第21話 うれしはずかしシスターズ・ラブ 後編
「ちょっ、ちょっと待って莉羽!あの……佳那妥がいるのに…本気?」
「本気に決まってるでしょ、おねーちゃん。佳那妥に見せつけてあげよ?わたしたちが、どれだけ愛しあってるのかを……ね?」
え。うそ。マジ?
妄想してたものがリアルになって我が目の前に?いいの?ほんとにいいの神さま?いやみだりに神の名を口にするなかれ、とかそういうのはいいからっ。
「それとも……わたしとはイヤなの?」
「そういうわけじゃないけど……そのっ、やっぱり……まだ明るいし、佳那妥に見られながらっていうのは流石に……」
「ふぅん……明るいのは仕方ないけど、佳那妥が気になるなら……ちょっと待っててね、お姉ちゃん」
「ふぇ……?」
かあいい「ふぇ……」いただきましたっ!!ああもう、このゆんるい泣き声だけで三日は寝ずに活動できそ……え?あの、莉羽さん、その手に持った……紐?はナニ?
「ごめんねえ、佳那妥。お姉ちゃんが恥ずかしがってるし。それにこれは佳那妥への罰だから。そこで大人しく指くわえて見てて。よいしょ」
あたしがこーちょくしているのをいいことに、莉羽は手際良くあたしの両手を後ろにまわしてそして………なんか紐でぐるぐる巻にしてしまった。つまり、拘束された……あ、あの、あたしこっちの趣味はないんですけど。
「あ。あと見えたら意味ないよね。こっちも塞いどくね」
は?
と、思ってたら制服のネクタイで目を塞がれた。これはこれで人種によってはご褒美なんだろうけど、視界を塞がれて両手を縛られて、あとなんかついでに後ろにころんと転がされて両脚まで縛られてる気配がするんですが莉羽さん。
「これでおっけー。お姉ちゃん、これならいいでしょ?」
「う、うん……」
いや承諾すんな!違う承諾してもいいけどせめてこれをハズしてっ!恥ずかしがる卯実の顔とか見せてぇぇぇぇぇっっ!!
「ふふっ。佳那妥はあ、こないだわたしとお姉ちゃんがどれだけ仲良いか知りたい、って言ってたから……ちゃぁんと教えてあげる、ね?」
「ええ……?佳那妥、そんなこと聞いてたの?……うわぁ、このすけべ」
「すけべ、って何ですかスケベェでハレンチなのは週末に真っ昼間から桃色の空気醸し出してる百合色姉妹じゃないですかっ!ええい、このっ、ぐぬぬ、ぐぬぬぬ……」
暴れてみてもどーいう風に縛ったのか、手足の拘束はもとより制服のネクタイ使った目隠しまでなんか完璧に決まってて……あっ、これ匂いが莉羽じゃなくて卯実のだっ、くんかくんか……ってあたしは変態かっ!そうじゃなくてこのっ、くのっ……。
「うふふ、そーいえば佳那妥さぁ、随分とわたしとおねーちゃんにしつれーなこと言ってくれたよねえ…」
な、なんすか……莉羽の声がなんかどんどん艶っぽく……ううっ、視界塞がれてるせいか余計にこお、刺激つよっ!いやその前にナニ?あたし何か失礼なこととか言ったっけ何だっけっ?!
「わたしとお姉ちゃんで妄想しても、興奮なんかしなくて微笑ましい、って言ってくれたよねー……もしかしてわたしたちのこと、舐めてる?」
「あのあのっ、舐めてるとかそーいう……だ、だって友だちでそんなこと想像して興奮したりしたらダメでしょっ?!」
「んー……そうかもしんないけど、わたしたちはさあ、佳那妥にもえっちな気持ちになって欲しいなあ、って。どう?」
「ふひゅっ?!」
な、なんか耳が、耳がっ。莉羽の息とかかかった耳がっ!やべー、これとても……何か言葉に出来ないけどやべーっ!
