忘れっぽい幽霊
こういうのは俺よりAOの方がいいんだけど…
夏の夜。
天野 装は眠れなかった。
「寝れない…」
暑すぎるのだ。
「どうしたの?」
二段ベッドの下から、彼女の姉、天野 刑華の声が聞こえる。
「ううん、なんでも…。ちょっとコンビニに行ってくる。」
彼女は髪を解いて、茶色の簡素なヘアゴムで後ろ結びをした。
パジャマを脱いで、白いシャツに着替えた。
「あ、私もジュース買ってきて〜。」
と呑気そうに姉が言った。
「わかったよ。お金はあとでもらうけどね。行ってきます。」
彼女はそう言い残して、電気を消して家を出て行った。
「…気をつけるんだよ。」
暗闇の中、薄く開かれた刑華の黄緑の瞳が鋭い輝きを放っていた。
「ありがとうございましたー。」
コンビニ店員の軽快な声を後に、装はコンビニを出て行った。
彼女がコンビニを出て曲がり角を曲がった瞬間。
「こんな道、あったっけ…?」
装は見たことのない道を発見した。
恐る恐る通ってみることにした。
彼女の好奇心は、彼女の敬愛する「先輩」すらドン引きする程強かった。
装はあまり舗装されていない道をずんずん突き進んだ。
腰に入れていた赤いペンライトを握りながら。
道は、どこまで続いているのだろうか。
ろくに舗装もされていない。
彼女はふと、後ろに誰か立っているような気がして、後ろを振り向いた。
…誰もいない。
代わりにそこには、一冊の手紙が落ちていた。
「たいへんかっこいい男だったわ。さすがは俳優よ。
しかばねのように時には静かでも、彼はまた凄まじい情熱を持っていて。
ろくでなしでもあったわ。彼の暴力はとても酷いし。
こういうのができかねないから、小さい頃からイケメンと言うのをやめろ。
外国に行くふりして。指輪の入っていたあの白い箱。
知らないふりをしていたのよ、私は。彼は彼の幸せの道を行く。
ただ、それなのにどうして?どうして死んでしまったの?猶予はたった一夜。
悪いのはあなただけど…一体誰があなたを殺したの?ひどいは…。。」
装は一読して、ふと気づいた。
この紙に、もう一枚便箋とボールペン、それに新聞記事が入っていたのだ。
そして、次の瞬間。
彼女は首を何者かに掴まれた。
とてつもない力だ。
後ろをみると、抉れた目が4個あり、足はアシダカグモのようになって、耳は変な方向に曲がり、鼻はそがれた女がいた。
装は慌てて便箋にペンを走らせた。
「夜、鐘はなる。
すらりとした男はタキシードをまとう、奥の化粧室で。
デブな女はドレスを切る、アーメン。
樽には腐りかけた酒とひぐらし。
名乗る山羊は吠える山頂。
愚かなるものには見えないかも。」
装はその紙切れを、女に見せつけた。
女は、しばらくそれを見た後、唖然とした表情を浮かべた。
そして、「アアアアアアアアアアアアアア!!!」
と世にも恐ろしい断末魔をあげて消えてしまった。
装は、思わず耳を塞いだ。
だが、女の断末魔は彼女の頭に染み込み続け、グワングワンと彼女の頭を鳴らす。
装は、その場に倒れてしまった。
ハッと起き上がった。
起きると、彼女は自分の家で寝ていた。
「………」
装はポケットに何か入っているのを感じて、取り出した。
それは一枚の新聞記事だった。
そこには、一人の女がある俳優をストーカー、殺害して逮捕された事件が載っていた。
彼女は発見当時男からの反撃で全身がボロボロの状態だったらしい。
また、「自分が妻だ」などと意味のわからない供述をして、彼の本物の妻を殺害したということだ。
前だけじゃないよ。
後ろもだよ。
ホラーというより、練習だな、これは。