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『懐かしい年への手紙』PART1



 大江健三郎の短編連作集『河馬に噛まれる』を読了後、すぐに仙台市の丸善で、やはり大江健三郎の長編小説『懐かしい年への手紙』を購入し読みはじめた。ノーベル文学賞の対象作品となっているこの長編は、彼の最高傑作という人もいるらしい。 ──オレは『同時代ゲーム』こそが彼の核心となる揺るぎのない最重要作品だと思っているが、それは『同時代ゲーム』を読んでみればおのずとわかるであろう──

 途中経過を報告すれば、第三部まであるおよそ600ページ弱の長編小説のうち、ようやく第一部の第3章へすすんだに過ぎない。


 第一部

  第一章 静かな悲嘆(グリーフ)

  第二章 カシオペア型の《《ほくろ》》

  第三章 メキシコの「夢の時」(ドリーム・タイム)→現在読書中


 主人公の僕の親族で歳上のギー兄さん ──やはり大江の代表的な長編『万延元年のフットボール』をはじめいろいろな作品に登場するキャラクター── が四国の森の谷間の村で大がかりな事業を始める。そしてダンテの『神曲』を山川丙三郎訳で読みつづけているギー兄さんが「地獄第十三曲」を暗誦してみせる。


《この時われ手を少しく前にのべてとある大いなる荊棘(いばら)より一の小枝を採りたるに、その幹叫びて何ぞ我を折るやといふ/かくて血にくろずむにおよびてまた叫びていひけるは、何ぞ我を裂くや、憐れみ心すこしも汝にあらざるか/いま木と(かわ)れども我等は人なりき、またたとひ蛇の魂なりきとも汝の手にいま少しの慈悲はあるべきを/たとへば生木(なまき)一端(かたはし)燃え、一端よりは(しずく)おち風聲を成してにげさるごとく/詞と血と共に折れたる枝より出でにき、されば我は(さき)を落して恐るゝ人の如くに立てり》


 またこの小説には、ときおり英語が邦訳なしで記載されているため、オレはiPhoneで単語を調べ自分で訳さなければならなかった。

 Touch this tree, Once your friend等々。


 大江健三郎は多くの作品に、古典ともいえるような文学作品を引用し、小説に大きな効果と新しい風を与えている。ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』、ウィリアム・ブレイクの予言詩(プロフエシー)、ダンテの『神曲』等々。それは読者により誠実に、より高度な思考を求めてもいるようだ。やはり時間の合間に読書を楽しむといった気軽なものではなく、小説や文学により誠実に向きあう姿勢を求めている。万人受けする小説ではけっしてないため、読者は限られてしまうだろう。 ──大江もそれはよくわかっているようだ──

 なぜ大江健三郎が、自伝的な長編小説を書こうとしたのか、読了後に納得できるのではないかと期待しているのだが……

 またある程度読みすすめたら、続きを……



 今晩もエアコンで温められた部屋で、愛犬シーズーのシーと一緒に寝ている。シーの寝顔を見つめながら暗誦した。


 ──自然(ピュシス)界のなかで死ぬことは利他的なこと。




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