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まばゆい気圏の海のそこに(かなしみは青々ふかく) Part1



 盛岡県の花巻市にある宮沢賢治記念館にはじめて行ったのは、カヨリとの何回目かのデートのときだった。 ──カヨリは、当時毎日仕事で通う仙台法務局でアルバイトをしていて、ボブヘアの女優のような美女だったが、今でいうとてもメンヘラな女性だった──


 ジョバンニやカンパネルラといった登場人物をネコの姿に擬人化した、ますむらひろしの漫画を映画化した『銀河鉄道の夜』を観てから、オレは宮沢賢治にとても興味をもつようになった。とくに映画のエンドロールで、賢治の『春と修羅』序がナレーションで流れると、オレはその不思議なことばの連続に、大袈裟だが魂が揺さぶられるようだった。 ──なんだろう、この震えるような感動は──


 わたくしといふ現象は

 仮定された有機交流電燈の

 ひとつの青い照明です



 仙台市から東北自動車道を北上し、賢治のふるさと盛岡県の花巻市が近づくと、なんとなく風景が変わったような気がしてくる。西に北上山地が連なり、日本の農村というよりもどことなく異国風の風景は、まさにイーハトーブの世界だった。 ──皆さまも花巻市の山々や平野、森や川などの風景を目にすれば、きっとイーハトーブを感じられるはず──


 ──なんかイーハトーブを感じるね!


 ──そうかしら?


 その日、カヨリはデートのはじめから不機嫌だった。今日は不機嫌な日らしい、と覚悟せざるえない。 ──1日中ほとんどまともな会話は成立しなかった──


 それでもオレは、宮沢賢治記念館の展示物や動画やナレーションに集中した。「心象スケッチ」とは、宇宙や無限の時空につながるもの、個人的なものを超えて普遍的なものをスケッチすることらしい。


 帰りの車中で、カヨリは助手席のシートを倒して寝てしまった。宮沢賢治はどうでもいいようだ。オレは去りゆくイーハトーブの風景を、ひとりで惜しんだ。

 カヨリの口ぐせは、死にたいだった。もちろん、そんなことを簡単に口にする人間と付き合ったのははじめてだったので、とても戸惑った。


 ──太宰治じゃあるまいし!


 それでも機嫌のいい日は、むかしのことをよく話しをしてくれた。なぜ自分がこんな人間になってしまったのか? ──じきにオレは、彼女の父親も精神的な問題を抱えていることを知り、環境や遺伝が大きく影響していると考えるようになった──

 そしてデートの最後には、いつものように死にたいと口にした。

 ──Part2につづく──



 もう昨日から正月休みに突入したので、いつもより遅く朝の散歩にでかけよう。愛犬シーズーのシーはオレのとなりで寝息をたてている。時々、ひとり言のような音声に変わる。なにか楽しい夢でも見ているのだろうか?


 ──シー、そろそろ起きて、散歩に行くよ!




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