『ピンチランナー調書』第七章「「親方」の多面的研究」
『ピンチランナー調書』第七章「親方」の多面的研究」を読了した。
森・父と「志願仲裁人」は街に出かけた。森・父が「親方」の秘書に電話をかけると、可能な限り早く直接「親方」の病室に来てくれという。それから森・父は経済紙の解説欄に、国内原発の1/3および韓国の原発開発権を制している総合商社の、陰の実力者こそ「親方」だという指摘を発見し、虚をつかれた思いになる。 ──安イ報酬デ、実際ニ必要ナ仕事ヲスル、臨時傭イニスギナカッタノダ── パリで縊死した友人の、ある瞬間のケチくさい、しかも甚大な怒りにと同一じゃないか!
その後、緊急の行動計画を話し合うため、未来の映画作家の麻生野桜麻と四国の反・原発のリーダー「義人」と新宿の朝鮮料理店で落ちあった。
未来の映画作家がいった。
──東京のある一隅に、充分な政治的想像力と、倫理観と、人類への根本的な愛をもつグループがいるとするわね。かれらがある日、原爆を開発・保有していると宣言すれば、私たちの国も変るのじゃないかしら? すくなくともいまそこいらで、やがて死ぬことなど思ってもみずに、街を歩いたり食事をしたりしている都民民衆が、緊張するだろうことは確かよ──
やがて死ぬことなど思ってもみずに、街を歩いたり食事をしたりしている都民民衆がとは、都民民衆に限らず、全国のいまそこいらにいる日本人に当てはまるであろう。やがて死ぬことなど思ってもみずに、盲目的に繁栄を謳歌し、地球が終末に向かっていてもあくまでもオプティミスティックな……
──担当ホストの締め日のため、新宿の大久保公園で立ちんぼをする若い彼女ら、または彼女らに声をかける中年オヤジ、そして彼女らの担当ホストが、《宇宙的な終わり》について考察することはあるのか? 当然ないだろうな! ha、ha!──
大江はこの長編小説で、《宇宙的な終わり》について、第一次石油危機により高度成長期が終わって間もない1976年に言及しているが、2023年の現在を生きるわれわれは、彼のいう《宇宙的な終わり》をどう考察すべきであろうか? そんなことは考えなくていい? ha、ha!
──この地球上の現代世界がいまや宇宙的な終りに近づいているから、その終末的方向性に向けて加速される宇宙的な力が、当然のことに地上の諸側面に歪み、ひずみをひきおこしている──
ガザ地区へのイスラエルの地上侵攻が始まろうとしている。イスラエルの空爆によってガザ地区の3000人以上もの子供が命を落とした。ユダヤ教は子供の命が地球よりも重いことを説いてはいないようだ。宗教とはそんなものなのだ。イスラエルもアメリカもいまや現代世界が《宇宙的な終わり》に近づいていることをまったく考察していない。
エアコンの暖房で温められた部屋で日本酒を飲み、オレは愛犬シーズーのシーとともに、ha、ha! と苦笑しながら《宇宙的な終わり》を予感している。