雨のしずく
「しずく」とは、「したたり落ちる液体の粒。また、それがしたたり落ちること。」と国語辞典に書いてあった。
雨のしずくに
景色が映っている
しずくのなかに
別の世界がある
このある小説家が書いた、たった4行の詩は何を語っているのか? おそらくこの世の中を生きていくうえで、とても大切なことが示されている。これだけだはよく理解しづらいかもしれないが……
小学生の頃、よく朝食で、温かな白米にバターをのせてかき混ぜ、バターゴハンにして食べた。おかずは漬け物ぐらいだったと思う。高卒の父は国鉄職員だったけれど、それほど給料が高かったわけでもなく、オレを大学に進学させることを考えていた母は、将来の学費を蓄えるためにけっして贅沢はしなかった。そのため朝食は、よくバターゴハンだったし、オレもそれを不満に思うこともなく当たり前だと思っていた。
母と仙台市内のデパートに買い物に行き、どんな服がいいか? と問われた時も、オレはいつも要らないといっていた。子どもの頃は、服よりももっとほかのことが大切だったから……
それでも、小学校の高学年になり好きな女の子ができると、ようやく服も選んでカッコよくした方がモテるらしいことを、うすうすわかってきた。
無事に大学を卒業して社会に出ても、先の詩を心奥にひめて生活していた。自分のまなこでよく世界をみること、それでなければ、現実社会の真実を見きわめることはできないはずだから……
日本の現実社会は資本主義社会であり、何事も競争の社会だった。仕事でも人づきあいでも恋愛でも、争って手に入れていかなければならない。だからこそ自分のまなこでよく世界を見きわめることが必要だった。
この世の中は、有象無象の輩が犇めき争っている。オレはそんな世の中にとどまり迎合したくなかった。もちろんひとりで生きてはいけないし、社会のシステムに加わる必要はあるのだが……
しずくのなかに
別の世界がある
こころを澄ませる必要があるのだ。
そして愛犬シーズーのシーと暮らしはじめて、まるで隠遁者のようにオレのこころは、世の中に迎合することなく独立した気持ちで生きられるようになった。シーの導きによってシーとともに……