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『新しい人よ眼ざめよ』Part2



 短編連作集『新しい人よ眼ざめよ』の2作目の短編小説『怒りの大気に冷たい嬰児(えいじ)が立ちあがって』の最初のページに、『四つのゾア、古人アルビヨンの死と審判における愛と(ねた)みの苦悩』と名づけられている長詩の一部が引用されている。オレはこの詩こそが、この短編連作集『新しい人よ眼ざめよ』の心奥に流れつづけるテーマではないかと勝手に解釈し、それ以降のさまざまなな作家、さまざまな作品の読書体験においても、無意識にこの詩と同じテーマが描かれている小説を求めていたような気がしてならない。しかしながら今日にいたるまで、 ──貧しい読書量に過ぎないが── 大江健三郎の小説の他に、同じようなテーマが描かれた作品と出会うことはなかった。それゆえオレは1択するように、大江健三郎の作品群にのめり込みつづけていくことになったのだが……

 『怒りの大気に冷たい嬰児(えいじ)が立ちあがって』からその予言詩(プロフエシー)をそのまま記載する。


 《かれらは傷口を示し、弾劾し、圧制者をつかまえる/黄金の宮殿に叫び声があがり、歌と喜びの声は砂漠に響く/冷たい嬰児(えいじ)が憤怒の大気のなかに立つ、かれは叫ぶ、「六千年の間、幼くして死んだ子供らが怒り狂う。(おびただ)しい数の者らが怒り狂う、期待にみちた大気のなかで、裸で、蒼ざめて立ち、救われようとして」》


 とくにオレは、《冷たい嬰児(えいじ)が憤怒の大気のなかに立つ》という一節にこころを揺り動かされ、これも独りよがりにひとつの人類終末期の光景を映像としてイメージした。


 ──人類に滅亡の危機が訪れたとき、嬰児(えいじ)無垢(イノセンス)なもの=イーヨーが怒りの大気のなかに立つ。六千年もの永い間に幼くして死んだ子供らが怒り狂う。(おびただ)しい数の者らが怒り狂う。裸で、蒼ざめて、救われようとして、やがて訪れる期待=希望にみちた大気のなかで──


 この短編連作集は、イーヨーをはじめとする未来に生きる新しい人へ向けて書かれた小説だろう。しかしながら、日常生活において行き詰まったり、厭世的に陥ってしまったとき、この短編連作集を手にとりページを(めく)ってみれば、森の清流で顔を洗ったときのように徐々に心が恢復する自分を実感できるのではないか。ブレイクの予言詩(プロフエシー)に導かれ、無垢(イノセンス)な心に触れるのだから……



 今朝も薄明のなかを愛犬シーズーのシーと散歩をした。ラフマニノフのピアノ協奏曲第二番を聴きながら……

 底辺から色づく東の空をシーと一緒に見つめささやいた。


 ──シー、どこまでも一緒だよ!




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