「卯実さんっ?!ちょっと卯実さん、妹の暴走止めてーっ!!なんとかしないとあたしも卯実もえらいことになるっていうかされるっ」
「んー………いいわよ、べつに」
「へ?」
助けを求めた卯実は、なんか妙に気怠げで、聞いてるだけでのーてんが痺れるような声色で、とんでもないことを言い始める。
「……私だってね。佳那妥を興奮させるくらいのこと出来るって、教えてあげたいもの。だから……ちゃんと聞いてなさい」
は?あのその、悪ノリも過ぎるんじゃないですか二人ともいいでしょうこの椎倉佳那妥も女でござる。友だちの濡れ場くらいで興奮なんかしたりしないこと、見せてやりましょ。思う存分におやんなさい……と言わなかったのは、またすぐ近くに莉羽がやってきて、何か持ちながら「猿ぐつわもいっとく?」って洒落にならないことを言っていたからだったりする。
「ふふっ……じゃあ、おねぇ、ちゃん。ん………」
「ふゅ……」
あ。なんかいきなり、その……視界が塞がれてる分敏感になっちゃってる耳に聞こゆる水の音……くちゅ、とか、ちゅぷっ、とかオノマトペにするだけでお金とれそうな佳い感じの音とかががが……その合間合間に聞こえてくるのも、鼻から抜ける甘ぁい声と、「あ……」って一文字だけで何が起こったのかテラバイトサイズのもーそー動画が脳内に生成されそーな、あ、あ、あえ、あえぎご………言えないっこれ以上ははしたなくてあたしには言えないっ!!
「ん……どっちぃ?」
「やっ、やぁん……はずかしぃ……よぅ、りうぅ……」
ああっ!ああっ!いつもならっ、いつもなられいせいちんちゃくおねーちゃんを絵に描いて額に飾ってニューヨークとかのオークションで落札価格いちおくえんとかになりそうな卯実がっ、卯実がっ!なんだかとってもえげつない声をっ!!おねーちゃんにそんな声をたてさせるとか莉羽は何を、何をやったんだッッッ!!
「ふふん、ほぉら、佳那妥がぁ、おねーちゃんの声を聞いてぇ……もじもじ、もじもじしてるよ……っ?」
「あ……や、やあ……かなたぁ……みないで……」
いえ見たくても見えない状況なんですけど。ていうか普段あなた方なにやってんですか。あたしをネタに混ぜないでくださいってばとてもいたたたたまれない気分なんですけど今とっても。
「じゃあ……ここから先は……………ど?」
「あっ……はず、かし…………みてる?かなたぁ……みてるのぉ……?ん、やぁっ?!」
何だ。何が起こってるんだっ!うわぁぁぁぁぁ見たいというか殺してぇぇぇぇぇ!こんな、こんなのひどすぎるーーーっ!!(いろんな意味で)
「え、ちょっ、あのそのっ、これいい加減外すとか……あっ、外さないですよねそうだきっとネタバレするわけにいかないですもんねっ、きっとまたこないだみたいにだいぶえっちな小説の朗読とかしてるんですよもう卯実もえっちな演技うまいじゃないですかいやあ流石のあたしもちょっとキちゃいましたよえ何が来たとかってそんなこと言わせないでください恥ずかしいっ?!」
「……って言ってるけど。どうする?おねーちゃん。見てもらおっか、今のおねーちゃんのかっこ」
「ううっ………ね、ねえ佳那妥ぁ……幻滅……しない?私、こんな女の子だって知って……きらいに、ならない……?ねえ………」
あ、なんか鼻血が出そう……いやそうじゃなくてどどどんな格好してんですか卯実ってばっ!
「えいっ」
「ふぇっ?…………あ」
目隠しを外されたあたしの目の前に。ありました。推定Eの、上半身下着姿が。そりゃもちろんこーこーせーなので派手じゃあありませんけれど、歳相応の、かーいー下着に包まれた、Eが。
「ほぉら、おねえちゃん……佳那妥に、見られちゃった……ね?」
「あっ………あ、ああ……佳那妥ぁ……ん」
見上げると羞恥にまみれたおねーちゃんこと品槻卯実が。真っ赤な顔で、後ろ手に胸を反らしてむしろあたしに向かって見せつけるようにしていた。
そんな卯実を後ろから抱くのは、妹の莉羽。下着だけになった上半身を、大事に大事にするように、姉のお腹のあたりで手を組んでいる。
「うふふ。佳那妥も、おねーちゃんから目を離せないんだね……でも、だぁめ。おねーちゃんはぁ、わたしの、もの。佳那妥には、あげないんだから」
ああ、お姉ちゃんはわたしのもの、いただきましたっ!!
そしてあたしに見せつけるようにしてからの………「んっ」「ふぁん……」部外者たるあたしに見せつけるように……濃厚接触っっっ!!
こっ、これで嫉妬させよーとかって、莉羽が、莉羽がかわいすぎるっっっ!!
