エードルフ、友人と外食する
3人分のエールを器用に抱えて、俺達の席に女性給仕がやって来る。
女性にしては小柄でエールの入ったジョッキの方が大きく見える小さな顔には、ほんの少しそばかすがあり、すみれ色の髪は二つに分けて結いあげてあった。
うん。仕事熱心でなかなか好ましい娘だ。
今日はこの娘が俺達のテーブルを担当するらしい。
「いらっしゃい! ユリウスさん! 今日も来てくれてありがとう!!」
ドン、と3つのジョッキと、どこに隠し持っていたのやら、席料のピクルスも目の前に置かれた。
「やぁ、ウーラ。今日も綺麗だね。今日はオースティーサラミの盛り合わせと鳥レバーのリエット、あとアレ、こいつらに食わせやって」
何かユリウスの声が一段低くなってるけど、指摘はやめよう。
「ふふっ。かしこまりました! 少々お待ちくださいませ!!」
ウーラはキラキラしたピンク色の瞳をユリウスに向け、明るい声で返事をすると、くるりと踵を返して弾むように厨房に戻っていった。
「ははぁ。目的のリボンはあの娘って事ですね?」
俺達は各々のエールのジョッキを持ち、乾杯する。
「そそ! な。すっげぇ可愛いだろ? 俺、あの娘のリボン欲しいんだよねぇ」
「ふーーん。ウーラちゃんねぇ……。ユリウスなら大丈夫じゃない? さっさと先約しとけば?」
俺は適当に返しつつ、ぱりぽりと出されたきゅうりのピクルスをかじる。
うん。酸味も控えめで俺の好みだ。
「ほんっと、エードルフって顔はいいのに、女の子に興味ナシだな。王家の将来って大丈夫なの?」
ユリウスはそう言って同じようにポリポリときゅうりをかじり、エールをあおる。
「さぁ。どうでしょうか。私も心配ですねぇ、主にエードルフ様の老後が」
エールを一口飲み、ルドヴィルは残念な表情で俺を見る。
「うっさいユリウス。つーかルドヴィル、そこは否定しろよ! 大体俺一人結婚しなくたって王家は安泰だよ。老後のためにも今はちゃんと卒業して就職しないと」
俺は香辛料の効いたサラミをもしゃもしゃと噛み、塩気をエールで流しこむ。
うーん、このサラミも美味いな。オースティーのサラミってこんな感じなのか。
ブラウルムで食べられてるサラミより柔らかくて肉っぽい。
予約の取れない人気店だけあるよ。
これは他の料理にも期待だな!
「お前達はいいよなぁ、既に就職先決まってて……おっ、来た来た!!」
ユリウスは薄切りにして焼いたパンにリエットを塗り、急いで口に放り込む。
「お待たせ致しました。干し魚の潰し芋焼きです!」
さっきのウーラちゃんが熱々の皿をテーブルに置いた。
何これ? 俺は運ばれてきた料理に釘付けとなった。
「見た目、寮でいつも食べてる潰し芋を焼いたみたいだけど……」
「ふっふっふ。これ芋の下に白身魚があるんだぜぇ。まぁ食べてみ!!」
ユリウスはカツカツと食器に大きな木の匙を突き立てて、料理を取り分けて俺に寄越す。
焼きたてでふわふわと白い湯気が立っていて、確かに下が白身魚でその上にチーズ、そして一番上がつぶし芋だ。
全体的に白くて、芋と魚の間の少し黄色いチーズがとろけていて、とてもうまそうだ。
早速ひと口、木の匙で口に運ぶ。
「うん。なんだろう……。この魚、香草か香辛料で煮てあるのかな?」
「ええ。とても良い香りですね」
魚はすっかりほぐされていて、何かしっとりとスープっぽいのを含んでいる。
芋とチーズが口の中で相まって、すごく美味しい。
「おっ。エードルフ当たり。干した白身魚を戻して香草とミルクで煮てほぐしてあるんだ」
オースティーには海があり魚は獲れるけど、へき地の高地だと鮮度を保った魚は飛空艇で運ばれる高級品。
庶民にはこうした干し魚が一般的なのだという。
「へぇ。じゃあとても手間がかかってるな。骨もとってあって……。このじゃがいももとても滑らかでクリームみたいだ」
「そうですねぇ。とても上品な口当たりで、これは確かに女性が好みそうなお味ですね」
「だろ? 作る手間がかかるから祝いの時にしか出さないんだってさ!」
だけど、これにはエールより白葡萄酒が合いそうだ。
ちょうどエールもなくなったので、3人で辛口の白葡萄酒を頼む。
「そうそう……話は戻るけどな。お前達って卒業後は王宮近衛に仕官決定だろ? いいよなぁ、就職活動しなくていいって」
