『蜂蜜パイ』
ある文学YouTuberが、村上春樹は長編小説だけでなく短編小説も素晴らしい作品が多いと、おススメの短編小説をいくつか紹介していた。たとえば『神の子どもたちはみな踊る』という短編集では『かえるくん、東京を救う』と『蜂蜜パイ』をとくにススメていた。さっそくオレはその新潮文庫の短編集を購入し、イチオシという48ページの『蜂蜜パイ』から読んでみた。 ──『かえるくん、東京を救う』は後日──
ちなみに調べてみると、短編集『神の子どもたちはみな踊る』に収められた6編の短編小説のうち『蜂蜜パイ』だけが唯一の書き下ろし作品で、その他の5編は『新潮』に「連作 地震のあとで」という副題付きで順番に掲載された。 ──阪神淡路大震災、村上春樹は兵庫県の西宮市と芦屋市で育っている──
まずオレは、《蜂蜜パイ》というタイトルを見て、《蜂蜜パイ》がどんな食べものだったかを思い出すために、ググって《蜂蜜パイ》のいくつかの写真を見た。あーこれが《蜂蜜パイ》だったか、むかし食べたことがあったはずだと、あらためて認識しながらやっと読みはじめた。
文章は平易でいかにも春樹らしい作品だったが、やはり阪神淡路大震災後の影響が作品に反映されていた。
主人公の淳平と親友の高槻に小夜子の大学の同級生3人がやや複雑に織りなす恋愛小説で、『ノルウェーの森』を彷彿とさせるところがあったが、もう少し光や希望が見い出せる作品だと思った。 ──村上春樹の主たるテーマの喪失からの恢復が描かれている──
3人が織りなす友情や恋愛模様について、どう感じるか? おそらく今までの人生でつらい恋愛経験をされたことがある方ならば、胸が痛み涙あふれる小説となるかもしれない。 ──オレは、こうした恋愛模様にまったくこころを動かされなかったが── この短編小説を読んでみて、こころに響くかどうか? つらい恋愛経験を思い返すかどうか? 試してみても面白いだろう。
結局、ある文学YouTuberがおススメしていたほど、何も響くものがなかった。それは単に今までオレが、純粋な恋愛をしていなかっただけかもしれないが……
最後にこの短編小説で、もっとも印象的だった文章を記してみる。主人公の淳平は短編小説家である。
──これまでとは違う小説を書こう、と淳平は思う。夜が明けてあたりが明るくなり、その光の中で愛する人々をしっかりと抱きしめることを、誰かが夢見て待ちわびているような、そんな小説を。
今朝も薄明 ──夜が明けてあたりが明るくなり、その光の中で── のなか、愛犬シーズーのシーと散歩をした。途中、シーを抱きあげ一緒に底辺から色づく東の空を眺めた。