『ピンチランナー調書』第六章「「大物A氏」すなわち「親方」とこのようにして出会った」
『ピンチランナー調書』第六章「「大物A氏」すなわち「親方」とこのようにして出会った」を読了した。
──このような小説を描く作家は、大江健三郎の他にはいない!── そう強く感得させられる章だった。
森・父は「親方」から、世界各国の核武装状況及び、原子力開発に関わるトピックを、主に欧米の刊行物より翻訳・要約し、そのレジュメを月々提出して金銭の報酬を得ていた。その「親方」と引き合わせてくれたパリ在住の大学の友人もまた同じように、フランスの新聞・雑誌の政治経済記事を蒐集し、翻訳・要約してレジュメを提出して金銭の報酬を得ていた。
しかし友人は、「親方」の構想ノ全体ヲツカムコトガデキズ、人間存在プロパーヘノ畏怖・敬愛ノ心ヲ、「親方」ニタイシテモッテイタ。ソノウチシダイニ深ミニ入ッテイク。ナニカマダワカラヌ「親方」ノ構想ノ全体ノ深ミニ。
友人ハ、キューバ危機ニオイテハジメテ「親方」ノ真ノ意図ニ思イイタル。自分ガイカナルモノニ協力シテキタノカヲスデニ償イガタイモノトシテサトル。
カレハ、「親方」トノ関係ニケリヲツケルベク発心シ、ソノ要約、提出自体ヲサポタージュスル。「親方」ガパリニクル。カレラハ直接対決スル。ソシテチカラツキタカレハ、ベット脇デ頸ヲ吊ル。
それから「転換」した森・父は、半・革命のゴロツキ集団の特攻隊が、「大物A氏」すなわち「親方」を襲撃したことを知る。ところが襲撃したのは、「転換」した森と女子学生の二人組だった。午前二時に、電話。森・父の電話が盗聴されているかと疑ってイカレ女子学生はあいまい言語でメッセージを話す。
──私たち二人がヤッテしまったこと、怒ってる? でもあれは、なんていうの? 挨拶みたいなものだって。本番はあなたとヤルのよ、
今日、森と女子学生は、「親方」に警告だけ発しに出かけたのだった。宇宙的ナ意志ノアタエタ使命ガ真ニアルナラ、使命の実現の際には、森と森・父が、「転換」した運命共同体として二人で行く。なぜ宇宙的な意志が「親方」襲撃を指令するのか? 使命の真の実現が、森の指導によって行われる以上、問題なし! と森・父は考えるが……
まずオレは、人間存在プロパーとはどういうことか? と思考した。プロパーとは「その分野に精通している専門家」という意味になるのなら、いったいどういうことだろうと。
そして、なぜ宇宙的な意志が「親方」襲撃を指令するのか? 縊死したパリ在住の友人が、《償いがたいもの》として悟ったこととはなんであったのか? やはりこのようなことを描く小説家は大江健三郎だけだろう、面白くなってきた!
ガザ地区の燃料がなくなってしう期限が迫っている。病院はどうなってしまうのか? オレは遠い日本でエアコンの暖房をつけて愛犬シーズーのシーと一緒に寝ている。ココロがイタム!