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『日蝕』Part2



 ベージュの遮光カーテンが彩光によって明るくなる前に、平野啓一郎の『日蝕』を読了した。はんぶん徹夜のようにして一気に読んだ。同じ布団で愛犬シーズーのシーはまだ寝言を発しながら熟睡している。炊きあがったホカホカのごはんを、ゆっくり噛んで吟味するように、この小説はもう少し時間をかけて咀嚼しないと、どんな小説かわからない。さまざまなことが謎のままだ。今日のところは、たんなる印象を述べるのみになってしまうかもしれない。ただここ最近読んだ小説のなかでは、とくにオレの心奥(しんおう)をがっちりと捉えたことは間違いない。


 馴染みのない15世紀フランスのいち修道僧の物語を、(おびただ)しいルビが使用された擬古的(ぎこてき)な文章で描き切っている。中世キリスト教世界、トマス主義、錬金術師、賢者の石、両性具有者(アンドロギュノス)等々、やはり馴染みはない。

 難読な言葉や漢字がルビ付きで連発され、オレはそのひとつひとつをGoogleで検索しながら読みすすめた。それでも文章自体は読みやすい方だった。 ──きちんと調べないと正確な理解がむずかしい── しかしながら、この小説を最後まで読みすすめることなく途中で投げ出してしまった人も、案外多いのではないかと感じた。 ──言葉や漢字の検索を面倒だと感じたり── さまざまな宇宙観、世界観、宗教観、価値観、思想、哲学等が散りばめられ、ちょっと難解に感じ敬遠したくなる人もいるだろう。多少覚悟して読みはじめる必要がある。


 それでもオレには、中世キリスト教世界が未知の領域だったためとても新鮮だった。日本の戦国時代を理解するように、当時のヨーロッパのキリスト教世界が垣間見えた。やはり冷害に苦しみ貧相な暮らしの農民 ──けっして信仰が厚いわけでもない── がいる一方で奢侈淫逸(しゃしいんいつ)(ふけ)る堕落した司祭など。

 そしてなにより、錬金術師もそうだが、とくに両性具有者(アンドロギュノス)の存在に強い衝撃を受けた。 ──現実に中世ヨーロッパの時代に実在したのか不明だが、リアリティな物語に両性具有者(アンドロギュノス)が登場してくるのはまさに驚愕だった── 詳細は記載しないが、異端審問や魔女狩り、焚刑(ふんけい)、疫病の蔓延など中世ヨーロッパの世界とは、いかにもこのようなあり様だったのかと。


 それともうひとつ、1998年に発表され芥川賞を受賞した『日蝕』は、当時話題となり40万部を売り上げベストセラーになったが、先ほども述べたように、どうしても万人受けする小説とは思えない。アナクロニズム(時代錯誤)と感じた読者も多かったのではないか。

 それでも、この小説でもっとも特筆すべきところは、聖性示現(エピファニー)聖性恢復(せいせいかいふく)が大きなテーマとして描かれている点だろう。 ──なかなかこうしたテーマを正面から描かれた小説は少ないし、オレがいちばん気に入った点── このへんについては、これからよくよく咀嚼をして、また次回に述べたいと思う。まだまだ謎が多い。



 さあ、シーを起こして朝の散歩に行こう。薄明のなかを底辺から色づく東の空をシーと見つめながら……


 ──シー起きて、散歩だよ!




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