表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/267

『懐かしい年への手紙』第二部 第九章「根拠地(一)」



 『懐かしい年への手紙』第二部 第九章「根拠地(一)」を読了した。


 中国から帰ってきたKちゃんと芦屋の実家から戻ったオユーサンは、ふたたび成城学園の借間で暮らしはじめた。一方、右翼の暴力団に打ち倒されて地面に横たわり血を流すギー兄さんを救助した(しげる)さんという男のような名前の新劇女優が、東京の病院から森のなかまでつきそってギー兄さんの看病にあたっていた。ギー兄さんは今回の大怪我により、現実世界を受け身で生きてゆくかわりに新しい生き方に至ろうとして ──憤怒のエネルギーに支えられながら── この土地に()()()を作るという新しい構想に取りかかった。

 またKちゃんが中国から帰国後の十月、浅沼社会党委員長が右翼の少年に刺殺される事件が起きた。まだ25歳だったKちゃんは、この事件をもとにひとりの少年の、オナニストからテロリストへの転換という主題の第一部『セブンティーン』と、テロリストに転換した少年が、現実に社会党委員長を暗殺し、つづいて拘置所て縊死するまでを描いた第二部『政治少年死す』を発表した。その後、右翼団体から激しい脅迫を受けることになってしまうのだが……


 ──『セブンティーン』と『政治少年死す』は、発売が停止されていたが、2018年講談社から刊行された『大江健三郎全作品』には収録されている。オレ自身は、大江健三郎の全作品を読了することをライフワークとしているので、近い将来この2作品も読みすすめることになるだろう──


 右翼団体からの脅迫を受けつづけていたKちゃんは、ギー兄さんから、東京での生活を切りあげて森のなかへ帰って来ないか、という提案の手紙を受け取る。その手紙には、自分としてKちゃんが生涯の小説の主題として、それより他に書かなければならない主題はないように思うというテーマが示されていた。

 それはKちゃんのみならず、このオレ自身も、今後の執筆活動で唯一書かなければならないテーマだと感じられるものだった。 ──その具体的なテーマは、多くの大江の小説を読んでいる方には想像できるかもしれないが──


 オレは太宰治から小説の尊さを学び、大江健三郎から小説のすすむべき方向を学んできた。大江の長編『洪水はわが魂に及び』で啓示されたテーマが、ふたたびこの『懐かしい年への手紙』で示されているのに出会い、オレはそれだけでもこの長編小説を読んだ甲斐があったと嬉しくなり、隣で爆睡している愛犬シーズーのシーの頭を撫でた。


 ──シー、そろそろお散歩行くよ! 朝陽がきれいだよ!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