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Infant Sorrow



 ──人間よ、動物に威張り散らしてはいけない。動物は罪を知らぬが、人間は偉大な資質を持ちながら、その出現によって大地を腐敗させ、腐った足跡を残している。悲しいことに、われわれのほとんどすべてがそうなのだ! 特に子供を愛することだ。なぜなら、子供もまた天使のように無垢(むく)であり、われわれの感動のために、われわれの心の浄化のために生き、われわれにとってある種の教示にひとしいからである──

 (新潮社版『カラマーゾフの兄弟』原卓也訳)


 これは大江健三郎の長編小説『洪水はわが魂に及び』で、主人公の大木勇魚(おおきいさな)が、自由航海団の若者たちに言葉の専門家として読み聞かせた『カラマーゾフの兄弟』のゾシマ長老の説教だ。

 この世界でもっとも善きもの、すなわち鯨と樹木の代理人を自認する大木勇魚は、瞑想して「樹木の魂」と「鯨の魂」と交感している。

 また大江健三郎の長編小説『同時代ゲーム』において、村=国家=小宇宙の創建者である「壊す人」が登場するが、あるいはスピリチュアリティが破壊性を帯びることの象徴なのかもしれない。そしてその破壊性が、堕落した人間や人間社会へと向かうのは必然であろう。 ──人は生まれたときは真っさらであるが、人間は汚れていって、「堕落し」、ほの暗い世界に足を踏み入れてしまう── この堕落した人間や人間社会に対して、無垢なものの結晶として、またInfant Sorrow《幼な子の悲しみ》に報いるために、破壊を試みるものこそ「壊す人」なのだ。



 今晩も愛犬シーズーのシーの寝息を聴きながら日本酒を飲む。このほんのちっぽけな生命が立ち上がって吠えるとき、無垢なものの結晶として、Infant Sorrowに報いるために、「壊す人」が現れるような気がする。




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