『同時代ゲーム』impression4
となりで爆睡している愛犬シーズーのシーの頭を、愛しむようにそっと撫でる。ことばが出ない……
ようやく『同時代ゲーム』の「第四の手紙 武勲赫々たる五十日戦争」を読み終えた。ひとことではいい表せないさまざまなな思いが、せわしく明滅しながら消えていく。この章は、あと二つの章を残していながら、『同時代ゲーム』のクライマックスともいえる章だった。夜空に粛然と輝く一等星のような至高の物語を、大江健三郎は描いていた。
「第四の手紙 武勲赫々たる五十日戦争」とあるように、この章には、村=国家=小宇宙と大日本帝国との五十日間にわたる全面戦争が描かれている。 ──太平洋戦争前の大日本帝国と思われる── 四国の原生林に囲繞された一寒村の村=国家=小宇宙を謀叛人として、大元帥陛下の皇軍たる大日本帝国の一中隊との、類をみない全面戦争が克明に描かれている。壊す人、無名大尉、木から降りん人、チョウセンオオカミ、犬曳き屋などが登場し、ときには絶句し、ときにはアハハと苦笑しながら、思わず拍手を送り、そして深い感動にことばを失い、この章を読みすすめた。
大日本帝国との全面戦争の開始にあたって、村=国家=小宇宙は、自分たちを不順国神、そして不逞日人とし、人間としては、自分たちはおまえらと根柢から違う者だ、異族なのだということを示した。天皇国家の制圧以前にさかのぼり、かつは関東大震災に大日本帝国軍隊が治安出動するにあたって敵とした、不逞鮮人という言葉を逆手にとって。 ──わかるかな? 意味不明ならば、ググってみよう── ある文芸評論家は、不順国神、不逞日人という言葉には、大江健三郎の「日本という国家」を相対化する思想が込められており、混乱、混迷する現代にこそ読まれる小説だと論じていたのだが……
今回も詳細を述べることは差し控えるが、読了後、ふたたびまとめとして触れてみたい。まずは、残り二つの章を続けて読みすすめよう。