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兜率の天の食



 本日、NHKの『新約聖書』の福音書を取り上げた番組を観ていると、意外にも『永訣の朝』を例として、宮沢賢治がとても深く福音書に親しんでいたことが紹介されていた。

 『永訣の朝』は、宮沢賢治の詩集『春と修羅』に収められている、妹トシの死を(いた)んだ連作詩『無声慟哭』の巻頭の一編であり、誰もが知っている有名な詩であるが……

 これまでオレは、詩集『春と修羅』のなかではとくに『序』の、


 わたくしといふ現象は

 仮定された有機交流電燈の

 ひとつの青い照明です

 

 とはじまる不思議なコトバの連なりに魅了されてきた。一方で中学生あたりで習った『永訣の朝』は、命の儚さと賢治の妹への思いが過剰に感じられ馴染むことができなかった。しかしこの『永訣の朝』が、単なる妹トシの死を悼むだけではない、 ──「マタイの福音書8章」にある百人隊長の(しもべ)のように── 死をのりこえた祈りのコトバが込められていたことを知った。


 おまへがたべるこのふたわんのゆきに

 わたくしはいまこころからいのる

 どうかこれが兜率(とそつ)の天の(じき)に変わって

 おまへとみんなとに(きよ)い資糧をもたらすやうに

 わたくしのすべてのさいはひをかけてねがふ

            『永訣の朝』より


 ──宮沢賢治は、元々「天上のアイスクリーム」としていたものを、「兜率(とそつ)の天の(じき)」に変えている。青空文庫などではそのまま「天上のアイスクリーム」と記してある──


 お前が食べるこの二椀の雪に、私は今こころから祈る。どうかこれが天上界の食べ物に変わって、やがてはおまえとみんなとに聖なる食べ物をもたらすことを、私のすべての幸いを賭けて願う。(現代語訳)


 この現代語訳に触れて何を感じ思うだろうか? オレは、キリスト教的な救済を感じさせる『銀河鉄道の夜』に共通したものを感じとったのだが……

 そしてもうひとつ、宮沢賢治が、24歳で国粋主義的な法華経宗教団の「国柱会」に入信し、生涯その一員であり続けたため、彼の社会活動や自己犠牲的な思想について ──当時のファシズム的な風潮と関連し── 議論されていることはとても興味深い。とくに賢治の弱者に対する献身的精神、強者への嫌悪などの要素について……



 ガザ地区の病院に対する爆撃が大きな波紋をもたらしている。イスラエル側は否定し、イスラム聖戦による誤発射と主張しているが、ある専門家は、一度に500人もの死者をもたらすような威力のあるミサイルをイスラム聖戦が保持しているとは思えないと語った。周辺のアラブ諸国ではイスラエルへの抗議運動が激しさを増している。 賢治の弱者への献身的な精神と強者への嫌悪を思い、あらためて人間とは何か? と考えてしまった。


 今夜も愛犬シーズーのシーは、枕元でお尻をオレに向けて熟睡している。オレはそっと頭を撫でた。





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