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姉妹百合にはさまる女は罪!  作者: 河藤 十無
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第53話・平穏無事で平和な朝

 母と差し向かいの朝メシ、というのは実に心臓に悪い。

 サイアクなことに、うちの兄は今日から大学のセミ?合宿とやらで三日ほど不在になる。起き抜けのボケた顔の時に大荷物抱えて出て行こうとしてた兄に「ドコ行く?」と尋ねたらそんなことを言っていた。

 そして寝ぼけてたもんだから、「大学生がセミ取りとかごくろーなこったな」と思ったまんま言ったら、気の毒な人を見る目で見られた。帰ってきたら覚えてろ。

 というわけで、母の食す時間と意図的にずらし、必然的にいつもよりは早い時間にトーストにかじりついている。

 本日はコンビーフにマヨネーズを和えて粗挽きのコショウを親の敵みたいな勢いでぶち込んだパテをトーストに塗りたくってる。我が家はトーストの時はパンに載せるものは好きに自分で用意しろ、自分でやらないならバターだけ載せて出しておく、な方針なものだから、料理が出来ないあたしでも工夫しないといけないのである……ってことを莉羽に言ったら、「料理出来るようにって指導方針なんじゃないの?」って言われたんだけど、はてさてあの母がそこまで考えてるのかなあ。極めて怪しいと思う。

 まあそれはさておき。


 「佳那妥」

 「ふぐぉっ?!」


 母が食卓に着く前に皿を空けてしまえー、とガツガツいってたあたしは、なんか玄関で呼び鈴が鳴ったのを見に行ってすぐに戻って来た母に声をかけられ、まだ十分に咀嚼してなかったブツを喉に詰まらせた。


 「……あなたいい歳して何やってるの。春佳ちゃんが迎えに来たから早く食べてしまいなさい」

 「………ぐ、むぐぐ………う。はうふぁん?」


 牛乳でそれらを流し込みはしたものの、飲み込めきれてなかったパンの一部が発声の邪魔をしていた。

 でもそれで残った半分を飲み込む余裕が生まれて、でもやって来たのがハルさん、てことで慌てたまま残りを飲み込んだ。


 「ゴクン。えーと、ハルさんが?なんでまた」

 「さあ?何か急いで学校に行く用事でもあるんじゃないの?あなたが忘れてるだけで」


 失礼な、と言いたいところだが、あたしの場合その手の出来事は結構前科があるからなあ。我ながら自分が信用出来なくて、一応急いで朝食を片付けた。

 顔は洗ってあったので、歯だけ磨いて鞄を引っ提げ玄関を飛び出すと、目の前にいたハルさんに今日も元気に挨拶を……。


 「ハルさんおっはー…………………よぉ?」

 「………よう」


 ………あいさつを……………。


 「あっ。あたしぽんぽん痛いっ。今日は学校休むねそいじゃっ!」

 「そうは行くかこのアホンダラ!おら今日はいつもより余裕持って登校出来る時間に連行しに来たんだ学校に着くまでに洗いざらい白状させてやるっ!!」

 「ぎゃー!誘拐魔ーっ!!」

 「ご近所の耳もあるのに何人聞きの悪いこと叫んでるのこの子はっ!!」


 家の中から出てきた母に叱られました。何故かあたしが。理不尽な。




 まあ結局ハルさんの怒ってた理由ってのが、昨日護衛をブッチして逃げだことじゃなくて、ちーちゃんと再会したことを、その事実だけ連絡してあとはハルさんからのレスポンス丸っと無視してたからだったから、一通りちーちゃんから聞かされた話を教えたら怒りは収まったみたいだった。


 「えぐえぐ……鬼が、鬼がいるよぅ……」

 「おばさんじゃないけど人聞き悪いっつーの。とにかく今日の帰りからはちゃんと護衛されろ、まったく」

 「護衛?別にもう必要ないんじゃないの?」


 朝もまだ早いということでのんびり歩いてきたから、学校までの道程はまだ半分くらい。それでもご同輩の姿もちらほらと、って感じだから実際まだ余裕あんだよね。

 朝メシは食べたけど昼飯は持たせてくれなかったから、コンビニで何か物色してから登校しないかい、ハルさんや。


 「呑気でいいよなあ、お前は。……ったく、チアキと接触しないようにいろいろ気をつかってたのがアホらしいわ」

 「あ、そういえばなんか変わったことないかー、とかいろいろ訊いてきてたね。あれちーちゃんのことだったのか」

 「ちーちゃん、ねえ……」


 隣を歩くハルさんの横顔は、何やら不承不承というか納得いってない風というか。


 「なんか問題でも?」

 「いや。あーしがチアキとまだ話してないんだから結論出すのははえーかな、と。カナから連絡とれるか?」

 「え?…………えーっと……あ」

 「どうした?」


 そういや最後なんかバタバタして連絡先交換出来てなかったんだっけ。

 仕方ないので、その時のちーちゃんの様子を織り交ぜながら事情を説明したら、なんかまたフクザツそーな顔になっていた。


 「……ハルさん?」


 そんなことも出来ねーのかおまえはー、とか罵られると思ったのに、なんか調子が狂う。


 「そこまでひでーことは言わないと思うんだが」

 「もちろん本気で言うとも思ってないけどさ。でもあたしの手落ちには違いないべ?」

 「そうなんだけどな……いや、いいや。カナの話通りならそのうちまた向こうから会いにくるだろ。それより四条の方をどうにかしねーとなー……」

 「もういっそのこと仲良くなった方がいんでない?」

 「おま……お人好しにも程があるだろ……」


 いやそうは言うても、避けてるよりは卯実や莉羽とも一緒に遊ぶくらいの関係になった方がいろいろと穏便なんじゃねーかなー、って。


 「そうかもしんねーけど、品槻たちとのことはどうするんだ?バレたらマズいんじゃねーの?」

 「そこんとこはさ、四条さんがあたしに何かしら含むトコあるってんなら遅かれ早かれバレるだろーし」


 とは言ってもそんなのあたしとハルさんだけで方針決めるわけにもいかないからね。二人とも相談してどうしようか決めようと仮の結論出たタイミングで学校についた………んだけど………。


 「………おい」

 「………ハルさんあたし早退するからっ!」


 回れ右をして元来た道を戻り始めたのだけれど。


 「こらーっ!佳那妥待ちなさーいっ!」

 「あほ佳那妥ーっ!!戻って来ないと酷い目に遭わせるわよっ!!」


 ……校門前で待ち構えていた愛しのまいらばーずが鬼の形相で追ってきたのだった。あたしの周りは鬼ばかりか!


 「おめーが悪いんだろ。反省しろ反省を」


 ……さくっととっ捕まってステレオで説教されてるあたしの後ろで、ハルさんが無情にもそう呆れていた。是非も無し。むぐぅ。

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