つぶし芋をつつきながらうらやましそうにため息をつく。
「ユリウス……決まってる方が大変だぞ。下手な成績取れないんだから」
そう言って俺もため息を一つついた。
王宮近衛は私人の王族の側近くにもいるから、口が堅く成績優秀者しか入れない。
2年間の成績に加え有力貴族の推薦状、素行、性格、品格……そういったものが総合的に判断され、初めて入団が許可されるのだ。
俺は家族枠といっても、実際の選考に配慮などされない。
成績はちゃんと取れてないと入れないし、入れなかったら入れなかったで父上や兄上に恥をかかせることになる。絶対に入らないといけないのはとても重圧だ。
「ルドヴィルはどうするの? やっぱりエードルフ付きだから近衛か?」
「さぁ、どうしましょうか。家の騎士団に所属しつつエードルフ様につくか、家を出て王宮近衛としてつくか。悩みどころですね」
「なんだかんだお前が一番楽そうだな。成績はいいから近衛も行けるし、何たって実家はあのグリューネヴァルト騎士団本部だもんなぁ~」
羨望のため息交じりでユリウスは白葡萄酒を手酌で注いだ。
グリューネヴァルト家は筆頭貴族の公爵家。領地も大きく騎士団も大規模だ。
代々当主は宰相職も兼任するから、先代や子供達が騎士団を見ている。
だから四男であるルドヴィルは家を継がなくとも、手伝いのために残る選択肢がある。
「ウチはいつでも門戸を開けておりますよ。いかがです? 一緒にオースティーの国境警備は」
「ああ、あそこね……。ってそこ、国境砦の警護と普段でも魔力が濃くて魔物がよく出る最前線じゃねぇか! 俺、王都出身なんだよ!!」
ルドヴィルの家の領地は王都の南方に位置し、オースティー帝国との国境は、聖女様がいても魔物が湧きやすく不安定な場所。
だが、危険故に給金も高く設定されていて、短期で金を貯めたい者には人気もあり、卒業後に国境警備の志願をする者も多い。
「エードルフは近衛、ルドヴィルは実家か近衛、俺どうしようかなぁ……」
「近衛じゃなくても王都にもいくつか騎士団あるし、実家が出入りの家の護衛騎士とかは?」
護衛騎士なら前線出ることないし、主に家の娘や奥方のエスコートや送り迎えが仕事だ。基本死ぬことはない。
ウーラちゃんを心配させなくていいから気も楽だろうし。
「騎士団は競争率半端ないし、護衛騎士は伝手がないんだよ。やっぱ地方狙うかなぁ」
ユリウスの実家は商会をやってるけど、主に物流隊商のギルドを中心としていて、あまり国内貴族とは関わったりしていないらしい。
あっても国外の貴族だったり役人だったりで、護衛騎士に紹介してくれそうな人がいないのだという。
「へぇ。いいなぁ国外。俺も行ってみたい」
「エードルフ様が国外となると国境門での手続きが大変ですから。ぜひ新婚旅行で行ってください」
「ええ!? 俺は卒業したら遊学にバルドとか行ってみたいぃ~。シュヴァルツヴァルトの領地も近いし」
バルドは武の国で剣技の発祥の地。剣技を学んで、美味しい物いっぱい食べて、観光するのもいいな。
視察でお供がぞろぞろついてきて興味ないものを長々と解説されたり、冷めた晩餐に気を使う会話より、好きな物を好きなだけ見て、食べて、観光したいよ。
「殿下の場合、護衛の手配に逗留の手配もあります。新婚旅行を兼ねた外遊ということなら許可は下りやすいかと」
ちっ。ここでも結婚をぶっこんできたな。狡猾ルドヴィルめ。
年下の癖に生意気だぞ。
「ぜーーったい嫌。俺、結婚しないもんねー!!」
と、舌を出して煽れば、
「嫌って、お前子供か!!」とユリウスは呆れ、
「おや、残念ですねぇ。それではバルド訪問は一生なしですよ。諦めましょうね」
と、ルドヴィルは煽りも効いておらず、余裕の涼しい顔をして言い聞かせてくれた。
「こんなお子ちゃまは置いといて……ルドヴィルは結婚すんだろ?」
「もちろんしますよ。もう少し落ち着いたら、ですが」
「お!? なら一緒にリボンの先約行くか?」
「許嫁のリボンをもらう予定ですので、ご遠慮します」
「許嫁! 結婚まで決まってるとか、後は遊ぶだけじゃねぇか。羨ましい!!」
おい、お前ら。本当に置いておくな。ちゃんと拾えよ。
寂しくてすねちゃうぞ!!