みやしない。
まあ基本的には「四条さんはあたしと莉羽の関係を疑っているんじゃないか」という推測をベースに、まずはハルさんとあたしで会ってみて探りを入れよう、という、真っ当な結論にはなったのだ。
ここで品槻姉妹が「私たちにも会わせなさい」とかややこしいことを言わなかったことは、マジで安心材料にはなる。だって無暗にヤキモチやいて全てご破算、くらいのことは起こりかねないもの。
・・・・・
「ゴールデンウィークにしては随分と地味なカッコしてない?二人とも」
「ほっとけ。こっちは受験生で予備校帰りだよ」
「同じくー」
「それボクが留年してることついての当て付け?」
頬をふくらませて上目遣いで睨むとゆー、歳を考えるとえらく可愛い仕草でちーちゃんがむくれる、連休初日の駅前での待ち合わせだった。
まあ連休といっても受験生にはスタートダッシュの機会でしかない。
志望校どころか進学するかどーかすら定かでないあたしでも、なんか友人恋人に煽られるよーに勉強熱心になる格好くらいはするのだ……よく予備校の授業料出してくれたな、うちの母上。
「とにかくこんな混雑してるとこで立ち話なんか世間に迷惑だし。どっか静かで人のいない所に移動しよーぜ」
「そだね、ってどっかアテあるの?」
連休初日の観光地だしなあ。どっかお店とかじゃあ人目も避けられないし、かといって図書館だとかじゃクラスメイトにばったり、なんて可能性もあるし。
「あーしん家は今日は客来てるしな」
「うちも兄の友だちが遊びに来とる」
そして高校生は家族の事情に左右されるのだ。よくハルさん雪之丞と二人きりになれるな。その手腕を今見せてくんないだろうか……いてっ。
「……なにすんだよぅ」
「やかましい。なんかしつれーなこと考えてるのが雰囲気で分かるんだよ……って、チアキはチアキでむくれてんだ」
「べつにぃ。それより誰もいないところの方がいいんだね。じゃあ……ボクんち来る?」
ちーちゃんの家?うちやハルさんと違って今日は家族おらんの?
「今日のところはね。ボクも友だちに会いにいくー、って言ったら出かけちゃったし。どう?」
どう?と言われてハルさんと顔を見合わせる。ま、いいんじゃね?……的な意思を感じたので、「いーよー」と軽めに応じる。
それがちーちゃんには意外に思えたようで、「ほんとにいいの?ボクんちだよ?」と念押しをしてきたのだけど、なんだか今日は雲行きも怪しくて、早いとこ屋根のあるところに行きたかったから、むしろあたしが先導するように駅から離れる方角に歩き出したんだけど。
「カナっぺ、ボクんち反対側だよ」
と言われて回れ右をする羽目になったのは我ながら痛恨事なのだった。みっともねえ。
道すがら、やっぱり雨が降ってきそうだったので早歩きしつつだったけど、近況をそれぞれに話しながら道を行く。
といって、あんまりこっちの情報を教えるわけにもいかないし、どっちかってーとあたしたちはちーちゃんに聞かれたことだけを話して自分たちの話は積極的にはせず、逆にこっちはちーちゃんが今何をしてるか、って話を専ら続けた。
この辺、今日がちーちゃんとの再会後初対面、てことになるハルさんが積極的に話すことで、自然とあたしがボロを出さないようにすることが出来て、意図してなかったけど上手いこと役割分担出来てた気がする。
そんな感じの会話だったから、まああたしら二人の思惑を除けば、久しぶりに再会した友だち同士が「わー、今何やってるのー?」的にきゃぴきゃぴ騒いでるだけに見えたことだろう。周囲からは。実際、すれ違う男の子の視線は感じたし(結構苦痛だった……)、ナンパ目的でうろついてるよーないかにも系の若い男性に実際に声かけられたりもしたし。まあそーいうのはハルさんがあしらってたけど。
で、少し町外れの静かめな住宅街の、割と古めの一軒家に辿り着いた時にはもう、昔の三人と今の三人の間にあったことは、大体共有化出来てた気がした。もちろん、今最もホットな話題……じゃなくて取扱注意な色恋沙汰を除いてだけど……にしても、あんだけいじめられたーだとかハブにされてたーとか泣かされてたー、とかいう割には結構あたしもちーちゃんに馴染んでしまってるな。衝撃的な言動が多いせいもあるけど。
「ここ?」
「そう。ばーちゃんの家」
「へえ……チアキ、もしかして両親とは別居か?」
「うん。おとーさんがまだ長野離れられなくてね。おかーさんもこっち来たり向こうにいたりって半々くらい。あと弟もいるけど、中学出るまではあっちじゃないかなあ」
「ふぅん……おめーもなかなか苦労してんな」
「ま、そういうことは中で話そうよ。ただいまあ」
うちのマンションよりは古そうな家の扉を開けると、おばあちゃんと一緒に暮らしてる、という割には物の少ない、整理されたお家って印象の中だった。
ただ、ちーちゃんに案内されて「おじゃましまぁす」と中に入ると、すぐそこにある和室と思われる部屋の柱が変な形に削れていて、「なんだこりゃ?」と思って見ていたら、
「あ、そればーちゃんが飼ってた猫が爪研いだ跡みたい」
「ふうん。猫、いるの?」
「昔ね。ボクが昔にこっちにいた頃に死んじゃった」
ばーちゃん一人暮らしだからまた飼えばいいのにね、ってトテトテと廊下の奥に歩いて来ちーちゃんについていくと、すぐにフローリングのダイニングキッチンに着いた。
「そっちに座っててよ。今何か飲み物だすから」
「出来れば冷たいもののほーがいいなー」
「あーしはあったかい方がいい」
「間をとってぬるい水でも出そうか?」
「「じゃあ冷たい/あったかい方を」」
「………」
被った。お互いの欲しいものを言う方に。
そして運ばれてくるぬるい水……ではなく、なんだか冷ややかなちーちゃんの視線が注がれる。
「……やっぱりね」
なにが?と居間のソファに腰掛けてる隣のハルさんを見る。ちょうど向こうも同じよーにしていて、目が合った。なんか気まずかった。
「やっぱり!」
「だから何がやっぱり、なんだよ。意味わかんねーって」
「んだんだ。というかだね、ちーちゃん。そろそろ先日の発言の意図というものをハッキリさせないと……」
「カナっぺの恋人ってやっぱりハルっちだったんだ!!」
「「………………………………………………………………………………は?」」
おい。オチに全然進歩がないじゃないか。どういうことだ。




