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一編の小宇宙



 オレの職場は、仙台でいちばん高い超高層のホテルと併用のオフィスビル内にあって、1、2、3階には飲食店も入っている。

 昨日(秋分の日)、仕事が終わってエレベーターで1階まで下りると、正面玄関脇の飲食店で披露宴の二次会らしきパーティーが開かれていた。外のパラソル付きの丸テーブルにも若者たちが座っていて華やいだ盛り上がりをみせている。しかし仕事でくたくたになっていたためか、それとも生来の歪んだ性格からか、それらの華やかな光景に何かしら違和感を覚えたのだ。それは日頃から、日本の若者全体へ抱いていた漠然とした抵抗感の反映だったかもしれないが……

 高揚した司会者らしき女性がマイクで喋りつづける声と若者たちの歓声をあとにし、雨の上がった濡れた舗道に出ると、オレの脳裏には、安倍元首相を銃撃した山上徹也容疑者とその兄弟のことが浮かんだ。 ──まさにそれはオレが内包する歪んだ正義感からの破壊願望ゆえなのかもしれないが──

 山上徹也容疑者が子供の頃、彼らの父親が自殺し、ショックを受けた母親は旧統一教会に入信し多額の献金をはじめてしまう。困窮した生活を送らざる得なかった彼らに、普通の若者と同じような青春を送ることができたとは思えない。山上容疑者が父親代わりだったという妹は、まわりの同世代の女性らと同じように買い物をしたり、オシャレを楽しんだりできたとも思えない。まして披露宴の二次会のパーティーでドレス姿の友人たちと(たわむ)れるなど、想像さえできない遠い世界の出来事であろう。

 仙台市中心部のビル群やらウインドウの照明が(きら)めくなかを歩きつづけながら、人間の運命はなんと不平等で残酷であるのか、すぐにセンチメンタルな気分に陥りやすい歪んだ性格のオレは考えてしまった。 ──どうしても美しく華やいだ花よりも、道端で踏みつけられ(しお)れてしまった野花に目が向いてしまう── 美しい花にばかり気をとられ、道端の野花が踏みつけられていることに気づくことなく、まったく関心すら寄せない多くの人間や若者に違和感を覚えるのだ。

 踏みつけられてしまった野花であっても、 ──一編の小宇宙のような尊さと美しさをあらわした詩や小説に触れれば── どんなに華やかに着飾った花よりも、豊かなこころをもって生きつづけることができると信じたい。


 今晩も、愛犬シーズーのシーは枕元でお尻をオレに向けて熟睡している。






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