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『ノルウェーの森』



 電子書籍の試し読みで、村上春樹の『ノルウェーの森』の第1章を、久しぶりに ──イヴの晩にマフラーに顔を(うず)め流れて来る山下達郎の「クリスマス・イヴ」を口ずさみながらひとりで繁華街を歩いたときのような── 懐かしい気持ちになって読んだ。彼の小説を読むのも久しぶりだったけれど……


 『ノルウェーの森』が発行されたのは、1987年(昭和62年)、当時は大ベストセラーになりとても話題になった。ちなみに、この年の11月には金賢姫による大韓航空機爆破事件が起きている。

 村上春樹は、それまで『風の歌を聴け』や『羊をめぐる冒険』などで好感を抱いていたので、ちまたで大きな話題になるとすぐに購入し読みはじめた。(たちま)ち引きこまれ、3日ほどで上下巻を読了したと記憶している。

 当時購入した単行本は、同僚の美人の女の子に貸したまま戻ってきていない。女の子と二人でお酒を飲みに行った際、『ノルウェーの森』を得意になってススメたため貸すことになってしまったのだ。下心はなかったか? と問われれば苦笑いするしかないのだが……


 今晩、あらためて『ノルウェーの森』の第1章を再読し、主人公の名前がワタナベであり、彼女の名前が直子だったことを思い出した。


 ──そんな名前だったんだ!


 しかも37歳になったワタナベが到着した空港が、ドイツのハンブルク空港だったこともすっかり忘れていた。ボーイング747が空港に到着し、機内のスピーカーからBGMとして「ノルウェーの森」が流れてきた。37歳になった彼はいつものように混乱する。そして、何ごとによらず文章にして書いてみないことには物事をうまく理解できないタイプのワタナベは、あらためて直子とのことを理解するため文章を書きはじめるのだ……


 第1章を読んだだけで、また引きこまれた。ワタナベと直子が草原を並んで歩きながら、直子が野井戸の話しをする。やっぱりと思った。生粋のハルキストなら常識かもしれないが、村上春樹の小説には、たびたび重要なアイテムとして井戸が登場する。デビュー作の『風の歌を聴け』でも、井戸の話しがあったほど。『ノルウェーの森』の第1章で、はやくも野井戸が登場していたことは、本当にすっかり忘れていた。村上春樹が、なぜ井戸を好むのかはわからないが……


 そして第1章の最後の1行に、当時とてもびっくりしたことをあらためて鮮明に思い出した。


 ──そう考えると僕はたまらなく哀しい。何故なら直子は僕のことを愛してさえいなかったからだ。



 『ノルウェーの森』は、村上春樹の長編小説の中では、めずらしく現実社会の中にとどまった自伝的要素 ──彼自身は否定しているが── の詰まった作品だ。

 また彼は『ノルウェーの森』は、基本的にカジュアルティーズ(犠牲者たち)についての話しだといっている。

 

 ──僕のまわりで死んでいった、あるいは失われていったすくなからざるカジュアルティーズについての話しであり、あるいは僕自身の中で死んで失われていったすくなからざるカジュアルティーズについての話しだ、と。



 今晩の愛犬シーズーのシーは、枕元でお尻をオレに向けて熟睡している。そしてオレはそっと「クリスマス・イヴ」を口ずさんでいる。





挿絵(By みてみん)




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