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若くして俗塵に染まぬ光り輝く精神の果物屋



 人間は所詮滅びるものかもしれず、残されたものは虚無だけかも知れない。しかし抵抗しながら滅びようではないか

            (セナンクール 渡辺一夫訳)



 セナンクールは200年も前のフランスの小説家だが、訳者の渡辺一夫は東大フランス文学部教授でノーベル文学賞作家大江健三郎の師でもあった。

 大江健三郎は、昭和29年春に東大教養学部に入学し、まったくフランス語を読むよりほか、何もしない2年間だったらしい。 ──大学での授業と日課としてサルトルの原典を10ページずつ。さらに現代文学(英米の新しい小説等)などを原語で読んだ──

 進級すると、フランス文学部教授の渡辺一夫の講義を直接受けるようになり、渡辺一夫が共同翻訳したピエール・ガスカールの『けものたち・死者の時』(岩波文庫)に、大きな影響を受けた。


 また大江健三郎は、議論や酒の席で費やす時間を惜しみ、(めく)大学と下宿との往復、家庭教師のアルバイトに行くだけの学生生活を送る。一方で、海外の新しい小説とフランスと日本の新聞を熱心に読むことによって、世界の共時性を確信し、想像力はいくらでも刺激されたらしい。


 社会を忌避(きひ)するようにして、自分の下宿に戻り、その借間が窓のない部屋であっても、そのこと自体にいささかも悩まされずに小説を書きつづけられたという。

 そして、東京大学五月祭賞に『奇妙な仕事』、短編集『死者の奢り』が出版され、『飼育』で第39回芥川賞を受賞し、戦後世代の旗手として注目されるようになった。



 ──若くして俗塵(ぞくじん)に染まぬ光り輝く精神の果物屋──


 東大教養学部時代に、親しい仲間と製作したささやかな雑誌の大江健三郎の貴重な自己紹介文。

 若くて俗塵に染まらず、一途に新しい文学を求めることによって、大江健三郎という類い稀な才能をもった小説家が歩きはじめたようだ。


 巨大な核戦争が文明国の諸都市を破壊する時、動物園の象に逃走の自由があるのだろうか? またこのひどく(かさ)ばる動物を収容するための核戦争用シェルターが作られることがあるのだろうか?

 

 世の中の趨勢(すうせい)に乗じるのではなく、大江健三郎は一貫して差別される少数者、中央の繁栄からもっとも遠くに生きる弱者の立場から、最後まで離れることはなかった。

             (文芸評論家 尾崎真理子)


 オレは、ライフワークとして大江健三郎の全作品を精読することを目指している。これまで読了した作品については、このエッセイで詳しく語って行きたい。今日も愛犬シーズーのシーの安らかな寝息に励まされて、彼の長編小説のページを(めく)っている。





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