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『ピンチランナー調書』 第一章「戦後草野球の黄金時代」



 太陽の光が地球上のあらゆる生命を育んできたとするならば、文学はどれだけ太陽の光に近づくことができるのだろうか? またできたのだろうか? そんな普遍的な問いへの解答が得られるのではないかと期待を抱きながら、1976年に発表された大江健三郎の長編『ピンチランナー調書』の第一章『戦後草野球の黄金時代』を読了した。

 Wikipediaによると大江は自作解説として ──私は、この世界の終わり、という強い予感にとりつかれていたのだった。『洪水はわが魂に及び』は、ひとつの悲劇として、『ピンチランナー調書』は、喜劇として、しかしそれぞれ迫ってくる緊張感の中で書いた── と回想している。


 大学生の頃、大江健三郎中期の怒涛の長編群『万延元年のフットボール』『洪水はわが魂に及び』『同時代ゲーム』を読んだけれど、この『ピンチランナー調書』だけは読まなかった。書店で新潮文庫を手に取り最初のページを(めく)ったとき、リー、リーという草野球のピンチランナーの声について書かれてあったため、これまでの彼の作風との違いを感じたからだっだ。

 しかし、今回あらためて最初のページを開くと、単純なピンチランナーの話しではないことがわかったうえ、その後の物語の展開は、オレの想像を大きく超えて胸躍るものだった。 ──となりで熟睡している愛犬シーズーのシーとハイタッチをしたいぐらいオレはニンマリした──

 

 同世代で東京大学の文学部と理学部をそれぞれ卒業した小説家である主人公の光・父と、原子力発電所のもと技師の森・父は、《われわれの子供ら》が、頭蓋骨にプラスチックを縫いこんでいる共通点があった。

 森・父は、特殊学級のみならず小学校のシステム全体の改革を考えたが、改革のみこみがないことを悟ると、もうこの学校には来ないと宣言をする。 ──誰ひとり、《われわれの子供ら》を、選ばれた使命の子供らと考えないのじゃな……── と嘆いて。

 それから9箇月もたった冬の夜、主人公のもとに森・父から速達が届く。 ──おれの行動と思想を、あらかじめ調書にとっておいてくれる認識者が必要であり── おれとおそらく森の希求する、唯一の冒険の幻の書き手(ゴースト・ライター)として、小説家の光・父が必要だという内容の手紙が……


 ちなみに大江健三郎の短編・中編連作集『われらの狂気を生き延びる道を教えよ』に収録されている中編『父よ、あなたはどこへ行くのか? b 表』の主人公の障害児の名前も森だった。



 ユダヤ金融資本を無視できないアメリカは、ユダヤ人国家のイスラエルを擁護する。結局は金の力が世界を支配しているのか? オレは強い者よりも弱い者の味方でありたい。ガザ地区への地上侵攻が始まろうとしている今、さらにそう思う。

 シーのやすらかな寝顔を眺めていると、ほんとうに大切なことがみえてくる。




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