エルフリーデ、つきまとう
王立学院の基礎科を終えて以来、久しぶりの学院です。
私は木々も色づく秋の日に、聴講生として再入学いたしました。
聴講生とは基礎科のみで学院を辞めた者が、専科を志望するときの編入試験の補習として、聴講生の許可を得ることができます。
聴講生には試験も何もなく、学院を辞めて2年以内に授業料さえ払えれば誰でも聴講生になることができるのです。
私は殿下との結婚も控えていたため、基礎科のみで終了しましたが、辞めたことに後悔はありません。
婚約者や婚姻を控えた女性が学院を途中で辞めるのは良くあることですし、私、お勉強や政治は得意ではありませんでしたからちょうど良かったと思います。
お父様も「勉強より殿下と結婚するのだから、社交やお茶会で殿下の為になる人脈を作りなさい」と申してもいましたので、そちらに力を入れることにしました。
聴講生になったのは、殿下が騎士専科へ再入学なされたと聞いたからです。
リーフェンシュタール家が王宮にいくら問い合わせも、面会を申し入れても、殿下にお目にかかることができませんでした。
ならば学院内で生徒同士として顔を合わせてお話しする機会が得られればよい、そう期待して聴講生になりました。
お話しさえできれば、すぐにでも殿下は私と契約を結びなおしてくれるはずですもの。
ですが、いくら月が巡っても私は殿下とお話する機会を得られませんでした。
大抵、殿下付きのグリューネヴァルト家の子息、ルドヴィル様が私を目の敵にして殿下の側に近づかせてくれないのです。
一度、学院内の図書館で殿下をお見掛けし、ご一緒しようと近づけば、
「殿下の回りをウロウロするのはお止めください。エルフリーデ嬢」と、私に話しかけさせまいとするのです。
ルドヴィル様は、私にとても意地がお悪いのです。
私と殿下が良き仲になるのがそんなにお嫌なのでしょうか。
ああ、きっとルドヴィル様は殿下のご寵愛を失うのが怖いのですね。
私は女性で結婚すればずっとに一緒いられますし家族にもなれますが、男性であるルドヴィル様はずっと一緒という訳には参りませんもの。おかわいそうに。
私達が結婚したら、そういったことにも気を配らねばなりませんね。
「ルドヴィル様。何故私と殿下の邪魔をなさるのですか?」
「殿下は貴女とお話しされたくないからですよ」
「そんなことはありませんわ。勝手に決めないで下さいませ!!」
ルドヴィル様は一事が万事この調子で、私はいまだに挨拶すらさせてもらえません。
元々騎士専科は男女別な上に寮生活。ただでさえ聴講生と専科生で接点は少なくなってしまっているのに、気ばかり焦ります。
最近は騎士専科の女性と仲良く訓練や魔術をご教示されていると聞き及んでおります。
エードルフ様は私の婚約者なのに。平民の女ごときが殿下のお側に上がるなど思い上がりも甚だしい。身の程を弁えて頂きたいものです。
いいえ、いいえ。こんな小さなことで腹を立ててはいけません。きっと月は私を試しておいでなのでしょう。
青き月の末裔たるエードルフ殿下が愛するにふさわしい女性であるかどうかを。
ですが、このまま話もできないままではいられません。私が聴講生でいられるのは6か月間だけ。
急がないと聴講生でいられなくなってしまいます。
少し考えて思いたちました。
そうですわ! 次のプルファ祭の舞踏会に出席しましょう。
あれは王宮主催で慈善活動の資金集め。切符さえ買えば誰でも入れるのです。
裕福な商人や貴族しか参加しない、少々高額な切符ですが。
王宮が主催なので王族であるエードルフ殿下もおいでになりますから、そこでお目にかかりましょう。
お父様が責任者となっている“孤児支援育成基金”だって慈善事業。
お父様は王族である殿下に必ずご挨拶なさいますし、そこに娘の私がいてもルドヴィル様には止める権利などございません。
――舞踏会でお会いしてリボンを解いて頂き、殿下の私室で……。
まぁ! 私ったら殿下をお相手になんてはしたない事を。いけない事です。
ああでも。最近の殿下は魔術専科時代に長く伸ばしていた青い髪もばっさり切って、短い髪と長身がとても精悍で雄々しくて魔術師時代とは違ったお美しさなのですもの。
あの騎士らしくたくましいお身体と腕の中に抱きしめられて、少しかすれた声で愛を囁き、名前を呼ばれたらと思うと、想像しただけで胸が高鳴り、私はどうにかなってしまいそうです。
そのためにも、まずドレスを新調しなくては。
ドレスだけではなく、綺麗なアクセサリーに素敵なコルセットにレースの靴下に靴。
外側だけでなく中身も綺麗にしましょう。お茶会で評判のお店、“シェーナ”に予約を入れて全身を磨き上げ、美しい髪型にするのです。
どちらも急いで予約しないと当日に間に合いません。
私は早速侍女のセレーネを使いに出しました。