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まばゆい気圏の海のそこに(かなしみは青々ふかく) Part2



 それでも2年ほど付き合って、お互いの母親同士のあいだに「結婚」の文字が浮かびはじめた頃、 ──オレの父もカヨリの父親もオレたちの結婚には関心がなかった、やはりオレの母はカヨリのメンタル面を危惧していた── 突然、オレはカヨリから別れを告げられた。 ──後にオレは、カヨリが結婚生活における家事や諸々を行う自信がなかったため、別れを決断したことを知らされた──


 そして数年後に、口癖のように死にたいと言っていたカヨリは、仙台市近郊の山に入り大量の睡眠薬を飲んで自殺をはかった。オレがミサ ──オレの初期作品の小説に登場する仲良しの女の子── と仕事後に居酒屋で飲んでいると、カヨリの姉 ──ふたり姉妹の姉の方はしっかり者の公務員だったが、やはり生まれた子が知的障害児だった── から携帯電話に着信があった。


 ──カヨリが家に帰らず行方不明になっている!


  それから数日後また電話があり、


 ──カヨリは山中で大量の睡眠薬を飲んで3日間気を失っていたが、なんとか命は取りとめた!


 カヨリの姉は泣きながらオレに謝った。


 そのときオレは、デートで宮沢賢治記念館に行ったことを思い出した。賢治の最愛の妹トシが亡くなったときの心象を詠んだ『永訣の朝』を紹介するコーナーで、その日はじめてカヨリが興味を示し、


 ──賢治にとって妹が恋人だったのかしら。


 と自虐的に笑ったことを。


 結局、カヨリにとってオレは、不機嫌なときも何も言わず黙って見守ってくれる、恋人というよりも兄のような存在だったのかもしれない。 ──オレはカヨリより一つ年上だった──


 賢治のいう「因果」とは、殺されるもの、食われるものの悲しみ、愛するものと別れるときの悲しみだとするなら、その悲しみはどこから来るのだろうか? ──妹トシの死による悲しみとは──

 そしてオレはカヨリの人生に、儚く弱いものの悲しい「因果」を感じずにはいられなかった。



 ちなみにオレの枕もとには、つねに何冊かの文庫本が置いてある。その一冊が宮沢賢治の詩集『春と修羅』だ。いつでもすぐにページをめくれる。ときどき愛犬シーズーのシーが、文庫本に顔を乗せたまま寝てしまい読めなくなってしまうのだが……


 ──シー! なんでわざわざそんなところで寝るの?



 まばゆい気圏の海のそこに

 (かなしみは青々ふかく)



 また『銀河鉄道の夜』のジョバンニは賢治自身、カンパネルラは妹のトシだといわれている。『銀河鉄道の夜』は、カンパネルラ=妹トシとの死への旅だったのだろうか。



 もうすぐ、オレのとなりで愛らしい寝息を立てているシーを起こして、朝の散歩に出かけよう。今朝も東の空が底辺から色づく美しい光景を、シーと一緒に眺めよう。




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