孤児院の真実(エードルフ)
全く兄上ときたら。また俺の後をつけてきたのか。
魔術専科時代も時々ついてきていたけど、俺の後をつけて一体何を見たいのか。
今日こそはっきりさせよう。
事情を知ってそうなルドヴィルからも後で話を聞かないと。
だって兄上だけだとウソつかれるかもしれないし。
その兄上が捕まえた子供達は男の子4人、全員孤児院で暮らしている子供達だそうだ。
どの子も手癖はともかく、話せばちゃんと聞いてはくれる子供達で少し安心した。
一番上が主犯のトール、7歳。口も手も達者だ。
リックとセーヤは6歳、一つ下のノーヴェの面倒をよく見ており、年の割にはしっかりしていた。
そのノーヴェは5歳。おとなしくて恥ずかしがり屋なのか、リック達の後ろに隠れて口数は少なかったがとても笑顔の可愛らしい子だ。
「なつかしいの。初めてエードルフと顔を合わせた時もあんな感じだった。リーゼマリー様のスカートの後ろに隠れて、なかなか顔を見せてくれなんだ」
兄上はあらぬ方向を見て、何か良からぬ事を妄想している様子だ。
これはまずい。何とかして口をふさがないと。
「あれほどいとけない“初めまして、兄上……”は、もう……一生忘れられぬ。絵姿を残すべきだった!!」
兄上は何やら思い出して、ほぅ、とため息をついている。
絵姿なんて残ったら、国中ににその話が伝わって……俺は一生外を歩けない身の上になる。
想像してぶるりと背筋が寒くなった。
「……さっさと忘れてください、兄……レオン。その発言は周囲に誤解を与えます」
ほら見ろ。子供達はすっかり固まってるじゃないか。
せっかく兄上の事をごまかしたのに。
「レオン様の時は可愛らしいものですが、私の時はとても荒れてまして。当時まだ6歳の年端も行かぬ私に……」
こちらもはぁ、と物憂げな女のようなため息をついた。
「おお、聞いておるぞ! 確か“何故私が面倒見なくてはならぬ!!”と言ったそうだな」
ルドヴィルは大きく頷いて思いっきり肯定した。
だって、ルドヴィルは俺の学友兼話し相手と聞かされてたのに、俺より4つも下な癖に、勉強も武芸もずーっと先を行ってる子を連れてこられたら、誰だって凹むに決まってるだろ。
何やっても敵わないから早々に諦めがついたけど。
「うわぁ、殿下サイテー。そん時お前10歳だろ!? 年上なら気使ってやれよ」
俺の暴露話にユリウスまで調子に乗る。
うるさいぞ。ユリウス。
お前の口には豆菓子を突っ込んでやろうか。
「二人とも。孤児院で話を聞くのでしょう? さっさと行きますよ!!」
俺はリックやセーヤの手を引き、小路から大通りに出た。
私達と兄上は子供達をに連れられて、孤児院に向かう。
道すがら、子供に自分は“つむじ風のレオン”の友人、と説明した。
ちょっと苦しい理由かな。でもリックとセーヤは、噂話や姿絵ではない、実物の“青の殿下”を初めて見て興奮した様子で、兄上には関心を示さなかった。
俺の名も少しは役に立つな。
「かっけぇ~!! 初めて見たよ“青の殿下”」
「よく城下町にお忍びで来るって、本当?」
二人は目をキラキラさせて尋ねてくれる。
「ああ。よく来ているよ。今日は武具や防具の手入れで来たんだ。お忍びだから、あまり人には話さないでくれるとありがたい」
二人は顔を見合わせ、真面目な顔で頷いた。
「わかった! 話さない」
俺は「そうか、頼むぞ」と二人の頭を撫でると、くすぐったそうな、照れくさそうな何とも言えない表情が胸のあたりをほわんと温かくしてくれた。
あれ。意外とかわいく見えて、当時の兄上の気持ちがわからなくも……ないかもしれない。




