孤児院の真実(兄上2)
――それから数日後。
私はクラウスからの報告書に目を疑った。何せ基金が半分にまで減っていたのだから。
「どうしてそうなっておる!!」
「リーフェンシュタール伯は借金があったようで、その返済に使われたようです」
リーフェンシュタール家は私達が考えていたよりずっと経済状況が悪かったらしく、見合いの話の時点で既に借金がかなりあったらしい。
それでもエードルフが婿入りする際の持参金で何とかしようと、体裁を繕うため更に借金を重ねての婚約破棄。
とうとう領地の収入だけでは、どうにもならなくなったという。
「現在基金は半分ほどとなっており、滞っている申請分の金額を分配すれば、運用益が減少してしまいます」
そうなのだ。この基金は元々運用益で回し、申請分はこの運用益を上回ることはないように計画されていた。
そのため基金が増える事は想定されていても、半額まで減るなど想定していない。
「かといってほおっておくことはできぬ。滞っている申請の総額を至急計上し、実際どのくらい必要かを早急に算出せよ」
クラウスは頷いて「基金損失はいがかなさいますか?」と問う。
「半額……。とりあえず予備費で四分の一を補填、残り四分の一……。そうだ! 明日のプルファ祭の出し物で“つむじ風のレオンの魔術芸”でも披露して…」
ちょうどトールに話してやった見世物の事を思い出す。
王宮広場にいつも来る移動の芝居小屋の舞台を借りて出し物をそこでやるとか。
そうだな。演目は懐から猫を出し、その猫が転じて人になるとか。芝居小屋の者に協力を頼んでの立ち回りなどもよいかの。
あとは見た目が楽しめる幻術なども良いな。中央の噴水や花火と組み合わせてばばーんと町中を幻想に取り込んでしまうとか。
ふむふむ。いいじゃないか!! これは準備をせねば……。
とせっかくの気分に、クラウスは水を差すような一言を言った。
「それではまったく足りませんよ。もっと普通に稼ぎましょう。明日の王宮主催の舞踏会と後日、妻と妃殿下のサロンで寄付を募ります。殿下の魔術芸はそちらで披露なさって下さい」
「貴族相手では誰も驚いてくれぬではないか!」
私は思いっきり口を尖らせた。
ああいうのは“わぁーカッコいい!”とか“すご〜い!!”と言われてこそなのに。
でも、ご婦人方は恋愛物が好きだから、愛し合いつつも運命に引き裂かれる騎士とかも良いかもしれない。
ふむ、私が令嬢役でエードルフに騎士役を頼むとするか。
「そんな些末な事より、どうなさいます? リーフェンシュタール伯は公金横領で勾留してありますが」
「どうもこうも……。罪は罪。しかるべき裁定を。任せる」
ここで私が甘い顔はできぬのだ。
綱紀に慣れ合いを持ち込めば、今後ロクな事にならぬ。
「かしこまりました。損害額には足りませんが、領地の没収と私財の処分、爵位の返上となるでしょう」
まあ、そんなものだろうな。
「後任は……、エードルフにでもさせて信頼回復に努めよ」
「殿下はまだ学生ですが?」
「実務など信頼のできる者に任せ、エードルフは名と休暇時の慰問だけでよい。悪くなった心象を早急に回復させよ」
エードルフは庶民人気があるし、本人もうまく立ち回れる。
こういったことの広告に使うのは最適だ。
それに一緒に慰問の機会があるかもしれないからな。ふふふ。
「承知致しました。殿下へはルドヴィルを通してお伝えします」
それよりも今は、まだ先の慰問より目先の事だ。
突然山積みになった仕事にめまいを覚えた。
「今から私は寝ずに働かねば、明日のプルファ祭の晩餐も舞踏会も出席できぬでないか!!」
せっかくエードルフが休暇で戻ってくるというのに。
一緒の晩餐もなしとは、兄は泣くぞ。
「そうでございますね。晩餐は欠席、舞踏会はエードルフ様に王妃様のエスコートを依頼致し……」
「いーや。ぜーーーったい私は両方出るぞ!」と、引き出しを開けて、魔力水を一本開けて一息に飲んだ。
どんな困難でも、エードルフの笑顔と魔力水さえあれば乗り越えられる……多分。いや絶対に!!!!




