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『大江健三郎 作家自身を語る』Part1



 1年ほど前、新潮文庫の『大江健三郎 作家自身を語る』を読んだ。 ──尾崎真理子(文芸評論家)との対話の形式── 大江自身が、執筆した頃の時代背景とともに自作を語るという内容だ。

 大江の作品群のなかで、とくにオレが好きな作品や感銘を受けた作品を、大江自身がどのよう語るのか、とても興味深かった。

 

 大江健三郎の作品の中でいちばん好きな長編『洪水はわが魂に及び』は目次に、 ──『洪水はわが魂に及び』を文壇はどう受け止めたか── となっており、残念ながら直接作品の内容を語っていないようだったが、まずはじめに読んでみた。


 大江は中期の代表作のほとんどを、新潮社の「純文学書下ろし」シリーズで発表している。「純文学書下ろし」シリーズがあったこと自体、今では考えにくく驚くべきことだが。

 1964年『個人的な体験』、1973年『洪水はわが魂に及び』、1976年『ピンチランナー調書』、1979年『同時代ゲーム』と、およそ3年から5年ほどの間隔で発表している。しかもどの作品も10万部以上は売れたようだ。1960年代、1970年代は、安保闘争や学生運動が盛んな時期であり、まだ若者のなかに「純文学」の需要があったのだろう。 ──ちなみに、代表作の『万延元年のフットボール』は、1967年に講談社で発表──


 まさにそのような流れで、1979年に新潮社の「純文学書下ろし」シリーズの特別作品として『同時代ゲーム』が発表された。大きな新聞の出版広告もあり、10万部を超えるベストセラーにもなったが、この晦渋(かいじゅう)な作品に対する評価は大江を満足させるものではなかったようだ。

 そのため大江は、かみ砕いた内容の作品として『M/Tと森のフシギの物語』を1986年に発表している。


 1970年代半ばから、純文学というジャンルの失速がはじまったのでは、という問いに大江は、『洪水はわが魂に及び』や『同時代ゲーム』をピークとして、長い下り坂がはじまり自身の長編小説の読者が少なくなってしまったのは、自分のせいだと振り返る。やはり『同時代ゲーム』が分岐点だったと。

 『同時代ゲーム』は10万部を超えはしたが、発売されてしばらくたつうちに彼が感じたことは、


 ──今までどおり買ってもらえるけれど、読みとおしてくれる人は少ないのじゃないか


 という危惧だった。

 しかもその原因は、自分が新しい文学理論や文化理論に夢中になっていて、自分が本を読んで面白いと思ったことを自分の本に書くという、閉じた回路に入ってしまったからだと。

 自分の文学理論にのめり込みすぎたため、書いている自分が(たの)しんでいる小説 ──かなり難渋(なんじゅう)な小説── になってしまったためだと。

 しかし小説家には、決して成功しない作品を全力を尽くして書く、おおげさにいえば運命のような避けがたい魅力があるとも語っているのだが。


 ともあれ純文学の衰退は大江だけではなく、ほかの作家にもみられ、学生運動が終結した若者に、純文学は需要がなくなってしまったのだろう。

 オレも純文学を執筆している以上、需要が少ないことを覚悟して書いているのだが。


 最後に、野間文芸賞を受賞した『洪水はわが魂に及び』の大岡昇平の選評を簡略して記載する。この選評から読んでみようと思われる方がひとりでもいればと願いつつ。


 題材に一貫性があり、(あふ)れ出る想像力によって統制された世界を現出しています。文体に延びがあり、1作ごとに現代的なテーマを選び、『万延元年のフットボール』以来6年振りで新しい価値を創造した。「祈り」がこの度の作品に現れた新しい要素であり、「ジン」というアラビヤンナイト的な名前を持った小児の聖性が、作品全体になんともいえない神秘の光をみなぎらせている。



 今朝も薄明のなかを愛犬シーズーのシーと散歩をした。寒くて途中であったかい缶コーヒーを飲んだ。シーは体毛がもふもふだからまったく寒くないようだ。




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