『懐かしい年への手紙』第二部 第十章「根拠地(二)」
『懐かしい年への手紙』を読了したが、まだオレ自身のなかでこの長編小説をよく咀嚼できていないため、あらためて各章ごと再考することにした。まだみえてこないこの長編小説の本質を見極めるために……
『懐かしい年への手紙』第二部 第十章「根拠地(二)」
右翼団体からの脅迫を受けつづけていたKちゃんは、ギー兄さんから、東京での生活を切りあげて森のなかへ帰って来ないか、という提案の手紙を受け取る。Kちゃんと妻のオユーサンは、ギー兄さんの申し出を現地で検討する思いもこめて、四国の森のなかの村へ旅行することを決めた。
神秘主義のグループの指導者のような髪を短く刈って頭に布をまいたギー兄さんより、実現しつつある根拠地の構想を聞かされたKちゃんとオユーサンであったが、実際に根拠地にふれて興味をかきたてられたのはオユーサンの方だった。
主題を森のなかの土地の伝承に立って祭あるいは叛乱にしたいと、ギー兄さんより根拠地での演劇の台本を頼まれたKちゃんは、ギー兄さん自身が、実際にはデモに参加するとすぐ殴り倒され・負傷するという「安保闘争」の経験が根底にあることに気づく。万延元年の一揆の指導者で・曾祖父の弟にあたる若者が殺されてから百年目に「安保闘争」のデモは行われた。万延元年の一揆の百年後に、こちらも血を流しながらKちゃんのいう「想像力の竹槍」を手さぐりしていたと語るギー兄さん。 ──一揆では指導者の若者「オフコフ」が、兄の曾祖父によって殺された──
大江健三郎は、柳田国男からも強く影響を受けているようだが、祭と叛乱それこそが、万延元年の一揆であり百年後の「安保闘争」ということだろう。 ──大江は短編連作集『河馬に噛まれる』でも「安保闘争」を主題にしていた──
── 虫みたいな生活をしていた百姓どもが── 万延元年の一揆に参加していることに大きな意味があったのならば、虫みたいな生活をしていた若者が「安保闘争」に参加したことは重要だったろう。令和の若者が、虫みたいな生活をしているのであれば、歴史的にも祭と叛乱は必要なはずなのだが……
今朝も薄明のなか愛犬シーズーのシーと散歩をした。底辺から赫く色づいた東の空は何かを語りかけてくる。この圧倒的な大自然の光景を知らない人間が多すぎるのだ。