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『晩年様式集』その2



 いまオレは、大江健三郎の最後の長編小説『晩年様式集イン・レイト・スタイル』を読みすすめているが、 ──東日本大震災後の2013年、大江健三郎78歳時に発表── 相変わらず読みづらいが独特の文体を楽しみ親しんでいる。


 「空の怪物が降りて来る」という章では、大江健三郎が28歳時に、頭部に切除しなければならない畸形を持って生まれて来た赤んぼうによって打ちのめされ、それを乗り越えようとする思いにうながされて書いた短編小説『空の怪物アグイー』について触れられていた。 ──自分の手を汚さず赤んぼうを始末する方策を用意されて、その通りにした若者が、やがて自殺に近い死に方をする物語。かれの殺した赤んぼうが、カンガルーほどの大きさになり、木綿の肌着に包まれて、空に浮かんでいる。その幻影の生きものがアグイーという名前だった。──

 実際、生まれてすぐ頭部の大きな(こぶ)を切除した大江健三郎の長男ヒカリが ──頭に障害が残り知的障害者となった。すでに中年男性となったが、この長編小説ではアカリと呼ばれている──



 ──困ったものですよ! 本当に困ったものですよ!


 アカリが真情の籠もっている声を出しながら、決して大きな身ぶりではないが、木綿の肌着に降りかかる粉を、肥って短く見える両手で払おうとする。「3・11」による大事故を起こした福島原発からもれた放射能物質が、肌着だけのアグイーが浮かんでいる東京の空に飛んでくることを心配して。アグイーの身になって……


 この「空の怪物が降りて来る」という章を読み終え、不思議な大きな感動に包まれた。久しぶりに胸に込みあげて来るものを感じた。

 すぐにオレは愛犬シーズーのシーを抱きしめた。




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