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『カラマーゾフの兄弟』「作者の言葉」



 大学生の頃に読んだドストエフスキーの最後の長編小説『カラマーゾフの兄弟』新潮文庫(原卓也訳)を、ふたたび読みはじめた。三島由紀夫の『豊穣の海』の内容をあらかた覚えていないと同じく、『カラマーゾフの兄弟』の内容についてもほとんど忘れてしまっていた。  ──おそらく20歳になったばかりのオレは、内容が理解できなくても義務感にかられるまま読み通したのだろう。大学の先輩や友人に読了したことを自慢したいために──

 

 『カラマーゾフの兄弟』の「作者の言葉」の冒頭、すなわちこの長編小説の冒頭、ドストエフスキーはこう記している。


 わが主人公、アレクセイ・フョードロウィチ・カラマーゾフの伝記を書き起すにあたって、わたしはいささかとまどいを覚えている。


 冒頭、ドストエフスキーはこの小説を、わが主人公、アレクセイ・フョードロウィチ・カラマーゾフの伝記と称していた。この世界最高峰の長編小説は、主人公アレクセイの伝記だといっていたのだ。 ──アレクセイはカラマーゾフ家の末っ子の三男で修道僧──


 今回オレが再読するにあたって心奥(しんおう)に秘めていることは、ドストエフスキーの死によって書かれることのなかった第二部についてである。 ──ドストエフスキーは、伝記は一つだが小説は二つある。重要なのは二番目のほうで、すでに現代になってからの、それもまさに現在のこの瞬間における、わが主人公の行動である。と記している──

 また少なからず知られていることで、続編の構想としてWikipediaのも記載されているが、残された知人宛への手紙には「リーザとの愛に疲れたアリョーシャ(アレクセイ)がテロリストとなり、テロ事件の嫌疑をかけられて、絞首台へのぼる」というようなあらすじが記されてあったという。冒頭の「作者の言葉」でも、ドストエフスキーはアレクセイのことを、本編から受ける印象とは全く異なる「奇人とも呼べる変わり者の活動家」と評している。


 あくまでも推測にすぎないが、ドストエフスキーは第二部で主人公アレクセイがテロリストへと突きすすむ物語を描こうとしていた。つまりこの世界最高峰の長編小説『カラマーゾフの兄弟』は、なんと《主人公がテロリストになって絞首台へのぼる物語》だったかもしれないのだ。


 推測にしろこの事実に、オレは強い衝撃を受けた。 ──この推測を知ったのは、山上徹也が安倍元首相を銃撃殺害した事件の頃だった──

 よってオレは数十年ぶりに『カラマーゾフの兄弟』を再読するにあたって、テロリストへと突きすすむアレクセイ《テロリストアレクセイ》を念頭において読みはじめたのだ。 ──あのドストエフスキーが、どのようなテロリストを描こうとしていたのか(本編はアレクセイの伝記であるとともに、父親殺しの話しだが)──


 余談だが、拙作の長編小説『シーとピンク色のテロリスト』は、アレクセイがテロリストへつきすすむイメージあるいはメタファーから生まれ、書きつづけている。




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