水音たてながら唇と唇をくちゅくちゅしてる姉妹の姿は、この世のものとも思えない尊みに溢れ、あたしは産まれてきたことを神に感謝する……っ。こんなことで産まれたことを感謝されたら親が浮かばれない、とか頭のどっかで誰かが突っ込んでいたけど知ったことかっ。
そして、それぞれの手を、指を絡めるように繋いだまま肩越しにえげつないキスを繰り返していた姉妹は、姉の方が、びくんっ、と体を硬直させたの切っ掛けに唇を離し、お互いの唾液でどろどろになった顔をこっちに向けると、我に返ったみたいにただでさえ赤くなってる顔を更に紅潮させて、たぶんとんでもなくだらしない顔になってるあたしを見て、妹の方が、満足そうに言った。
「ふふっ……どう?くやしいでしょ?わたしは、おねーちゃんものなんだよっ?おねーちゃんだって、わたしじゃないとイケないんだよ?佳那妥なんか、おねーちゃんにはかなわな……」
「あっ、あの……っ」
「ん?なぁに?」
とても、とても勝ち誇った莉羽は、あたしの前で姉を果てさせたことに満足な様子だったけど。
「……ふふっ、謝るなら、佳那妥だって一緒に……」
「いえ、そうじゃなくて」
あたしはそんなことよりも。
「なぁに?お願いがあるなら……聞いてあげても、いいよ?」
「あ、じゃあ遠慮無く。えーと」
そんなことよりも、だね。
「……攻めと受け、逆にしてもう一回おなしゃす」
「………………選りに選って言うことがそれか佳那妥のあほーっ!!」
だってリバは大事でしょ。
・・・・・
真っ昼間からシャワーを浴びてきた卯実が、かつてないくらいに恥ずかしそうな顔で部屋に戻ってくると、同じよーな顔してあたしからずうっと目を逸らしてた莉羽が、交代して部屋を出て行った。ちなみにあたしもシャワー行ってこいと言われたけれど、実はそんなでもなかったので断ったところ、二人とも何故だか不満そうだった。だから何故。
「……結局二人ともいつもあんなことしているので?」
「しっ、してないわよいつもなんか!」
それはそれでいつやってるのか興味はあるけど、今回に関してはあたしは悪くない。だって理由もわからないで莉羽が勝手におっ始めたんだもの。
「そこで理由もわからない、って言われるなんて莉羽も浮かばれないわねー。まあ私もだけど」
「はあ」
睨まれた。何でだ。
とはいえ、抱き締めたクッションで鼻から下を隠しながら、だったからかわいーだけだったけど。
で、冷たい飲み物とかなんかそーいうので喉を潤していると、ガラスのコップを両手で持ってころころしてた卯実が、とーとつに聞いてきた。
「……ねえ、佳那妥って……その、そういうの、ないの?」
「そういうの、とは?」
「だ、だから……えっと、せい……よく」
「そこでつっかえつっかえ言われるとまたみょーな気分になるんですけど……ありますってば、あたしにだって人並みに性欲くらい」
「じゃあ、私と莉羽の…………を見て自分もー、とか思ったり、しなかったの?」
「………」
んー…まあ正直言って興奮とかはした。したけど、その対象を二人にしたかどうかは、よく分かんない。
抑えてたつもりもないし、しかもお代わりまでしよーとして莉羽に怒られたけれど、二人にくっつかれてきもちいー、とか前に思ったりもしちゃったけど、だからといって二人の行為に自分も加わりたいとか、代わりに自分がー、とかなんて、思ったりしてもダメでしょ。
百合に挟まるのは罪。昔っからそう決まってんです。増して姉妹百合なんてなおさらね。
「あたしはそーいうの、いいんです。外から見てるのが一番なんです」
「だから、私も莉羽も佳那妥のことは……」
「ありがとうございます。嬉しいです。その言葉だけで、あたし報われてます。満足しなきゃ、いけないんです」
「佳那妥……」
クッションを置いて、代わりにあたしを抱き締めてくれそうだった卯実に背をむける。まあそこそこ拒絶感は出せてたと思う。伸ばした手が、途中で止まった気がしたから。
膝を抱えたまま前を向くと、おっきな窓から冬の空がのぞいていた。
いつもはカメラのピントも合わないような青空のくせして、今日に限っては雪でも降ってきそうな、灰色の曇り空だった。




