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『晩年様式集』読了
大江健三郎の最後の長編小説『晩年様式集』を先ほど読了した。
各章ごとについてはあらためて記していくが、大江健三郎の長編小説を読み終えるたびに湧き起こる感動 ──文学の核心、本質に接した── は、オレが生きてゆくうえでの糧となっている。
この大江健三郎最後の長編小説は、彼自身の長い詩『形見の歌』で締めくくられていた。印象的な行のみを抜粋して記してみたい。
生まれてくること自体の暴力を
乗り超えた、小さなものは
まだ見えない目を 固くつむっている。
時がたつと、
魂は 谷間に降りて、
生まれてくる赤んぼうの胸に入る。
「自分の木」の下で、
子供が心から希うと、
年をとった自分が
会いに来てくれる(ことがある)。
伝統を拒み、社会との調和を拒んで、
否定のただなかに、
ひとり垂直に立つ。そして
かつてない独創に達する者らがいる……
小さなものらに、老人は答えたい。
私は生き直すことができない、しかし
私らは生き直すことができる。