『1Q84』Part1
今年、2017年に発表された『騎士団長殺し』以来の新作長編小説『街とその不確かな壁』を発表した村上春樹だが、これで彼は15作品もの長編小説を発表したことになる。その中でオレが読了したものは半分にも満たない5作品。『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』『羊をめぐる冒険』『ノルウェーの森』『1Q84』となる。 ──現在、『街とその不確かな壁』は読書中──
すでに、このエッセイで『風の歌を聴け』と『ノルウェーの森』については書いているので、今回は『1Q84』について、当時の思い出とともに触れてみたい。
『1Q84』BooK1、BooK2が発表されたのは、2009年の5月。BooK3が発表されたのは、翌2010年4月。 ──東日本大震災は翌2011年── たちまち『1Q84』は、空前の話題作となり書店でも品切れがつづいた。
おりしも2009年晩春頃の健康診断で、オレの前胸にピンポン球ほどの腫瘍があることが判明した。 ──良性か悪性かは摘出してからの判断── よって真夏の8月初旬に、腫瘍摘出のため東北厚生病院に入院し胸腔鏡手術をおこなった。 ──東北厚生病院は癌治療でとくに実績があった──
そのためオレは、個室の病室に1週間ほど入院したが、入院期間中の過ごし方として、当時たいへんな話題となっていた『1Q84』BooK1、BooK2を携えたのだった。 ──ちなみに腫瘍は良性だった──
当然、手術後は集中治療室にいたため読書はできなかったが、個室の病室に戻ってからは、夜間に看護師さんから注意されるほど『1Q84』に夢中になった。
オレの胸にはしっかりと包帯が巻かれまだ痛みを伴っていたが、消灯後のスタンドライトの小さなオレンジ色の灯りを頼りに、現実とは微妙に異なる、空に月が二つある《1Q84年の世界》にのめり込んだ。 ──まるで非現実的な病院の個室にいるオレ自身までもが、《1Q84年の世界》にまぎれ込んだかのような気分になって──
→Part2へつづく
大晦日の朝、そろそろ愛犬シーズーのシーを起こして散歩に出かけよう。薄明のなかを底辺から色づく東の空をシーと一緒に眺めながら、宇宙の声に耳を澄ますのだ。