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姉妹百合にはさまる女は罪!  作者: 河藤 十無
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第27話 早く会いたい、心から

 「あけおめー」

 「あけー」

 「ああ、あけましておめでとう、佳那妥。今年もよろしくな」


 怠惰系女子とギャル系女子とは異なり、この場で唯一の男子でもある雪之丞だけが礼儀正しいニッポンの新年のあいさつをしていた。しかも紋付き袴で。ちなみに紋の方もレンタル衣装の適当なものではなく、佐土原家由縁の正式な家紋らしい。つまり、常日頃雪之丞をコテンパンにすることでハルさんにオトメの表情をさせているじいちゃんの着ているあてっ。


 「……なにすんだよぅ」

 「うるせー。あーしを見て生ぬるいホホエミ浮かべてるとかどうせ雪之丞絡みでしつれーなこと考えてただろ」

 「だいたいあってる」


 もう一発後ろ頭引っ叩かれそうだったけど、素早くかわして雪之丞の後ろに隠れたった。


 「……全く。三人で会うのは久しぶりなのに二人とも相変わらずだな」

 「そーなんよ。ハルさんのあたしイジメも年々雑になってきて」

 「いー加減ツッコミ入れるのも面倒になってきている、って解釈は成り立たないのか、こら」


 よくよく考えたらハルさんのあたしイジメ、なんて冗談にしても割と洒落にならない気もするんだけど、まあそこは気にしてないよー、ってアピにもなるしねえ、って考えるようになったのは実は割と最近のことだ。先日、あまりハルさんに気負わせるような、ハルさんは悪くない、って言葉を繰り返すな、って忠告されてからだ。

 というわけなので、まあ今年からはチクチク逆襲していこーと思う。新年の抱負終わり。


 「さて、行こうかね。今年はどこいくー?」

 「いつものとこでいんじゃね?」

 「えー……そろそろ人混みデビューしてもいい頃なんじゃないかな、あたしも」

 「佳那妥がそれでいいなら構わないが。まあ俺もいるしな」

 「新年早々人混みに酔ったカナを背負って帰るのは勘弁して欲しいんだけどなあ……」

 「俺が背負えばいい話だろう?」

 「やだよ。そこはカノジョに嫉妬くらいさせろよ」


 なんかもー、取り留めも無い話が始まって結局目的地も決めずにダラダラと歩き出す。

 思えばハルさんと最初仲良くなってから、なんだかんだあってその後にあれがあって、そんで雪之丞と知り合って。雪の字も最初はちんちくりんだったけど、いつの間にか三人の中じゃ一番おっきくなって。

 そいで二人は好き合うようになって、結局あたしは……何なんだろう。小さい頃の失敗を一番引きずってるの、あたしだもんなあ。

 どこに行くかも分からないのに歩いてて、最初あたしと並んでたハルさんはあたしが一人で何か考えこんでるうちに後ろの雪之丞の隣に収まってて、そんであたしはそれに気付いてないふりして一人で歩いている。振り向いて声をかければ別に二人は応えてくれるんだろうけど、あたしがいてもいなくても、ハルさんと雪之丞の関係は変わんない。

 ……何なんだろうね、椎倉佳那妥という人間は。


 「……あー、だめだ。なんであたしこんなネガ入って……わっ?!」


 コートのポケットが不意に震えた。いや震えたというかスマホが着信しただけなんだけど。アプリの通知以外で電話が来ることが珍しいから面食らってしまった。電話にしたって、家族の他に電話かけてくる相手なんかほとんどいないんだし。今一緒にいる二人とはほとんどボイチャだし、ってそんなことはどうでもいい、一体誰から、って……あ、卯実だ。


 「………もしもしー。あけおめー」


 冷静に電話に出たつもりだったけど、実のところちょっとどきどき……いや胸がざわついていたりもした。クリスマスの時から年末へは、一度か二度電話のやりとりはあったけど向こうはおじさんの実家に帰ってるらしくて、あたしとしょっちゅう電話してる場合じゃなく……いやしょっちゅう電話、って一体なんだよ。まるであたしがいつも二人と話していたいと考えてるみたいじゃんかー。


 『あけましておめでとう、佳那妥。今年こそよろしくね?』

 「今年こそ?」

 『そ。去年はいろいろよろしくされたりされなかったりもあったけど、今年はちゃんとよろしくしてもらうから、ね?』

 「なんだよそれー」


 する必要の無い言い訳を考えながら電話に出たら、卯実が機嫌のいい時によく出すような弾んだ声で、いたずらっぽいことを言ってきた。うあ、ヤバいなあ……あたし、卯実の声聞いて喜んじゃってる……ついさっきまでの下方向のどんよりした気分なんか、今日の青空みたくキレーになっちゃった。


 『ちょっ……こら莉羽!止めなさいってば!……もう、ごめんね。やっと親戚の集まりから逃げて電話出来るようになったものだから、莉羽も佳那妥と話したがってって』

 「うん………あたしも、二人と話したいよ……いつ、帰ってくるの?」

 『三日にはそっちに帰るって言ったでしょ。もう、佳那妥もどれだけ私たちが待ち遠しいの?』

 「え、ええっと………あ、あは、あははは……」


 誤魔化そうとして失敗した。ほんと、どれだけあたしってば二人に会いたいんだろう。そして卯実もきっと、そんなあたしの気持ちを見抜いたみたいに耳元にも分かるくらいの柔らかい声で、ふふっ、と笑っていた。

