『懐かしい年への手紙』第三部 第三章「臭いたてる黒い水」
『懐かしい年への手紙』第三部 第三章「臭いたてる黒い水」
ギー兄さんが新しくはじめた事業、 ──この世界の・またそれを超えた世界を把握するためのモデル作り── テン窪の人造湖の堰堤工事に拍車がかかると、人造湖の計画に不安を抱いて反対する、谷間と「在」から川下の隣町、さらにその下流の人びとも活潑に動き出した。
「壊す人」にひきいられた村の創建者たちが、森のなかの土地にやって来た時、そこは黒い水でジュクジュクした臭いガスを出す湿地帯だった。そこから、現在の地形を洗い出すために、谷間の端の頸のところを閉ざしていた大岩塊を爆破した。
百年後、村社会や耕作のシステムを、創建期の原初かえそうとした改革「復古運動」を指導したオシコメは、あらためて頸に土塁をきずき堰堤をつくろうとした。しかし彼女のための戦闘集団だった若者に離反されてオシコメは失脚してしまう。
反対派の火つけ役になった三島神社の神主の孫が、ギー兄さんのテン窪のワケノワカラヌ事業がオシコメの改革につうじると主張した……
やがて谷間や「在」の電柱や人家の壁に、印刷したビラが大量に貼られた。赤い紙に黒い字で印刷された「黒い水」「人殺し」。
ところがその頃、直腸と大腸のさかいに悪性の腫瘍が見つかったギー兄さんは、手術をすることになった。連絡を受けたKちゃんは、急遽、東京駅から夜行列車に乗って松山の日赤病院へと向かう。
手術において、ギー兄さんの生殖機能を根こそぎ取ってしまうため、なんとかギー兄さんの子供を生みたいと思っているオセッチャンとギー兄さんから、Kちゃんはある提案を打診される。手術直前のオセッチャンが妊娠しやすい日、予約したホテルにKちゃんも含め三人で行こうと……
『同時代ゲーム』は、幕藩体制下に脱藩して川を遡行し、時を古代まで遡りながら山奥に辿り着き「村=国家=小宇宙」を創建した「壊す人」の物語でもあるが、この『懐かしい年への手紙』でも、それらの村の土地の神話と歴史に触れられている点は、先に発表された『同時代ゲーム』を読んでいるものにとっては馴染みやすく懐かしくも感じられるものだろう。
次の第三部 第四章 「懐かしい年への手紙」でこの長編小説は終わりとなる。ひとつの小説をここまで細かく書いたのははじめだった。あらためて総評を次回に述べてみたいと思う。
寝ながら読書をしていると、愛犬シーズーのシーがオレのお腹にのぼってきてオレの顔を覗き込んだ。まん丸の顔のまん丸のつぶらなひとみがあまりにも可笑しくて、オレは永遠にシーとともに生きることを誓った。