定禅寺通りの欅たち
オレの拙作を読んでいただいている方々はすでにお気づきと思うが、地元仙台市の定禅寺通りの欅並木が舞台としてたびたび登場する。職場が定禅寺通りの近くだったため、四季折々の欅並木を眺めながら、昭和、平成、令和と暮らして来た。
定禅寺通りは、幅員46m、中央分離帯12m(遊歩道あり)、両側歩道7mずつ、6車線の幅があり、とてもひろく大きな通りだ。 ──まさに杜の都仙台の象徴── 5月になれば、新緑の葉叢がトンネルのように車道を覆い、さながら大都市に浮かぶ湖のようである。 ── 樹の高さがビルの5階にも達する4列の欅並木が、東西に1キロメートルほど続く──
ずっと毎日欅並木を眺めてきたオレは、いつの頃からか欅たちに話しかけるようになった。 ──オレの小説の主人公にもそんな場面があるが──
冬の間は、枝だけになった欅たちを眺めては、早く春になって、またあの豊潤な新緑に覆われたお前たちを見せてくれ、と話しかけたり……
大事な仕事がある日の朝は、欅たちに見守っていてくださいとお願いをしたり……
また年末の仙台の冬の風物詩、SENDAI光のページェントが始まると、60万個のイルミネーションで彩られた欅たちを自分のことのように誇らしく思いながら、一方で溢れるような有象無象の人々に、欅たちが心配になったり……
ちなみに東日本大震災の時も、多くの市民が定禅寺通りの欅並木のもとに避難した。 ──定禅寺通りの中央分離帯は遊歩道となっている── 地震に怯えた人々を、欅たちは静かに見守ってくれた。
去年の5月、愛犬シーズーのシーを連れてようやく芽吹きはじめた新緑を眺めた。葉の色が濃い緑色ではなく、とてももみずみずしく新しいエネルギーに満ちた黄緑色をしていた。あらためて、その新鮮な欅たちに命の鼓動を感じた。
そしてシーと一緒に、新緑の欅たちに話しかけた。
──お前たちは、目に見えないほんとうに大切なことを知っているはず、オレとシーにも、ほんとうに大切なことを教えてください!
オレはこれからも、定禅寺通りの欅並木を舞台に小説を書いて行くだろう。ほんとうに大切なことを描くために……
今夜もシーの寝息を聴きながら酒を飲み、YouTubeでニュースを観た。羽田の航空機事故では、乗員乗客が全員無事に脱出できたが、荷物室のペットの猫を救出できなかったらしい。オレは熟睡しているシーの頭をそっと撫でた。