 ……あーだめだー。卯実ぃ、会いたいよう……早く顔見て声聞いて、それで……。


 『お姉ちゃんいい加減にしてっ!もう、佳那妥ぁ!浮気してなかったでしょうね?!』

 「うみ……じゃなくて莉羽?」

 『あーっ!今お姉ちゃんと間違えたぁ!この浮気ものぉ!』

 「え、なんで?」


 あっちの様子からして多分莉羽が卯実からスマホを強引に奪って話し始めた、っていうところなんだろう。でも、妹にスマホを取られたお姉ちゃんは「仕方ないわね」って苦笑して、妹はちょっと「ごめん」って思いながらワガママを貫いた、って感じなのかな。理不尽な莉羽の言い分に戸惑いながらそう思って、あたしは口をほころばせる。


 『佳那妥、明後日には帰るからちゃんと待ってなさいよ!』

 「別に念を押さなくたってあたしはどこにも行かないってば。ちゃんと二人を待ってるから」

 『大変よろしい。それで目元のトコは維持してるんでしょーね?全部台無しにしました、なんて言ったら三日くらいつきっきりで特訓だからね!』

 「……………」

 『……ちょっと、佳那妥?』

 「………ごめん、元に戻っちゃった」

 『…………このあほーっ!』


 ……あはは。実は翌日の夜にはもう前の通り、腫れぼったいクマ付きの目に戻っちゃっていたのだ。やっぱり夜更かしはオタクの習い。そう簡単に健康的な生活になんか変われるわけがないって。


 『威張って言うな!もーっ、お姉ちゃーん、佳那妥どーしようもないから監禁しておかない?』


 なんか莉羽が怖いことを言う。お願いだから卯実も同意しないで欲しいけど、流石にそこまで非人道的ではなくて、もう一度卯実に電話を替わって、二言三言、言葉を交わし、名残惜しかったけれどあたしも初詣の最中だったから、そこで電話を切ったのだった…………って。


 「……あの、ハルさん?雪之丞?そのなんていうか……ふにゃっとした笑顔は……なんでしょう?」

 「……だぁってさぁ。見た?雪之丞」

 「ああ。付き合いは結構長いが佳那妥のそんな顔は初めて見たな」


 ……あのー、あたしどんな顔してたのでしょうか。

 電話の最中、きっとあたしの……控え目に言ってだらしない顔を見ていたであろう幼馴染みの二人が、生暖かい目を通り越して溶けたラクレットみたいな蕩けた目付きで、あたしを見ていたのだった。


 「つくづく思うわ。あんたどんだけあの二人のこと好きなの」

 「やっぱり例の?」

 「だわね。ああ……あれだけいろいろあって育んだカナとの友情は、ポッと出の学園のアイドルにあっさりかっ攫われたんだわ……雪之丞ぅン……な・ぐ・さ・め・て?」

 「それは俺の得意なノリじゃないな」

 「ちっ、かいしょー無しめ」


 ハルさんがシナ作って雪之丞に迫るってのも大概似合わないと思うんだけど、あたしの知らないトコじゃあいっちょまえにオトメしてるのかもね。

 でもそーいうのは初詣終わってからにしてもらいたい。姫始めなら初詣終わってからでも出来るでしょ、と言ったら、意味を調べてから怒られた。真っ赤になったハルさんに。一方雪之丞は大笑いしていたところを見ると、二人ともそーいうのはまだなんだろうねえ、きっと。




 「ところで何の話してたん。けっこー盛り上がってたみたいだけど」


 落ち着くまでノンビリしてたら離れたおっきい神社に行くには時間が経ってしまっていて、結局例年通り近所の静かな無人の神社にいくことになった。あたしとハルさんは普段着だからいいけど、わざわざこのために紋付き袴で出てきた雪之丞はお疲れさん、てトコ。

 で、歩き出したら話題はやっぱりそっちの方に行った。二人とあたしの間にあったことについては、流石に最近のことは雪之丞に細かく説明するには大分アレなことになっているので、ハルさんを通じてまあ、あたしの新しい親友だよー、ってな具合にまとめてもらってるので、クリスマスの日に化粧なんかをして遊んで、あたしが芋虫から蝶に変態した(セイブツガク的な意味で!)ということだけを二人に伝えたもんだけど、それを聞いた二人は大変興味を持った……かといえば、そうでもなかった。というかハルさんが大分渋って、そーいう風になったあたしを雪之丞に会わせたくないらしい。つまるところ、嫉妬である。ジェラシーである。ハルさんおっとめー!ひゅーひゅーぶあついよー!……あたっ。


 「……今日二度目」

 「やかましい。カナタが何度もぶたれるようなことを言うからだろが」

 「はは。まあ俺も興味はあるが、春佳の機嫌が悪くなるから写真でも撮って見せてくれ」

 「……うぉい、雪之丞。あーしの立場ってもんも少し考えろよ」

 「うーむ、ハルさんが雪之丞に嫉妬するとか、珍しくはないけど本人を目の前にしてそーするのはなかなか新鮮な光景だねぃ」

 「……おまえなに言ってんの?あーしが雪之丞に嫉妬?逆だろ、この場合。あーしが嫉妬するのは、カナに、だよ」

 「ん?嫉妬する相手、ってそういう表現するんじゃないの?」

 「まーたカナが日本語の使い方間違ってる。この場合、あーしが嫉妬するのはカナを相手に、ってことになるの。多分あんたが逆に言ってる。またヘンなところで恥かくなよー」


 ん?んんん?………んー、おかしいな。確か卯実に教えてもらったのと逆の意味なんだけど。あれ?卯実が間違ってるのかな?………まあどうでもいいか。……や、でもなんか引っかかるんだよなあ……どうしてだろ。


 ………なんて、ちょっと気に掛かったことはあったのだけど、それを除けば幼馴染みとの例年通りの正月を、あたしは過ごしたのだった。

 ……ああ、早く三が日が終わらないかなあ。

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